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「母は家族の最後の砦だった」 第6話 霊芝を知る

「昔から受け継がれてきたものには、理由がある。」

土曜日の午後。

美智子は、和子に誘われて町の小さな自然食品店を訪れた。

店の奥には十人ほどが座れる小さなスペースがあり、「暮らしと自然を学ぶ会」と書かれた木の看板が立てられていた。

売り込みのような雰囲気はない。

参加しているのは、同じくらいの年代の女性や、定年後と思われる夫婦、子育て中の若い母親などさまざまだった。

「なんだか安心する場所ね。」

美智子がそうつぶやくと、和子が笑った。

「私も最初はそう思ったの。」


講師として現れたのは、白髪交じりの穏やかな男性だった。

「本日はお越しいただきありがとうございます。」

「今日は健康食品のお話ではありません。」

「昔から人々が大切にしてきた自然との付き合い方についてお話しします。」

その言葉に、美智子は少し驚いた。

健康食品の話を聞く会だと思っていたからだ。


講師は一枚の古い資料を広げた。

そこには山で薬草を採る人々や、乾燥させた植物を保存する様子が描かれていた。

「今のように病院や薬が身近ではなかった時代、人々は自然の恵みを暮らしの中で活かしてきました。」

「もちろん、それだけで健康になれるという話ではありません。」

「食事、睡眠、身体を動かすこと、心を整えること。」

「そうした毎日の積み重ねが土台にあり、その上で自然の恵みを生活に取り入れてきたのです。」

美智子は熱心にメモを取った。


話の途中、一人の参加者が質問した。

「先生、昔から大切にされてきた植物には、どんなものがあるんですか?」

講師はうなずき、数枚の写真を見せた。

梅。

生姜。

ヨモギ。

桑の葉。

そして、一枚の写真で手が止まった。

傘のような形をした赤褐色のきのこ。

「これは霊芝です。」

会場が静かになる。


「霊芝は、日本や中国などで古くから知られてきたきのこの一種です。」

「昔は非常に珍しく、山で偶然見つかることも少なかったため、『縁起の良いきのこ』として大切にされてきました。」

「長い年月をかけて栽培技術が進み、現在では国内でも栽培されるようになっています。」

美智子は写真を見つめた。

「これが霊芝……。」

名前は聞いたことがある。

しかし、それ以上は何も知らなかった。


講師は続けた。

「ここで大切なのは、『昔から使われていたから万能』という考えではありません。」

「自然の素材も、あくまでも毎日の健康的な生活習慣の一部として考えることが大切です。」

「特定の食品だけに頼るのではなく、食事や睡眠、適度な運動と組み合わせて続けること。」

「その積み重ねこそが、暮らしを支える土台になります。」

美智子は深くうなずいた。

倒れてから医師に言われたことと、同じ考え方だった。


休憩時間。

自然食品店の店主・山本が美智子へ声を掛けた。

「興味を持たれましたか?」

「はい。」

「霊芝って、もっと特別なものだと思っていました。」

山本は笑顔で答えた。

「昔から大切にされてきた理由はあります。」

「でも、本当に大切なのは、それを育てる人の姿勢なんです。」

「育てる人?」

「ええ。」

「時間をかけ、自然と向き合いながら育てる人がいるからこそ、今も受け継がれているんですよ。」


講演の終わりに、講師は参加者へ一つの言葉を贈った。

「健康とは、足し算ではありません。」

「生活が乱れたまま、何か一つを加えれば大丈夫というものではないのです。」

「まず土台を整える。」

「そのうえで、自分に合った健康習慣を無理なく続ける。」

「それが、昔の人の知恵でもあり、現代にも通じる考え方だと私は思っています。」

会場から温かな拍手が起こった。


帰り道。

夕焼けに染まる道を歩きながら、美智子は和子へ話しかけた。

「今日は来て良かった。」

「でしょう?」

「健康食品の話じゃなくて、生き方の話だった。」

和子が笑う。

「だから毎回来ちゃうの。」


家へ帰ると、娘が夕食の支度をしていた。

「お帰り。」

「今日はどんな話だったの?」

美智子は荷物を置きながら答えた。

「健康ってね。」

「何か一つを食べることじゃなくて、毎日の暮らし全部なんだって。」

娘は微笑んだ。

「それ、お母さんらしい答えだね。」


夕食後。

美智子はノートを開いた。

今日のページにはこう書いた。

『昔から受け継がれてきたものには、理由がある。』

その下に続ける。

『でも、一番大切なのは毎日の暮らしを整えること。』

さらに最後に、小さく一言。

『霊芝という植物のことを、もっと知りたくなった。』


翌週。

山本から電話が入る。

「もしよろしければ、来週、霊芝を栽培している農園を見学しませんか?」

「農園ですか?」

「はい。」

「実際に育てている方のお話を聞くと、きっと印象が変わりますよ。」

美智子は少し考えてから笑顔で答えた。

「ぜひ参加したいです。」

電話を切ったあと、窓の外を見る。

庭の野菜も、毎日少しずつ育っている。

霊芝も同じように、時間をかけて育てられているのだろう。

健康もまた、一日では育たない。

毎日の積み重ねが未来をつくる。

そのことを、美智子は少しずつ実感し始めていた。

そして次回、美智子は実際に霊芝を育てる生産者と出会う。

そこで聞く「続けることの意味」が、健康との向き合い方をさらに深めていくことになる。

──第7話「続ける意味」へ続く。


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