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短編小説

「定年まで働ける身体を作れ」 第2話 若い頃との違い

「年齢は重ねても、諦める理由にはしたくない。」

「昔は、こんなことで疲れなかった。」

会社の階段を上り切った山本修一は、思わず手すりに手を添えた。

五十八歳。

息が切れるほどではない。

だが、以前より脚が重く感じる。

「部長、大丈夫ですか?」

若手社員の佐藤が声を掛ける。

山本は笑顔を作った。

「運動不足かな。」

そう答えたものの、自分でも分かっていた。

以前とは何かが違う。


昼休み。

社員食堂で同期の田村と向かい合って座る。

田村も同じ五十八歳だ。

「最近どうだ?」

山本が尋ねると、田村は苦笑した。

「肩は凝るし、朝は早く目が覚める。」

「若い頃みたいに無理は利かないよ。」

二人は顔を見合わせて笑う。

「俺たちも、そんな年齢になったんだな。」


帰宅後、山本は本棚から古いアルバムを取り出した。

四十歳の頃の社員旅行。

ゴルフコンペ。

家族旅行。

どの写真にも、自分は笑顔で立っていた。

「休みの日は朝から晩まで遊んでいたな。」

今は休日になると、まず「休みたい」と思ってしまう。

身体が求めるものが変わってきたのだ。


翌朝。

山本は同級生・中村の言葉を思い出し、出勤前に近所を歩いてみることにした。

最初は十分だけ。

息を整えながら歩く。

途中、公園でラジオ体操をする人たちが目に入った。

七十代と思われる男性が元気よく身体を動かしている。

「すごいな……。」

思わず見とれていると、その男性が笑顔で話しかけてきた。

「初めてですか?」

「ええ。」

「無理は禁物ですよ。」

「続けることが一番です。」

その言葉は、妙に心へ残った。


会社では、役職定年を控えた研修が始まった。

テーマは「人生100年時代のキャリア」。

講師が語る。

「定年後も働く人は増えています。」

「しかし、その土台になるのは健康です。」

「知識や経験があっても、身体が動かなければ力を発揮できません。」

山本は静かにメモを取った。

『健康は、第二の人生への投資。』

その一文が心に刺さる。


その夜。

妻の恵子が夕食に野菜や魚を中心とした献立を並べた。

「最近、少し食事を変えてみたの。」

「どう?」

山本は一口食べて笑った。

「うまい。」

「でも急に健康食だな。」

恵子は少し照れながら答えた。

「あなたが元気でいてくれるのが一番だから。」

その言葉に、山本は胸が熱くなった。


週末。

久しぶりにゴルフの練習場へ足を運ぶ。

以前なら百球打っても平気だった。

今日は五十球で腕が重くなる。

「やっぱり違うな……。」

しかし、不思議と落ち込まなかった。

隣で練習していた七十歳くらいの男性が声を掛けてきた。

「飛距離は若い頃より落ちる。」

「でも、楽しさは増えるよ。」

「身体に合わせて続ければいい。」

山本は笑顔でうなずいた。

「ありがとうございます。」


その日の夜。

書斎でノートを開く。

今日のタイトルは、

「若い頃との違い」

山本はペンを走らせる。

『若い頃と同じことを目指さなくていい。』

『今の自分に合った健康づくりを始めればいい。』

『焦らず、無理せず、続けること。』

書き終えると、不思議と心が軽くなった。


数日後。

会社の廊下で若手社員が話していた。

「部長、最近朝歩いてるんですって?」

山本は照れ笑いを浮かべる。

「まだ十五分だけだけどね。」

若手社員は笑顔で言った。

「僕も運動不足なんで、一緒に始めようかな。」

山本はその言葉を聞き、少し驚いた。

自分が始めた小さな行動が、誰かのきっかけになっている。

それは仕事の成果とは違う、静かな喜びだった。


帰宅途中の夕暮れ。

山本は公園のベンチに座り、深呼吸をした。

空は赤く染まり、子どもたちの笑い声が響いている。

「年齢は止められない。」

「でも、生き方は選べる。」

その言葉が自然と心に浮かんだ。

健康とは、若返ることではない。

これからの人生を、自分らしく歩き続ける力を育てることなのだ。

山本はゆっくり立ち上がる。

その足取りは、第1話の頃より少しだけ軽く感じられた。

次に知りたいことがある。

「健康寿命」とは、いったい何なのか。

その答えを求めて、山本の新たな学びが始まろうとしていた。

──第3話「健康寿命」へ続く。


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