連載【一粒の果実が教えてくれたこと】 第4話
第4話 乾かせば、どんな果物でも美味しくなる?
「じゃあさ」
休日の午後、健一が突然言った。
「ドライフルーツって、どんな果物でも作れるのかな?」
美紀は、テーブルの上に並べた果物を見た。
リンゴ。
バナナ。
キウイ。
イチゴ。
そして、ブドウ。
「乾かせば、全部ドライフルーツになるんじゃない?」
「たぶん作ることはできるんだろうけど……」
健一は少し考えた。
「全部が美味しくなるとは限らないんじゃないか?」
「どうして?」
「だって、果物って一つ一つ全然違うだろ」
昨日まで、二人が見ていたのは「乾燥」という加工方法だった。
今日は、その前にあるもの。
「乾燥させる果物そのもの」
について考えてみることにした。
同じ「果物」でも、中身は違う
まず、二人はそれぞれの果物を食べ比べてみた。
リンゴはシャキッとしている。
キウイは柔らかく、酸味がある。
バナナはねっとりしている。
イチゴは香りが強く、みずみずしい。
ブドウは皮の食感があり、果汁が多い。
「こうやって並べると、全然違うね」
美紀が言った。
「うん」
「じゃあ、乾燥させたらどうなるんだろう?」
そこが問題だった。
乾燥という同じ加工をしても、もともとの果物が違えば、仕上がりも違う。
甘さ。
酸味。
香り。
食感。
皮の厚さ。
果肉の硬さ。
水分量。
それぞれの特徴が、乾燥後の味や食感に影響する。
つまり、
「ドライフルーツの美味しさ」は、乾燥方法だけで決まるわけではない。
原料となる果物そのものが重要なのだ。
「甘い果物」なら、何でもいいのか?
健一はブドウを一粒つまんだ。
「じゃあ、甘い果物を選べばいいんじゃない?」
「それだけじゃないんじゃない?」
美紀が答えた。
「だって、甘くても香りが弱かったら?」
「確かに」
「酸味が強すぎたら?」
「それもあるな」
「皮が硬かったら?」
健一はブドウを見た。
「なるほど……」
果物の味は、「甘い・甘くない」だけでは決まらない。
甘味。
酸味。
香り。
食感。
そして、それぞれのバランス。
生で食べたときに美味しい果物と、乾燥させたときに美味しい果物は、必ずしも同じ条件ではないかもしれない。
乾燥によって水分が減れば、味の感じ方も変わる。
そのため、生の状態では気にならなかった特徴が、乾燥後には強く感じられることもある。
逆に、乾燥することで魅力が引き出される果物もある。
「つまり、乾かしてみないと分からない部分もあるんだ」
「でも、果物の特徴を知っていれば、向いているかどうかを考える材料にはなるよね」
果物の「旬」も関係する
さらに調べていくと、二人は「旬」という言葉に行き着いた。
同じ果物でも、収穫する時期によって味わいが違う。
熟し方が違えば、甘さや酸味、香りも変わる。
「これって、生で食べるときだけの話じゃないよね」
健一が言った。
「乾燥させるなら、原料の状態も大切になるんじゃない?」
その通りだった。
ドライフルーツは、乾燥させる工程だけを見れば完成する商品ではない。
その前に、
どんな果物を使うのか。
どの状態の果物を使うのか。
という選択がある。
そして、その選択が最終的な味わいにも関係してくる。
だからこそ、ドライフルーツを選ぶときには、
「どんな加工をしているのか」
だけではなく、
「何を原料にしているのか」
を見ることが大切になる。
「国産」という言葉だけでも分からない
健一はネットショップの商品ページをいくつか見比べていた。
「国産ドライフルーツって、結構あるな」
「そうだね」
「でも、国産って書いてあれば全部同じじゃないよな」
美紀も画面をのぞき込む。
原料となる果物。
産地。
品種。
砂糖の使用。
添加物。
加工方法。
商品の説明を読むと、それぞれ違いがある。
「『国産』というのは、一つの判断材料にはなるけど、それだけで商品の全部が分かるわけじゃないんだね」
「うん」
食品を選ぶときに大切なのは、一つの言葉だけで判断しないこと。
「国産だから良い」
「無添加だから良い」
「砂糖不使用だから良い」
と単純に決めつけるのではなく、
その商品が、どんな原料を使い、どのように作られているのか。
そこまで見て初めて、商品の特徴が理解できる。
健一は少しずつ、食品を見る目が変わってきたことを感じていた。
「乾燥技術」だけでは作れない味
「そう考えると、ドライフルーツって結構難しい商品なんだな」
健一が言った。
「どうして?」
「乾燥するだけだと思ってたけど、そうじゃない」
まず、果物がある。
その果物にも品種がある。
同じ品種でも、育った環境や収穫時期によって状態が違う。
そして、それをどう乾燥させるかという加工がある。
つまり、
原料と加工、その両方が大切。
どれだけ優れた乾燥技術があっても、原料の特徴が商品の目的に合っていなければ、理想の味にはならないかもしれない。
逆に、良い原料を使っていても、その特徴を活かせない加工をすれば、魅力が十分に伝わらない可能性がある。
「素材を活かすって、簡単なようで難しいんだね」
美紀が言った。
「そうだな」
健一はうなずいた。
果物の個性を消さない
健一は、袋の中のドライフルーツを一粒取り出した。
「これを食べたときに、『ドライフルーツの味』だと思ってたけど……」
「うん」
「本当は、その前に『果物の味』があるんだな」
その言葉に、美紀も納得した。
ドライフルーツは、何もないところから味を作る食品ではない。
もともと果物が持っている、
甘さ。
酸味。
香り。
食感。
そうした個性を、乾燥という加工を通して別の形で楽しむ食品なのだ。
だからこそ、
原料となる果物の選択が重要になる。
何を乾燥させるのか。
どの品種を使うのか。
どんな果物を選ぶのか。
それによって、完成するドライフルーツの個性も変わってくる。
「では、どんなブドウが向いているのだろう?」
夕方になった。
テーブルの上には、まだ生のブドウが残っている。
健一は、その一房を眺めた。
「そういえば……」
「何?」
「ブドウって、ものすごく種類が多いよな」
「確かに」
「じゃあ、ドライフルーツにするなら、どんなブドウがいいんだろう?」
二人は再びスマートフォンを手に取った。
ブドウには、さまざまな品種がある。
甘さも違う。
香りも違う。
皮も違う。
果肉も違う。
同じ「ブドウ」という名前でひとまとめにできないほど、それぞれに個性がある。
その中で、トーチが選んだのが、
ナガノパープル。
そして、
シャインマスカット。
「どうして、この二つなんだろう?」
美紀が聞いた。
健一は画面を見ながら答えた。
「それを知るには、まずこの二つのブドウそのものを知らないといけないな」
今まで二人は、
「ドライフルーツとは何か」
を学んできた。
次は、
「何をドライフルーツにするのか」
という話になる。
そしてそこには、単なる「甘いブドウ」というだけではない、品種それぞれの個性があった。
一粒の価値は、原料から始まる
その夜、健一はノートに一つの図を書いた。
果物
↓
品種
↓
収穫・原料の状態
↓
乾燥
↓
ドライフルーツ
「なるほど」
美紀が横から見た。
「一番最初にあるのは、やっぱり果物なんだね」
「そう」
「じゃあ、良いドライフルーツを知るには、良い果物とは何かを知らないといけない」
健一はうなずいた。
ドライフルーツの価値は、袋に入った瞬間から始まるわけではない。
そのもっと前。
果物が育つところから始まっている。
そう考えると、今まで何気なく食べていた一粒のドライフルーツも、少し違って見えてくる。
そして次回からは、その「原料」に目を向ける。
なぜナガノパープルなのか。
なぜシャインマスカットなのか。
そして、この二つのブドウには、どんな個性があるのか。
健一は、まだ知らない。
一粒のドライフルーツの背景には、果物を育てる人、品種を選ぶ人、加工する人、そしてその果物を届けようとする人たちの存在があることを。
――第5話へ続く。
第4話のポイント
今回覚えておきたいのは、次の4つです。
① 乾燥させれば、どんな果物でも同じように美味しくなるわけではない。
② 果物の品種・甘味・酸味・香り・食感・熟し方などが、仕上がりに影響する。
③ ドライフルーツは「乾燥方法」だけでなく、「原料選び」も重要。
④ 商品を選ぶときは、「国産」「無添加」など一つの言葉だけでなく、原料と加工の両方を見ることが大切。
ドライフルーツの価値を知るとき、
「どう乾かしたのか?」
だけを見るのでは足りません。
その前に、
「何を乾かしたのか?」
を見る必要があります。
だからこそ、次回からは、トーチが選んだ二つのブドウ――ナガノパープルとシャインマスカットに注目していきます。

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