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「母は家族の最後の砦だった」 第5話 身体は毎日作られる

「健康は、ある日突然失うものではなく、毎日の積み重ねで育まれる。」

五月の爽やかな朝。

美智子は、久しぶりに目覚まし時計より先に自然と目を覚ました。

窓を開けると、ひんやりとした朝の空気が部屋に流れ込む。

庭では、小鳥がさえずり、青じそやミニトマトが朝露をまとっていた。

「気持ちのいい朝……。」

倒れてから二週間。

以前のような強い疲労感は少しずつ和らいできていた。

もちろん、以前のように何でもできるわけではない。

それでも、「朝から身体が重い」という日が少し減ってきたことに、自分でも驚いていた。


朝食の時間。

今日は娘が味噌汁を作り、息子が焼き魚を焼いていた。

「お母さん、ご飯をよそって。」

「はいはい。」

以前なら一人で準備していた朝食。

今は家族が自然と動くようになっていた。

夫が笑いながら言う。

「家族みんなで作る朝ご飯も悪くないな。」

「本当ね。」

食卓には、

炊きたてのご飯。

具だくさんの味噌汁。

焼き鮭。

納豆。

ほうれん草のおひたし。

そして季節のいちご。

特別な料理ではない。

しかし、美智子は一口ごとにゆっくり味わった。

「食べるって、こんなに幸せだったんだ。」


その日、診察を受けた医師からこんな話を聞いた。

「美智子さん。」

「はい。」

「人の身体は、一日で作られるものではありません。」

医師は机の上のメモ用紙に一本の線を書いた。

「例えば、毎日少しずつ睡眠不足が続けば、その積み重ねが身体へ現れます。」

「逆に、毎日少しずつ食事や生活習慣を整えれば、それも未来の身体へつながります。」

「健康は特別な一日ではなく、毎日の結果なんです。」

その言葉は、美智子の心に深く残った。


帰宅すると、義母が庭で野菜の手入れをしていた。

「お義母さん、手伝います。」

「今日は見ているだけでいいよ。」

義母は土を優しくならしながら話し始めた。

「野菜もね。」

「昨日肥料をあげたから、今日すぐ大きくなるわけじゃない。」

「毎日少しずつ育つ。」

「人も同じだよ。」

美智子は静かにうなずいた。

「焦らなくてもいいんですね。」

「そう。」

「健康は競争じゃないからね。」


午後。

近所の和子がまた訪ねてきた。

「今日は面白い人を紹介したくて。」

一緒に来たのは、小さな自然食品店を営む初老の女性だった。

「はじめまして。」

「山本と申します。」

店は創業五十年。

地元の農家や生産者から仕入れた食品を扱っているという。

「最近は便利な食品も増えました。」

山本は穏やかに話す。

「もちろん便利さも大切です。」

「でも、昔から受け継がれてきた食材には、それだけ長く選ばれてきた理由があります。」

美智子は興味深く耳を傾けた。


店内には、

味噌。

醤油。

梅干し。

雑穀。

乾燥きのこ。

昆布。

そして様々な自然素材が並んでいた。

「どれも派手ではありません。」

山本は笑う。

「でも、毎日少しずつ食卓へ取り入れることで、食生活は変わっていきます。」

「身体は、流行ではなく毎日の積み重ねでできていますから。」


美智子は棚に並ぶ乾燥きのこを手に取った。

「きのこって、こんなに種類があるんですね。」

「ええ。」

「日本では昔から、山の恵みとして親しまれてきました。」

「昔の人は、自然の中に知恵を見つけて暮らしていました。」

「自然と共に生きる。」

その言葉が心に残る。


帰宅後。

娘が学校の家庭科で学んだことを話し始めた。

「先生がね。」

「『身体は食べたものでできている』って言ってた。」

息子も笑う。

「最近それ、家でもよく聞くな。」

夫が続ける。

「でも本当なんだろうな。」

「車だって燃料が悪ければ調子が悪くなる。」

「人間も同じかもしれない。」

家族みんなが笑った。


夜。

美智子はノートを開いた。

今日のページにはこう書いた。

・朝食を家族とゆっくり食べた。

・庭の野菜を見た。

・自然食品店で話を聞いた。

・今日も笑顔で過ごせた。

その横に、小さく一言書き添える。

「未来の身体は、今日つくられている。」


数日後。

自然食品店の山本から電話があった。

「今度、お店で小さな勉強会を開くんです。」

「勉強会ですか?」

「昔から日本で親しまれてきた植物や食材についてお話しします。」

「健康食品を売る会ではありません。」

「昔の人の知恵を知る会です。」

美智子は少し興味を持った。

「参加してみたいです。」

電話を切ったあと、ふと庭を見る。

風に揺れる木々。

静かに育つ野菜。

自然は急がない。

だからこそ、何十年も命をつないできた。

人も同じなのかもしれない。

健康とは、特別な一つの商品や方法だけで得られるものではなく、毎日の暮らし全体で育てていくもの。

その考え方が、美智子の中で少しずつ根付き始めていた。

そして次回、その勉強会で、美智子は何千年もの間、人々の暮らしの中で大切にされてきた一つの植物と出会う。

その出会いが、健康への考え方をさらに大きく変えていくことになる。

──第6話「霊芝を知る」へ続く。


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