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小説

【一杯の霊芝が教えてくれた本当の豊かさ】 最終話 第10話

「未来へ残したい習慣」

「未来に残したいのは、モノではなく、生き方だった。」

春のやわらかな陽射しが、ベランダの小さな家庭菜園を照らしていた。

山里で正一から贈られた野菜の種。

あの日、小さな紙袋に入っていた種は、今では青々とした葉を広げている。

雅人は水をやりながら、静かに微笑んだ。

「本当に育ったな。」

美咲も葉に触れながら笑う。

「毎日少しずつだったけれど、ちゃんと応えてくれたね。」

その姿は、自分たちの暮らしそのもののようだった。


休日。

二人の家には、甥と姪が遊びに来ていた。

「この野菜、おじさんが育てたの?」

小さな手でトマトを収穫する子どもたち。

雅人は笑顔でうなずく。

「そうだよ。」

「でも、おじさんが育てたというより、太陽と土と水が育ててくれたんだ。」

子どもたちは目を輝かせる。

「自然ってすごい!」

その無邪気な声に、美咲も自然と笑顔になった。


昼食は、みんなで食卓を囲んだ。

採れたての野菜を使ったサラダ。

旬の野菜たっぷりの味噌汁。

炊きたてのご飯。

焼き魚。

派手な料理ではない。

しかし、食卓には笑顔があふれていた。

甥が言う。

「お店で食べるご飯もおいしいけど、今日はもっとおいしい!」

雅人は理由を尋ねた。

「どうしてかな?」

「みんなで食べるから!」

その一言に、美咲と顔を見合わせる。

山里で正一が話していた言葉が思い出された。

「食べることは、人と心をつなぐこと。」


午後。

近所の公園を歩く。

子どもたちは虫を見つけ、花を眺め、木陰を走り回る。

雅人はベンチに座りながらつぶやいた。

「昔は、休日も仕事のことばかり考えていた。」

美咲もうなずく。

「今は季節を感じる時間が増えたね。」

風に揺れる若葉を見上げながら、二人は静かな時間を楽しんだ。


夕方。

旅のノートを開く。

最初のページには、高級レストランの名前や旅先の記録が並んでいる。

しかし、最後のページには違う言葉が並んでいた。

『旬を味わう。』

『自然に感謝する。』

『家族と食卓を囲む。』

『よく眠る。』

『身体を動かす。』

『笑顔で過ごす。』

『無理なく続ける。』

雅人は静かにペンを置いた。

「これが、僕たちの宝物だ。」


その日の夜。

一通の手紙を書いた。

宛先は山里の正一。

「あの日いただいた種は、元気に育っています。

私たちの暮らしも、少しずつ変わりました。

高価なものを追い求める毎日ではなく、一日一日を丁寧に過ごす毎日へ。

本当の豊かさを教えてくださり、ありがとうございました。」

数日後、返事が届いた。

「豊かさは、人から人へ受け継がれていくものです。

これからは、お二人が誰かへ伝えてください。」

雅人は何度もその手紙を読み返した。


それから一年後。

夫婦の家には、小さな変化が積み重なっていた。

季節ごとの食材を楽しむこと。

無添加や自然食品を選ぶだけでなく、生産者の思いに耳を傾けること。

毎日、家族と食卓を囲むこと。

自然の中を歩くこと。

忙しい日でも、心にゆとりを持つこと。

どれも特別なことではない。

しかし、その積み重ねが暮らしを豊かにしていた。

雅人は窓の外を見つめながら、美咲に言う。

「豊かさって、毎日の選択なんだね。」

美咲は優しく微笑む。

「そして、その選択は未来へつながっていく。」


旅のノートの最後のページ。

雅人はゆっくりと最後の一文を書いた。

『未来へ残したいのは、健康を支える暮らしの知恵。』

『自然を敬い、季節を味わい、人と食卓を囲むこと。』

『毎日を丁寧に積み重ねること。』

『それこそが、本当の豊かさだった。』

ノートを閉じる。

窓の外では、夕日に照らされた家庭菜園の野菜が静かに風に揺れている。

その景色は、初めて訪れた山里の風景と重なって見えた。

あの日、一杯の温かな飲み物から始まった旅。

それは「特別な健康法」を探す旅ではなかった。

毎日の暮らしを見つめ直し、自然や人とのつながりを大切にする生き方を学ぶ旅だった。

そして、その学びはこれからも、家族へ、子どもたちへ、未来へと受け継がれていく。

― 完 ― 未来へ残したい習慣


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