【土曜日企画】トーチが訪ねる 日本の宝もの ➊-❸
第1シリーズ「日本の健康食材を訪ねる」
第3話 北海道の昆布を訪ねて
― 海が育て、人が受け継いできた「だし」の文化 ―
こんにちは。「トーチ」です。
前回は、信州の味噌文化を訪ねました。
大豆、米、塩という身近な材料から生まれ、長い時間をかけて熟成される味噌。
そこには、先人たちが自然と向き合いながら生み出した「保存」と「発酵」の知恵がありました。
今回、トーチが訪ねるのは、信州から一気に北へ。
日本の北の大地、北海道です。
北海道と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
広大な大地。
新鮮な魚介類。
じゃがいも、とうもろこし、乳製品。
そして、今回の主役である昆布です。
昆布は、普段の食卓では決して主役にならないかもしれません。
煮物の中に入っているわけでもない。
焼いて食べるわけでもない。
けれど、昆布がなければ、日本料理の味わいは大きく変わります。
味噌汁、煮物、鍋、そば、うどん。
日本人が昔から親しんできた多くの料理の土台に、「だし」があります。
そして、その「だし」を支えてきた代表的な食材の一つが昆布なのです。
今回は、北海道の海で育つ昆布を通して、日本人が大切にしてきた「だしの文化」と、それを守る人たちの仕事について考えてみたいと思います。
北海道は、日本を代表する昆布の産地
北海道の海岸線を地図で眺めると、その広さに驚かされます。
東西南北、それぞれに異なる海の環境があり、その土地ごとにさまざまな昆布が育っています。
利尻昆布、羅臼昆布、真昆布、日高昆布など。
同じ「昆布」でも、育つ場所によって種類や味わい、香り、だしの特徴が異なります。
これは、昆布が単なる海藻ではなく、
「その土地の海が育てた食材」
だからなのかもしれません。
海水の温度。
海底の環境。
潮の流れ。
日照。
そして、海岸を取り巻く自然環境。
さまざまな条件が重なって、一枚の昆布が育ちます。
つまり、昆布を味わうということは、その土地の海を味わうことでもあるのです。
海の中で、昆布はゆっくり育つ
昆布漁の季節になると、浜には独特の風景が広がります。
海から引き上げられた昆布を、浜辺に並べて乾燥させる。
その光景は、北海道の沿岸地域の夏の風物詩の一つです。
しかし、私たちが店頭で目にする乾燥した昆布になるまでには、多くの作業があります。
海に出る。
昆布の状態を見る。
収穫する。
浜へ運ぶ。
広げる。
乾燥させる。
選別する。
そして、商品として出荷する。
一枚の昆布の裏側には、こうした生産者の仕事があります。
さらに、その仕事は天候や海の状態に大きく左右されます。
海が荒れていれば、簡単には漁に出られません。
天候によって作業のタイミングも変わります。
自然を相手にする仕事には、「予定どおりにいかない」という難しさがあります。
それでも、生産者は海を見ながら、その時々の最善を判断しています。
「だし」は、料理の主役ではない
昆布の面白いところは、昆布そのものを食べるだけではなく、「だし」として使われることです。
料理の表舞台に出てくることは少ない。
でも、料理の味を支えている。
これは、日本文化の面白さの一つかもしれません。
目立つことよりも、全体を支えること。
自分が前面に出るのではなく、料理の素材を引き立てること。
昆布のだしには、そんな日本人の美意識まで感じられるような気がします。
例えば、味噌汁。
味噌の味だけではなく、だしが加わることで、味わいに奥行きが生まれます。
煮物もそうです。
素材そのものの味を生かしながら、だしが料理全体をまとめてくれます。
つまり昆布は、
「自分が主役になるのではなく、相手の良さを引き出す食材」
なのです。
「うま味」という日本の食文化
昆布について語るとき、外せないのが「うま味」です。
日本では昔から、昆布やかつお節などを使ってだしをとる文化が育ってきました。
そして1908年、池田菊苗博士が昆布だしの味の成分として「グルタミン酸」を発見し、これを「うま味」と名づけたことは、よく知られています。
現在では、うま味は甘味、酸味、塩味、苦味と並ぶ基本的な味覚の一つとして世界的にも知られるようになりました。
しかし、興味深いのは、日本人が「うま味」という言葉が生まれるずっと前から、昆布のだしを料理に使ってきたことです。
理屈を知っていたから使っていたわけではありません。
「この方法で料理すると、おいしい」
その経験を何世代にもわたって積み重ねてきた。
そこに、日本の食文化の奥深さがあります。
昆布は「保存食」でもあった
昔は、今のように冷蔵庫や冷凍庫がありませんでした。
だからこそ、食材を保存する技術が発達しました。
乾燥させる。
塩漬けにする。
発酵させる。
燻製にする。
こうした方法によって、食材をできるだけ長く利用してきたのです。
昆布も、その代表的な存在です。
海で育った昆布を乾燥させることで、長く保存できるようになります。
そして必要なときに取り出して、だしをとる。
これは、今の私たちから見ると当たり前のことに思えるかもしれません。
でも、冷蔵庫のない時代に生きた人々にとっては、とても重要な生活の知恵だったはずです。
「自然からいただいたものを、無駄なく大切に使う」
この考え方は、現代の私たちにも学ぶところが多いのではないでしょうか。
北海道から全国へ広がった昆布文化
北海道で採れた昆布は、昔から日本各地へ運ばれてきました。
その中でも、歴史的に重要だったのが「北前船」です。
北海道から日本海を通り、各地へ物資を運んだ北前船によって、昆布をはじめとする北海道の産物が広く流通しました。
その結果、北海道の昆布は遠く離れた地域の食文化にも影響を与えていきました。
特に昆布と深い関わりを持つ地域として知られるのが京都です。
昆布は北海道で育つ。
でも、その価値を生かした食文化は全国各地で発展していく。
これは、とても興味深いことです。
一つの地域で生まれた食材が、人の移動や交易によって別の地域へ渡り、そこで新しい文化を生み出す。
食べものは、人と地域をつなぐ役割も果たしてきたのです。
「地元では当たり前」が、日本の宝になる
旅をしていると、地元の人が「こんなもの、珍しくないですよ」と言うものに驚かされることがあります。
その土地では当たり前。
毎日の暮らしの中にある。
だから、特別なものだと思っていない。
でも、外から見ると、それがその地域ならではの貴重な文化だったりします。
昆布もそうなのかもしれません。
北海道の人にとっては身近な海の恵み。
しかし、日本全国の食卓を支えてきた、かけがえのない食材でもあります。
地域の人が大切にしている「当たり前」の中には、未来へ残すべき宝ものがたくさんあります。
トーチが地域を訪ねる理由も、そこにあります。
トーチが大切にしたい「作り手の顔が見える商品」
私たちが商品を選ぶとき、価格や容量、知名度だけを見ることはありません。
もちろん、それらも大切な情報です。
しかし、それと同じくらい、
「誰が作っているのか」
「どこで作っているのか」
「どんな自然の中で育ったのか」
「どんな仕事をしているのか」
を知りたいと思っています。
商品だけを見ていると、その価値は数字でしか見えません。
でも、その背景を知ると、一つの商品が「物語」に変わります。
昆布一枚を見ても、
「北海道の海で育ったんだな」
「生産者が海に出て収穫したんだな」
「浜で乾燥させたんだな」
「昔から日本の料理を支えてきたんだな」
そんなことを想像できるようになります。
そうすると、食べることそのものが少し楽しくなります。
店長のひとこと
私は旅行会社の仕事を通して、これまでさまざまな土地を訪ねてきました。
そこで強く感じるのは、
「日本は、本当に地域ごとの個性が豊かな国だ」
ということです。
同じ日本なのに、山の景色が違う。
海の色が違う。
食べるものが違う。
言葉や風習まで違う。
そして、それぞれの土地に、その土地でしか生まれなかった文化があります。
昆布を知るために北海道を訪ねる。
味噌を知るために信州を訪ねる。
塩を知るために海辺の町を訪ねる。
そんな旅を重ねていくと、「商品」というものの見え方も変わってきます。
トーチが皆さまに届けたいのは、単なる商品の情報ではありません。
その商品が生まれた場所。
作っている人。
受け継がれてきた文化。
そして、そこに込められた想い。
そうしたものまで含めて、皆さまに知っていただきたいのです。
今日の食卓で「だし」を感じてみませんか?
今度、味噌汁や煮物を食べるとき。
少しだけ、「だし」に意識を向けてみてください。
「この料理を支えているのは何だろう?」
そう考えるだけでも、いつもの食事が少し違って見えるかもしれません。
日本料理には、素材を生かすという考え方があります。
魚なら魚の味。
野菜なら野菜の味。
そして、それらを静かに支えるだし。
昆布は、その「素材を生かす」という日本の食文化を象徴する存在の一つなのかもしれません。
おわりに
北海道の昆布を訪ねて見えてきたのは、単なる海産物の話ではありませんでした。
そこには、
海の恵み。
自然と向き合う生産者。
乾燥・保存という昔からの知恵。
だしを生かす日本の料理文化。
そして、地域から全国へ広がった人々の交流。
そんな長い物語がありました。
私たちが普段何気なく口にしている味噌汁や煮物の中にも、何百年という時間の積み重ねが隠れています。
そう考えると、日本の食卓は、とても豊かな歴史の上に成り立っているのだと感じます。
トーチは、これからも全国各地を訪ねながら、
「まだ知られていない日本の宝もの」
を探していきます。
そして、その土地で生きる人々が守ってきた自然や食文化を、できるだけ分かりやすく皆さまへお伝えしていきたいと思います。
次回は、海の恵みから山の恵みへ。
日本の食卓に欠かせない「塩」に目を向けます。
海水から塩をつくる人たちの仕事。
そして、なぜ日本各地にさまざまな「塩の文化」が生まれたのか。
次回も、日本の食文化の奥深さを一緒に訪ねてみたいと思います。
どうぞお楽しみに。
トーチ――自然の恵みと、豊かな暮らしをあなたのもとへ。

