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短編小説

【一杯の霊芝が教えてくれた本当の豊かさ】 第7話

「毎日の積み重ね」

「豊かさは、一日では生まれない。」

山里から東京へ戻って一週間。

佐伯雅人と美咲の暮らしは、大きく変わったようには見えなかった。

高層マンション。

通勤ラッシュ。

仕事の予定で埋まったスケジュール。

都会の生活そのものは、以前と変わらない。

しかし、二人の「一日の始まり」は少しずつ変わっていた。


朝六時。

目覚まし時計より少し早く目が覚める。

カーテンを開け、窓から朝の光を取り込む。

「おはよう。」

美咲が笑顔で声を掛ける。

雅人も微笑み返した。

「山里の朝を思い出すね。」

二人はベランダで深呼吸をした。

都会の空気でも、朝の静けさは感じられる。


朝食の時間。

以前は急いでパンとコーヒーだけで済ませることも多かった。

今は違う。

炊きたてのご飯。

具だくさんの味噌汁。

焼き魚。

季節の野菜。

少しだけ時間をかけて食卓を囲む。

美咲が言う。

「豪華ではないけれど、不思議と満足できるね。」

雅人もうなずく。

「食べることを楽しめるようになった。」


休日には近くの市場へ足を運ぶようになった。

地元で採れた野菜。

旬の果物。

昔ながらの製法で作られた味噌や醤油。

「無添加」という表示だけで選ぶのではなく、生産者の話を聞き、季節を感じながら食材を選ぶ。

雅人は店主に尋ねる。

「この野菜は今が旬なんですね。」

店主は笑顔で答える。

「旬のものは、その時期ならではのおいしさがありますよ。」

山里で聞いた言葉が、自然と思い出された。


ある夜。

仕事から帰宅した雅人は、以前のような強い疲労感が少なくなっていることに気づいた。

「最近、顔色がいいね。」

美咲がそう言うと、雅人は少し照れくさそうに笑う。

「特別なことはしていない。」

「でも、毎日を少しずつ大切にするようになっただけなんだ。」

二人は食卓で温かい飲み物を囲み、ゆっくり会話を楽しんだ。

忙しい毎日だからこそ、この時間が何よりの贅沢に思えた。


週末。

雅人はベランダで小さなハーブを育て始めた。

バジル。

大葉。

ローズマリー。

ほんの小さな鉢植えだが、水をやり、新しい芽を見つけるたびに心が和らぐ。

「植物って、急いで育たないんだね。」

雅人が言うと、美咲が笑った。

「人も同じかもしれない。」

「毎日の積み重ねで少しずつ変わる。」

その言葉に、二人は顔を見合わせて笑った。


数日後。

雅人は仕事で会食に招かれた。

高級レストランで豪華な料理が並ぶ。

以前なら、それだけで満足していた。

しかし今は、違う視点で料理を見ていた。

「この野菜はどこで育てられたんだろう。」

「旬なのかな。」

「作った人はどんな思いだったんだろう。」

料理の背景に目を向けるようになった自分に気づき、雅人は少し驚いた。

豊かさとは、値段ではなく、その一皿に込められた時間や手間なのだと感じ始めていた。


夜。

旅のノートを開く。

今日のタイトルは、

『毎日の積み重ね』

雅人は静かに書き始めた。

『健康は、特別な日だけ意識するものではない。』

『毎日の食事。』

『毎日の睡眠。』

『毎日の運動。』

『毎日の感謝。』

『その一つひとつが未来をつくる。』

ページの最後には、山里で林田が話してくれた言葉を書き添えた。

『自然は急がない。だから、美しい。』


翌朝。

二人はいつものように朝食を囲んだ。

食卓には、旬の野菜と温かい味噌汁。

そして、山里で教わったように、一杯の温かい飲み物。

雅人は湯気を見つめながら静かに言った。

「豊かさって、こういう時間なんだね。」

美咲も優しくうなずく。

「高価なものを持つことじゃない。」

「毎日を丁寧に過ごせること。」

窓から差し込む朝日が食卓を明るく照らしていた。

その光景は、山里で見た朝とどこか重なって見えた。

そして雅人は思う。

「少しずつだけれど、自分たちは変わってきている。」

その変化は派手ではない。

けれど、毎日を重ねるたびに、心の中で確かな豊かさへと育っていた。

──第8話「身体の変化」へ続く。


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