連載「一粒の果実が教えてくれたこと」 第2話
第2話 水分を抜くと、果物はどう変わる?
翌日の夕食後。
健一は、昨日のドライフルーツの袋をテーブルの上に置いた。
「まだ気になってるの?」
美紀が笑いながら聞いた。
「うん。昨日調べていて、ひとつ疑問が残ったんだ」
「何?」
「果物って、乾かすとどうしてあんなに小さくなるんだろう?」
美紀は袋の中をのぞいた。
「確かに。生のブドウと比べたら、ずいぶん小さいよね」
「しかも、味も全然違う」
健一は一粒取り出した。
口に入れる。
噛むと、昨日と同じように濃い甘さが広がった。
「生のブドウって、こんな味だったっけ?」
「もっとみずみずしいよね」
「そう。甘いけど、水分が多い感じ」
二人はスマートフォンを取り出した。
昨日に続いて、もう少し詳しく調べてみることにした。
果物の大部分を占めているもの
最初に目に入ったのは、「果物には多くの水分が含まれている」ということだった。
考えてみれば当たり前の話だ。
ブドウを口に入れたとき、最初に感じるのは、あの「みずみずしさ」。
リンゴをかじったときも、シャリッとした食感とともに果汁が広がる。
みかんを食べれば、果汁が口いっぱいに広がる。
果物のおいしさには、水分が大きく関係している。
だから、乾燥させれば、その水分が減る。
すると当然、果物そのものの大きさや重さも変わってくる。
「なるほど」
健一が言った。
「ブドウそのものが消えたわけじゃなくて、水分が減ったから小さくなったんだ」
「そう考えると分かりやすいね」
生のブドウとドライフルーツ。
見た目は大きく違う。
けれど、その違いを生み出している大きな要素の一つが、水分なのだ。
「小さくなった」は「中身がなくなった」ではない
健一は、袋からもう一粒取り出した。
「でもさ、小さくなったなら、栄養も全部減ってるんじゃない?」
美紀は少し考えた。
「どうなんだろう?」
ここで、二人はさらに調べてみた。
すると、重要なことが分かった。
乾燥によって水分が減ることと、食品に含まれる成分がすべてなくなることは、同じではない。
乾燥によって大きく変化するのは、まず水分量だ。
そのため、同じ重さで比較すると、乾燥後の食品では果物由来の成分が相対的に多く見える場合がある。
ただし、乾燥方法や原料、加工条件によって食品の状態は変わる。
だから、
「乾燥させれば、何でも栄養価が何倍にもなる」
と単純に考えるのは正しくない。
「結局、商品ごとに違うんだね」
「そうみたい」
健一はうなずいた。
ここで二人は、ドライフルーツについて大切なことを一つ覚えた。
「ドライフルーツ」という名前だけでは、その商品の中身までは分からない。
どんな果物なのか。
どのような方法で乾燥させたのか。
砂糖などを加えているのか。
原材料は何なのか。
商品の表示を見る必要がある。
なぜ、甘く感じるのか?
そして、もう一つ気になっていたことがある。
「でも、一番不思議なのは甘さだよ」
健一が言った。
「生のブドウより、ドライフルーツの方が甘く感じるよね」
「砂糖を入れたからじゃないの?」
「でも、砂糖不使用の商品もあるんだろ?」
「そうだった」
二人は、もう一度ドライフルーツを口にした。
生のブドウなら、果汁が口いっぱいに広がる。
しかし、乾燥したブドウは違う。
水分が少なく、噛むほどに味がじわっと広がる。
そのため、果物本来の甘みを強く感じることがある。
つまり、
「甘く感じる」ことと、「砂糖が加えられている」ことは同じではない。
もちろん、商品によっては砂糖が使われている場合もある。
だからこそ、ここでも原材料表示が重要になる。
健一は袋の裏側を確認した。
「本当に、表示を見るだけで結構いろんなことが分かるんだな」
「買うときに裏側なんて、今まであまり見てなかった」
「俺も」
二人は顔を見合わせた。
水分があるから、おいしい。
では、水分が少ないドライフルーツは、生の果物より優れているのだろうか。
答えは、そう単純ではない。
生の果物には、生の果物にしかない魅力がある。
みずみずしさ。
香り。
食感。
冷たさ。
季節感。
一方、ドライフルーツには、乾燥させたからこその魅力がある。
持ち運びやすい。
保存しやすい。
少量でも果物の味を感じやすい。
噛んだときの独特の食感がある。
つまり、
生の果物とドライフルーツは、どちらが優れているかを競うものではない。
それぞれに違った価値があるのだ。
「そう考えると、面白いね」
美紀が言った。
「生のブドウを小さくしたもの、って考えてたけど、違うんだね」
「うん」
健一は答えた。
「乾燥させることで、別の食べ方が生まれてるんだと思う」
果物を「小さくする」のではない
その言葉を聞いて、美紀は少し考えた。
「じゃあ、ドライフルーツって『果物を小さくする』ためのものじゃないんだね」
「そうだと思う」
「じゃあ、何なんだろう?」
健一はしばらく考えた。
「果物の水分を減らして、保存しやすくしたり、味や食感を変えたりして、別の楽しみ方を作ること……かな」
二人はうなずいた。
ドライフルーツは、生の果物をそのまま縮めたものではない。
乾燥という工程を通して、果物の姿を変える。
水分が減る。
大きさが変わる。
食感が変わる。
味の感じ方も変わる。
そして、食べる場面まで変わってくる。
生のブドウなら、冷蔵庫から取り出して、その場で食べる。
ドライフルーツなら、小袋に入れて持ち歩くこともできる。
仕事の合間。
旅行先。
外出先。
ちょっとした休憩。
生果とは違う場面で、果物を楽しめる。
「乾燥」は、果物の価値を消すことではない
健一は、テーブルの上の一粒を見つめた。
ほんの小さな一粒だ。
けれど、その一粒を見ていると、昨日までとは違うものに見えてくる。
ただ小さくなった果物ではない。
水分を減らすことで、別の姿になった果物。
そして、その変化には意味がある。
「乾燥って、結構すごいな」
健一が言った。
「何でも乾かせばいいわけじゃないけどね」
美紀が笑う。
「確かに」
乾燥にはメリットがある。
しかし、乾燥すれば必ずおいしくなるわけではない。
果物の品種。
熟し方。
収穫時期。
乾燥方法。
温度や時間。
そして、加工する人の考え方。
さまざまな条件によって、仕上がりは変わってくる。
だからこそ、ドライフルーツを見るときには、
「乾いているから同じ」
ではなく、
「何の果物を、どのように乾燥させたのか」
を見ることが大切なのだ。
次に気になったこと
その夜。
健一は、スマートフォンに検索した言葉をメモしていた。
「果物 乾燥」
「ドライフルーツ 砂糖不使用」
「ドライフルーツ 原材料」
「国産 ドライフルーツ」
そして最後に、一つの疑問を書き加えた。
「なぜ、乾燥すると甘く感じるのか?」
水分が減ったから。
それだけなのだろうか。
それとも、果物そのものの甘さに秘密があるのだろうか。
健一は、次に食べるとき、生のブドウとドライフルーツを並べて比べてみようと思った。
同じ果物でも、姿が変われば、味わい方も変わる。
その違いを知れば知るほど、ドライフルーツという食品が、少しずつ面白くなってきた。
そして、まだ一つ分からないことがある。
「なぜ、砂糖を加えなくても、こんなに甘く感じるのだろう?」
その答えを知ったとき、健一はさらに、果物そのものが持っている力について考えることになる。
――第3話へ続く。
第2話のポイント
今回覚えておきたいのは、次の4つです。
① 果物には多くの水分が含まれている。
② 乾燥によって水分が減ると、果物は小さくなり、食感や味の感じ方も変わる。
③ ドライフルーツは、生の果物の単なる「縮小版」ではない。
④ 商品を選ぶときは、原材料や加工方法を確認することが大切。
ドライフルーツの価値を知るためには、まず「乾燥すると何が変わるのか」を知ること。
そして次に知りたいのは、
「なぜ、乾燥した果物は甘く感じるのか?」
ということです。
次回は、ドライフルーツの大きな魅力の一つである**「甘さ」**について、果物そのものが持っている味の秘密から考えていきます。

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