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連載【一粒の果実が教えてくれたこと】 第5話

第5話 「甘いブドウ」には理由がある

「ねえ、健一さん」

夕食後、美紀がスマートフォンを見ながら言った。

「何?」

「この前、ドライフルーツの話をしていたでしょう?」

「うん」

「ドライフルーツにするなら、どんな果物が向いていると思う?」

健一は少し考えた。

「やっぱり、美味しい果物じゃない?」

「じゃあ、美味しいって何?」

「……甘いこと?」

美紀は笑った。

「じゃあ、甘い果物って、どうやって分かるの?」

「食べれば分かるだろ」

「それじゃあ、作る側はどうするの?」

健一は答えに詰まった。

確かにそうだ。

食べてみれば「甘い」「酸っぱい」と感じることはできる。

しかし、果物の甘さを客観的に比べようとすると、感覚だけでは難しい。

すると、美紀がスマートフォンの画面を見せた。

そこには、ひとつの言葉が書かれていた。

「糖度」

「糖度?」

「うん。今日はこれを調べてみようよ」


「糖度」って何だろう?

健一は検索した。

「糖度って、甘さの数字なのか?」

「そう思うよね」

美紀が答える。

「でも、正確には『甘さそのもの』を表す数字ではないみたい」

二人は少しずつ調べていった。

果物の糖度を表すときには、一般的に糖度計で測った数値が使われる。

例えば、

「糖度15度」

「糖度18度」

「糖度20度」

などと表現する。

数字が高くなるほど、果汁に含まれる可溶性固形分が多いことを示す。

その中には糖類だけでなく、酸やミネラルなども含まれる。

つまり、

糖度=甘さそのもの

ではない。

ここは大事なポイントだった。

「じゃあ、糖度20度なら、糖度10度の果物より必ず二倍甘い、ということでもないんだ」

「そういう単純な数字ではないんだね」

健一は納得した。

食品について調べるときには、数字の意味を正しく理解することが大切だ。


それでも「糖度」は重要な目安

「じゃあ、糖度ってあまり意味がないの?」

健一が聞いた。

「ううん。そんなことはないよ」

糖度は、果物の成熟や品質を見るうえで、重要な目安の一つになる。

特にブドウのような果物では、糖度は「甘さを感じる可能性」を考えるときの参考になる。

もちろん、実際の美味しさは糖度だけでは決まらない。

酸味もある。

香りもある。

果肉の食感もある。

皮の食べやすさもある。

それらが組み合わさって、一つの「美味しさ」になる。

「なるほど」

健一が言った。

「糖度は、美味しさを判断する材料の一つなんだな」

「そう」

この違いを知っておくことは、ドライフルーツを選ぶときにも役立つ。


では、ブドウの糖度は?

健一は、さらに調べた。

「ブドウって、結構糖度が高いんだな」

「品種によっても違うみたい」

ブドウは、成熟するにつれて糖分が増えていく。

だから、収穫する時期も重要になる。

早すぎれば、十分な甘さになっていないかもしれない。

反対に、適切な時期まで成熟させれば、その品種らしい味わいが引き出される。

つまり、

「どんな品種か」だけではなく、「いつ収穫するか」も大切。

「前に話した『旬』ともつながってくるね」

美紀が言った。

「そうだな」

第1話から続けてきた話が、少しずつつながり始めていた。


「甘い果物なら、何でもいい」わけではない

健一は、ふと思った。

「じゃあ、ドライフルーツにするなら、とにかく糖度の高い果物を選べばいいんじゃないか?」

美紀は首を振った。

「それだけではないと思う」

「どうして?」

「ドライフルーツになったときのことも考えないといけないから」

健一は黙った。

確かにそうだ。

生の果物として美味しいことと、乾燥させたときに魅力があることは、必ずしも同じではない。

果肉の状態。

皮の特徴。

香り。

酸味。

水分量。

そして、乾燥後の食感。

さまざまな条件が関係する。

「なるほど……」

健一は、ドライフルーツを一粒つまんだ。

「だから、原料選びが重要なんだ」

「そういうこと」


そこで、二つのブドウが登場した

美紀がテーブルの上に二つの写真を並べた。

一つは、濃い紫色。

もう一つは、鮮やかな黄緑色。

「これは?」

「ナガノパープル」

「こっちは?」

「シャインマスカット」

健一は写真を見比べた。

「どっちも有名なブドウだな」

「そして、どちらも甘さに魅力のある品種として知られている」

ここで初めて、二人は「糖度」という視点から二つのブドウを見ることになった。

ナガノパープルは、一般に糖度18~21度程度とされる。

シャインマスカットも、平均糖度19度程度とされる。

※糖度は栽培条件や収穫時期などによって変動します。

「結構高いな」

健一が驚いた。

「そうだね」

もちろん、これは「糖度が高ければ必ず美味しい」という意味ではない。

しかし、

甘さに魅力のある品種を、ドライフルーツの原料として選ぶ。

そこには、ひとつの考え方が見えてくる。


「なぜ、この二つなのか?」

健一は、二つの商品を見ながら考えた。

「トーチがこの二つを選んだのって、偶然じゃないんだな」

「そうだと思う」

ナガノパープル。

シャインマスカット。

どちらも特徴のあるブドウだ。

そして、どちらも甘さを楽しめる品種。

だからこそ、

「果物そのものの魅力を、ドライフルーツでも楽しんでもらう」

という考えにつながってくる。

「でも、生で食べても美味しいんだろ?」

「もちろん」

「だったら、わざわざドライにする意味は?」

美紀が笑った。

「そこが次の問題だね」


甘い果物を、なぜ乾燥させるのか?

健一は、以前の話を思い出した。

ドライフルーツは、果物の水分を減らしたもの。

水分が減れば、果物の状態が変わる。

食感も変わる。

食べる時間も変わる。

そして、生の果物とは違った楽しみ方ができる。

「つまり……」

健一が言った。

「甘さに魅力のある果物を選んで、それをドライにする」

「うん」

「そうすれば、生とは違った形で、その果物を楽しめる」

美紀が頷いた。

「そこがポイントなんじゃないかな」


ただし「糖度が高い=甘さがそのまま濃縮」ではない

健一は、もう一つ疑問を持った。

「じゃあ、乾燥したら糖度が二倍、三倍になるのか?」

美紀は答えた。

「そこも、単純には考えない方がいいみたい」

ドライフルーツでは、水分が減ることで、果物に含まれる成分が相対的に多くなる。

そのため、食べたときに甘さを強く感じやすくなることがある。

しかし、

「糖度がそのまま何倍にもなる」

と単純に考えるのは正確ではない。

乾燥の程度や加工条件によっても違う。

また、食べる量が同じでも、生の果物とドライフルーツでは水分量が大きく違う。

だからこそ、

生の果物とドライフルーツは、同じ物差しだけで比較しないこと。

これも商品を理解するための大切な知識だった。


「甘いから選んだ」だけではない

健一はノートを開いた。

そこに、

ナガノパープル
シャインマスカット
糖度

と書いた。

その下に、

でも、糖度だけではない

と付け加えた。

「なんだか、最初より難しくなったな」

健一が笑う。

「でも、面白くなってきたでしょ?」

「うん」

果物を選ぶ。

それだけでも、実は多くのことを考える必要がある。

どんな品種なのか。

どんな味なのか。

どんな香りなのか。

どんな食感なのか。

いつ収穫するのか。

そして、ドライフルーツにしたとき、どんな魅力が残るのか。

「商品って、完成品だけ見ていたら分からないんだな」

「そうだね」


数字を知ると、商品の見方が変わる

健一は、ナガノパープルとシャインマスカットの写真をもう一度見た。

昨日までなら、

「紫のブドウ」

「緑のブドウ」

それだけだった。

今日は違う。

「甘さに魅力のある品種」

という見方が加わった。

さらに、

「その甘さを活かして、ドライフルーツとして楽しむ」

という考え方も見えてきた。

たった一つの言葉。

「糖度」

を知っただけで、商品の見え方が変わった。

これこそが、商品を理解するということなのかもしれない。


そして、次の疑問が生まれた

「でも、健一さん」

「ん?」

「糖度が高いブドウを選ぶなら、もっと糖度の高い品種を選べばいいんじゃない?」

健一は二つのブドウを見た。

「確かに……」

糖度だけを競うなら、答えは簡単なのかもしれない。

しかし、商品として考えるなら、それだけでは足りない。

甘さ。

酸味。

香り。

食感。

皮。

果実そのものの個性。

そして、ドライフルーツにしたときの仕上がり。

「そうか」

健一が言った。

「トーチが選んだ理由を知るには、糖度だけじゃなくて、この二つのブドウそのものをもっと知らないといけないんだ」

美紀が頷いた。

「次は、そこを調べてみよう」


第5話で分かったこと

果物の美味しさを考えるとき、「糖度」は重要な目安の一つです。

ただし、

糖度が高い=必ず美味しい

という単純な話ではありません。

ナガノパープルとシャインマスカットは、どちらも甘さに魅力のあるブドウです。

だからこそ、トーチではその魅力をドライフルーツという形でも楽しんでもらいたい。

しかし、

「なぜ、この二つなのか?」

を理解するには、糖度以外の特徴も知る必要があります。

次回は、ナガノパープルとシャインマスカットの品種としての個性に目を向けます。

「甘いブドウなら、どれでも同じなのか?」

二つのブドウを比べてみると、その答えが見えてきます。

――第6話へ続く。


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