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第7話 毎日少しずつ変わる身体

「変わったのは身体ではなく、毎日の過ごし方だった」

霊芝の生産者を訪ねてから一週間。

佐伯誠一は、机の上に置かれた小さな箱を見つめていた。

先生から渡された霊芝だった。

「健康は一日では変わりません。」

帰り際、先生がそう言っていた言葉を思い出す。

「だからこそ、毎日の積み重ねが大切なのです。」

佐伯は静かにうなずき、その日から生活を少しずつ見直すことにした。


最初に変えたのは、夜の過ごし方だった。

これまでは深夜までパソコンを開き、メールを確認し、翌日の資料を読み込む毎日。

「あと30分だけ。」

その30分が一時間になり、気が付けば午前0時を回っている。

それが当たり前になっていた。

しかし、その日から佐伯は午後10時になると仕事を終えるよう決めた。

最初は落ち着かなかった。

「返信が遅れたらどうしよう。」

「急ぎの連絡が来るかもしれない。」

そんな不安が頭をよぎる。

だが翌朝、会社へ行くと何事も起きていなかった。

「自分が思うほど、世界は夜中まで動いていないんだな。」

思わず苦笑した。


朝も少し変えた。

コーヒーだけだった朝食に、味噌汁と焼き魚、納豆を加える。

「社長、今日は健康的ですね。」

妻が笑う。

「身体への投資を始めたからな。」

そう答えると、妻も嬉しそうだった。


毎朝、庭を五分だけ歩くことも始めた。

歩きながら深呼吸をする。

鳥の声を聞く。

風を感じる。

これまでなら、スマートフォンを見ながら歩いていただろう。

しかし今は違う。

「こんなに静かな朝だったのか。」

今まで見えていなかった景色が、少しずつ見えるようになってきた。


霊芝も、毎日の生活習慣の一つとして取り入れた。

特別な期待をしたわけではない。

先生が言っていた。

「健康食品は魔法ではありません。」

「大切なのは、それをきっかけに生活全体を見直すことです。」

その言葉が心に残っていた。

だから佐伯は、霊芝だけに頼ることはしなかった。

睡眠。

食事。

適度な運動。

心を休める時間。

その一つひとつを意識する毎日に、霊芝も自然に加わった。


二週間が過ぎた頃。

社員の一人が声を掛けてきた。

「社長、最近少し雰囲気が変わりましたね。」

「そうか?」

「以前より表情が柔らかくなった気がします。」

佐伯は少し驚いた。

自分では気付かなかった。

「顔に出るものなのかな。」

「ええ。それに最近、会議でも笑うことが増えました。」

そう言われて初めて気付いた。

以前は、数字ばかり見ていた。

利益。

売上。

経費。

効率。

今は社員の表情を見る余裕が少し生まれていた。


ある日の役員会議。

若手社員が新しい企画を提案した。

以前なら、

「リスクは?」

「利益率は?」

その質問から始まっていた。

しかしその日は違った。

「面白い視点だ。」

その一言に、会議室の空気が少し変わった。

役員たちも驚いた表情を浮かべる。

会議後、高橋から電話があった。

「最近どうだ?」

「不思議なんだ。」

「何が?」

「疲れがゼロになったわけじゃない。」

「でも以前ほど引きずらなくなった気がする。」

高橋は笑った。

「毎日少しずつ変わってる証拠だ。」

「そんなものなのか。」

「健康って、階段を一段飛ばしでは上がれないんだ。」

「一段ずつなんだよ。」


その日の夜。

佐伯は書斎で一冊のノートを開いた。

そこには毎日の記録を書き始めていた。

・午後10時に仕事終了

・朝食を食べた

・15分歩いた

・霊芝を生活習慣の一つとして続けた

・夜はゆっくり入浴した

・今日もよく笑った

たったそれだけだった。

しかし、一週間前には何一つできていなかったことばかりだ。

先生の言葉が浮かぶ。

「健康は、一日の積み重ねでできている。」

佐伯は、その意味を少しずつ実感し始めていた。


数日後。

先生を訪ねると、庭の木々はさらに青々としていた。

「先生。」

「最近、不思議なことがあります。」

「何でしょう。」

「身体より先に、気持ちが変わってきました。」

先生は静かに微笑んだ。

「それで良いのです。」

「健康とは、数字だけでは測れません。」

「毎日を前向きに過ごせることも、大切な土台なのです。」

「焦る必要はありません。」

「自然は急いで育ちませんから。」

その言葉に、佐伯は深くうなずいた。


帰宅途中、ふとバックミラーに映る自分の顔を見る。

以前と同じ五十五歳。

仕事の責任も変わらない。

忙しさも変わらない。

それでも、どこか表情が違って見えた。

身体は一日で変わらない。

人生も一日では変わらない。

しかし、毎日の習慣は、確実に未来を変えていく。

佐伯は、ようやくその意味を理解し始めていた。

そして、その変化は会社にも少しずつ広がり始める。

社員たちは、以前より穏やかになった社長に気づき始めていたのだ。

──第8話「仕事の質まで変わる」へ続く。


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