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エッセイ

連載【一粒の果実が教えてくれたこと】 第3話

第3話 「甘い」の正体――砂糖を入れなくても、果物は甘い

「やっぱり、これが一番気になるな」

朝食を終えた健一は、昨日からテーブルの上に置いてあるドライフルーツの袋を見つめていた。

「何が?」

美紀がコーヒーを飲みながら尋ねる。

「甘さだよ」

「まだ気にしてたの?」

「だって不思議じゃないか」

健一は一粒つまんだ。

「生のブドウも甘い。でも、ドライフルーツにすると、もっと甘く感じる」

「砂糖が入っているからじゃないの?」

「それなら簡単なんだけどな」

健一は袋を裏返した。

原材料名を確認する。

「……これ、砂糖って書いてないぞ」

「本当?」

美紀も袋をのぞき込んだ。

二人は顔を見合わせた。

「じゃあ、どうして甘いんだろう?」

昨日から続いていた疑問が、いよいよ一つにつながりそうだった。


果物は、もともと甘い

健一は調べ始めた。

すると、最初に分かったのは、とても当たり前のことだった。

果物そのものが、もともと甘い。

ブドウも、リンゴも、みかんも、桃も、それぞれに自然な甘みを持っている。

もちろん、品種や成熟度、収穫時期などによって味わいは変わる。

同じブドウでも、いつ食べるかによって甘さの感じ方が違うこともある。

「そうか」

健一が言った。

「ドライフルーツが甘いんじゃなくて、もともとの果物が甘いんだ」

「それを乾燥させるから、甘さを感じやすくなることがあるんだね」

美紀が続けた。

ここで、昨日学んだことがつながった。

果物には水分が多い。

その水分が乾燥によって減る。

すると、果物の大きさや食感が変わる。

そして、味の感じ方も変わる。

つまり、

「乾燥したから甘さが新しく生まれた」のではない。

果物がもともと持っていた甘みを、違った形で感じるようになるのだ。


生のブドウと、ドライフルーツを食べ比べてみる

その日の休日。

健一と美紀は、スーパーで生のブドウを買ってきた。

テーブルの上に、生のブドウとドライフルーツを並べる。

「食べ比べてみよう」

健一が言った。

まず、生のブドウを一粒。

口に入れる。

皮を噛むと、果汁が広がった。

「やっぱり、みずみずしい」

美紀も食べる。

「甘いけど、さっぱりしてるね」

次に、ドライフルーツを一粒。

噛んでみる。

今度は、歯に少し弾力があり、噛むほどに味が広がっていく。

「同じブドウなのに、全然違う」

「うん」

生のブドウには、水分の多さからくるみずみずしさがある。

ドライフルーツには、水分が減ったことによる独特の食感と、甘みを強く感じやすい特徴がある。

どちらが正解ということではない。

同じ果物でも、加工によって違った楽しみ方が生まれる。

健一は少し感心した。

「乾燥って、果物を保存するだけじゃなくて、食べ方そのものを変えるんだな」

「そう考えると面白いね」


「砂糖不使用」と「甘くない」は違う

そのとき、美紀が袋を指差した。

「でも、『砂糖不使用』って書いてある商品なら、全部同じように甘いの?」

「どうだろう」

二人は考えた。

ここにも大事なポイントがある。

砂糖を加えていないからといって、すべての果物が同じ甘さになるわけではない。

果物そのものの品種が違えば、味も違う。

成熟度が違えば、味も違う。

原料となる果物の状態が違えば、仕上がりも変わる。

さらに、乾燥の方法によっても食感や風味は変わる。

だから、

「砂糖不使用だから甘い」のではない。

正確には、

「果物そのものの甘みを活かしている商品では、砂糖を加えなくても果物由来の甘さを楽しめる場合がある」

ということだ。

健一は袋の表示をもう一度確認した。

「結局、ここでも原材料を見ることが大切なんだな」

「そうだね」

ドライフルーツを選ぶとき、

「甘そう」

という印象だけで判断するのではなく、

何が原材料として使われているのか。

そこを見る。

それだけで、商品の違いが少し分かるようになる。


「甘いもの」と「甘さを足したもの」

健一は、ふと別のことを考えた。

「なあ」

「うん?」

「甘いものって、全部同じじゃないんだな」

美紀が首をかしげる。

「どういうこと?」

「例えば、砂糖を使って甘くした食品もある。でも、果物そのものが甘い食品もある」

「確かに」

「だから、『甘い』というだけじゃ、何から甘さが来ているのか分からない」

これは、食品を選ぶうえで意外と重要なことだった。

「甘い」という味覚だけでは、原材料や製法までは分からない。

だからこそ、食品表示を見る。

砂糖が使われているのか。

果物だけなのか。

その他の原材料は何なのか。

商品の特徴を知るには、表面のキャッチコピーだけでなく、裏側を見ることも大切なのだ。


自然派食品は「何も入っていない」ことだけが価値ではない

「じゃあ、自然派食品って、何も入っていない食品のことなの?」

美紀が聞いた。

「うーん……それだけじゃないと思う」

健一は答えた。

自然派食品という言葉を見たとき、人によってイメージは違う。

農産物そのものを大切にしている商品。

加工をできるだけシンプルにしている商品。

添加物や砂糖などを必要以上に加えず、素材の味を活かそうとする商品。

いろいろな考え方がある。

だから、「自然派」という言葉だけで商品の中身を判断するのではなく、

「この商品は、何を大切にして作られているのか」

を見ることが重要になる。

「なるほど」

美紀がうなずいた。

「自然派だから買う、じゃなくて、その商品がどういう考え方で作られているのかを知るってことね」

「そういうことだと思う」


果物の甘さを「足す」のか「引き出す」のか

二人は、もう一度ドライフルーツを食べた。

噛む。

じわっと甘さが広がる。

健一は、昨日までとは違う感覚を覚えていた。

「前は、ただ『甘くておいしい』で終わってたんだよな」

「今は?」

「『どうして甘く感じるんだろう』って考える」

美紀が笑った。

「食べるだけなのに、ずいぶん詳しくなったね」

「いや、まだまだだよ」

健一は笑った。

けれど、食品を見る目は確実に変わり始めていた。

甘さを感じたら、

「砂糖が入っているのかな?」

と考える。

そして、表示を見る。

砂糖が使われているなら、そのことを知ったうえで食べる。

使われていないなら、

「果物そのものの甘さを活かしているのかな?」

と考える。

その違いを知ることが、食品を選ぶための知識になる。


一粒の甘さから、原料の価値が見えてくる

その夜。

健一はスマートフォンに新しい言葉を入力した。

「ナガノパープル」

次に、

「シャインマスカット」

と入力する。

どちらも、長野県を代表するブドウとして知られている。

「どうしてトーチは、この二つをドライフルーツに選んでいるんだろう?」

そこが、次の疑問になった。

ドライフルーツなら、どんな果物でも作れるはずだ。

それなのに、なぜナガノパープルなのか。

なぜシャインマスカットなのか。

品種には、どんな特徴があるのだろう。

生で食べるための果物を、あえて乾燥させる意味は何なのだろう。

健一は、検索画面を閉じた。

「次は、果物そのものを調べてみよう」

昨日までは「ドライフルーツ」という商品だけを見ていた。

しかし今は違う。

ドライフルーツの価値を知るには、

まず、その原料である果物を知る必要がある。

一粒の甘さをきっかけに、健一の興味は「乾燥」から「果物そのもの」へと移っていった。

そして、その先に待っていたのが、

ナガノパープルとシャインマスカットという二つの果実だった。

――第4話へ続く。


第3話のポイント

今回覚えておきたいのは、次の4つです。

① 果物は、もともと自然な甘みを持っている。

② 乾燥によって水分が減ると、果物の甘みを強く感じやすくなることがある。

③ 「甘い=砂糖が入っている」とは限らない。

④ ドライフルーツを選ぶときは、商品の表示を確認し、何が使われているのかを知ることが大切。

「砂糖不使用」という言葉だけを見るのではなく、

「この甘さは、どこから来ているのだろう?」

と考えてみる。

それは、ドライフルーツだけでなく、普段の食品を選ぶときにも役立つ視点です。

そして、もう一つ大切なことがあります。

同じ「ブドウ」でも、品種が違えば、味も香りも食感も違います。

では、なぜトーチは数ある果物の中から、ナガノパープルとシャインマスカットを選んだのでしょうか。

次回は、いよいよ**「原料としてのブドウ」**に目を向けます。


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