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土曜日企画 エッセイ

【土曜日企画】トーチが訪ねる 日本の宝もの ➊➎

第1シリーズ「日本の健康食材を訪ねる」

第5話 「干す」という知恵

― なぜ日本には、干物や乾物が多いのか ―

こんにちは。「トーチ」です。

これまで、この連載ではさまざまな「日本の食」を訪ねてきました。

信州の味噌。

北海道の昆布。

海から生まれる塩。

どれも、現代の私たちにとっては身近な食品です。

でも、その一つひとつをたどってみると、

「昔の人は、自然の恵みを本当に上手に使っていたんだな」

と驚かされます。

今回、トーチが訪ねるのは、特別な機械も必要としない、とてもシンプルな方法です。

それは、

「干す」

という知恵です。

干し椎茸。

切り干し大根。

かんぴょう。

魚の干物。

干し柿。

そして、果物のドライフルーツ。

考えてみれば、日本の食卓には「干したもの」がたくさんあります。

なぜ、昔の人は食材を干したのでしょうか。

そして、「干す」という方法には、どんな意味があったのでしょうか。

今回は、日本人が長い時間をかけて受け継いできた「乾燥」という保存の知恵を訪ねてみたいと思います。


冷蔵庫がなかった時代

今の私たちにとって、食材を保存することは、それほど難しいことではありません。

肉や魚を冷蔵庫に入れる。

余った料理を冷凍する。

野菜を冷蔵室に入れる。

必要なときに取り出して使う。

当たり前のようにやっています。

ところが、冷蔵庫がなかった時代はどうでしょう。

収穫した野菜。

海で獲れた魚。

山で採れたきのこ。

果物。

そのままにしておけば、傷んでしまいます。

せっかく自然からいただいた食材も、食べきれなければ無駄になってしまう。

そこで、人々は考えました。

「どうすれば、食べものを長く保存できるだろう?」

塩を使う。

発酵させる。

燻す。

そして、

干す。

こうした方法が、暮らしの中で発達していったのです。


太陽と風を利用する

「干す」という方法の面白いところは、とてもシンプルなことです。

食材を切る。

広げる。

そして、乾かす。

太陽の光。

風。

気温。

湿度。

自然の力を利用して、水分を減らしていきます。

もちろん、実際の食品づくりでは、衛生管理や乾燥条件など、さまざまな知識と技術が必要になります。

しかし、考え方そのものは、とても昔からあるものです。

人間が自然を無理やり変えるのではなく、

自然が持っている力を借りる。

これは、これまで見てきた昆布や塩にも通じる考え方です。

海からいただいたものを生かす。

太陽からいただいた力を使う。

風を利用する。

自然の中にあるものを、暮らしの中で役立てる。

昔の人々は、今ほど便利な道具を持っていなかったからこそ、自然をよく観察していたのかもしれません。


なぜ「干す」と長く保存できるのか

ここで、少しだけ科学の話をしましょう。

食品が傷む原因の一つに、微生物の活動があります。

微生物が活動するには、水分などの条件が必要です。

そこで、食材の水分を減らす。

すると、微生物が利用できる水分も減っていきます。

これが、乾燥による保存の基本的な考え方です。

つまり、

「干す」ことは、単に水分を飛ばすだけではなく、食品を保存しやすくするための知恵

なのです。

昔の人々は、現代のような食品科学の知識を持っていなくても、

「こうやって干すと長持ちする」

「この時期に干すとうまくいく」

という経験を積み重ねていました。

理屈を知らなくても、何度も試し、失敗し、工夫する。

そして、その経験を次の世代へ伝える。

そこに伝統的な食文化の強さがあります。


干すと「別の食べもの」になる

「干す」という方法には、もう一つ面白いところがあります。

それは、

保存するだけではなく、味わいそのものが変わる

ということです。

例えば干し椎茸。

生の椎茸とは、香りも食感も違います。

切り干し大根も、生の大根とは別の食材のように感じます。

干し柿もそうです。

生の柿とは違う甘さや食感があります。

つまり「干す」という作業は、

「長く保存するための方法」

であると同時に、

「食材の新しい魅力を引き出す方法」

でもあるのです。

これは、とても興味深いことだと思いませんか?


干し椎茸は、山の恵みを保存する知恵

山で採れるきのこは、収穫できる時期が限られています。

たくさん採れたからといって、毎日食べ続けるわけにはいきません。

そこで干す。

乾燥させて保存する。

必要なときに水で戻して料理に使う。

これなら、収穫できない時期にも楽しめます。

つまり乾物は、

「その季節の恵みを、別の季節まで残す仕組み」

でもあります。

これは、現代の私たちが忘れかけている感覚かもしれません。

今は一年中、さまざまな食材を手に入れられます。

だから、「今採れたものを、後で食べる」という考え方が以前ほど必要ではなくなりました。

でも、乾物を見ると、

「昔は食べものを季節を越えて大切に使っていたんだな」

と気づかされます。


切り干し大根にも、暮らしの知恵がある

大根を細く切って干した「切り干し大根」。

これも、日本の家庭料理で昔から親しまれてきた乾物の一つです。

生の大根を干す。

水分が減る。

保存しやすくなる。

そして、料理すると独特の食感と味わいが生まれる。

とても合理的です。

しかも、細く切ることで乾燥しやすくなります。

つまり、

「どう切れば乾きやすいか」

「どの時期に干すか」

「どのくらい乾かすか」

といった経験も、昔の人々にとっては大切な知識だったのでしょう。

現在ならインターネットですぐに調べられます。

でも昔は、家族や地域の人から教えてもらうしかありませんでした。

料理の方法だけではなく、

「暮らしの知恵そのもの」が、世代から世代へ受け継がれていた

のです。


「干物」は海の恵みを無駄にしない

海の幸にも「干す」という知恵があります。

魚の干物です。

魚は鮮度が重要な食材です。

冷蔵庫も冷凍庫もなかった時代、獲れた魚をどう保存するかは大きな問題でした。

そこで、

塩を使う。

干す。

場合によっては、さまざまな加工をする。

そうやって保存性を高めてきました。

これも、

「たくさん獲れたときに、無駄にしない」

ための知恵です。

今の私たちは、食材が足りなければ買えばいいと思いがちです。

しかし昔は、次にいつ獲れるか分からない。

だから、手に入ったときに大切に保存する。

自然の恵みを「あるときに全部食べる」のではなく、

「未来の自分たちのために残しておく」

という発想があったのです。


干し柿に見る「待つ」という文化

秋になると、軒先に柿が吊るされている風景があります。

干し柿です。

生の柿を干して、時間をかけて仕上げる。

ここにも、「待つ」という知恵があります。

今すぐ食べるのではない。

時間をかける。

少しずつ変化していく。

そして、食べ頃を迎える。

これは、現代の生活とは少し違います。

私たちは「すぐ届く」「すぐ食べられる」「すぐ結果が出る」ことに慣れています。

でも、食文化には、

「待つことで生まれるおいしさ」

もあります。

味噌もそうでした。

昆布もそうでした。

そして干し柿もそうです。

時間を味方につける。

これも、日本の食文化に流れる大切な考え方なのかもしれません。


そして、果物も「干す」

ここで、私たちトーチにも身近な「ドライフルーツ」に目を向けてみます。

果物は、そのまま食べてもおいしい。

でも、乾燥させることで保存しやすくなり、少しずつ楽しめる食品になります。

果物の水分が抜けることで、食感も変わります。

味わいの感じ方も変わります。

生の果物とは、また違った魅力が生まれるのです。

そして何より、

旬の果物を、少し長く楽しむ

という考え方ができます。

これは、昔から続いてきた「干す」という知恵ともつながっています。

もちろん、現代のドライフルーツづくりには、衛生管理や温度、乾燥時間など、昔とは違う技術も使われています。

しかし、

「自然の恵みを、できるだけ大切に使う」

という根本にある考え方は、昔も今も変わらないのではないでしょうか。


「干す」は、食べものを大切にする方法

ここまで見てくると、「干す」という行為の意味が少し違って見えてきます。

単に保存するだけではありません。

収穫したものを無駄にしない。

旬の恵みを後の季節にも楽しむ。

食材の新しい味わいを生み出す。

必要なときに使えるようにする。

そして、自然の恵みを最後まで大切にいただく。

そう考えると、

「干す」という技術は、「もったいない」という日本人の感覚とも深くつながっている

ように思います。


現代だからこそ、見直したい知恵

もちろん、私たちは昔の暮らしに戻る必要はありません。

冷蔵庫も冷凍庫も便利です。

食品を保存する技術も進歩しています。

便利なものは、どんどん使えばいい。

ただ、その一方で、昔の人々が持っていた考え方には、今の私たちが学べるところがあります。

「手に入ったものを大切にする」

ということです。

安易に捨てない。

必要以上に買わない。

旬を知る。

保存する。

最後までおいしく食べる。

こうした小さな習慣は、食生活を豊かにするだけではありません。

食品ロスを減らすことにもつながります。


店長のひとこと

私は、地域を訪ねるとき、その土地の「保存食」が気になります。

なぜなら、保存食には、その地域の暮らしがそのまま残っていることが多いからです。

海の近くなら魚の保存食。

山間部なら山菜やきのこの乾物。

農村部なら野菜や果物の保存食。

そこには、

「その土地では何が採れたのか」

「どんな季節だったのか」

「どうすれば長く食べられたのか」

という歴史があります。

保存食は、単なる昔の食べものではありません。

その土地の人々が生きていくために積み重ねてきた知恵の結晶

なのだと思います。

だから、私は地域の商品を選ぶときも、できるだけその背景を知りたいと思っています。


「買う」だけではなく「知る」

トーチでは、商品を販売しています。

もちろん、商品を買っていただければありがたい。

でも、それだけではありません。

私たちが大切にしたいのは、

「なぜ、この商品が生まれたのか」

を知っていただくことです。

どこで作られたのか。

誰が作ったのか。

どんな自然があるのか。

どんな歴史があるのか。

どんな知恵が受け継がれているのか。

それを知ると、同じ商品でも見え方が変わります。

価格だけで比べるのではなく、

「この商品には、こんな背景があるんだ」

と感じてもらえる。

トーチが目指しているのは、そんな買い物の形です。


今日からできる「干す」という知恵

「干す」という話をすると、

「自分でも何か干してみようかな」

と思う方もいるかもしれません。

天日干しなどを家庭で行う場合は、食材や季節、湿度、衛生状態によって安全性が大きく変わります。

無理に自己流で食品を保存する必要はありません。

まずは、昔ながらの乾物を一品、食卓に取り入れてみるだけでも十分です。

干し椎茸。

切り干し大根。

乾燥わかめ。

かんぴょう。

干物。

ドライフルーツ。

そして、

「これは、どうやって作られているんだろう?」

と考えてみる。

それだけでも、日本の食文化を少し身近に感じられると思います。


一枚の干し椎茸にも、時間が詰まっている

生の椎茸なら、スーパーで簡単に買えます。

でも、乾物になるまでには、

育てる。

収穫する。

選別する。

乾燥させる。

保存する。

という工程があります。

そして、その背景には、

「昔から、この方法で保存してきた」

という地域の経験があります。

一枚の干し椎茸を見るだけで、

山。

木。

雨。

太陽。

風。

人の手。

そんな風景まで想像できます。

商品というものは、面白いものです。

小さな袋の中に、

その土地の自然と、人の仕事と、時間が詰まっている。

そう考えると、食べものが少し特別に感じられませんか?


おわりに

「干す」という、とてもシンプルな方法。

でも、その背景には、

自然を読む知恵。

食べものを保存する知恵。

旬を未来へ残す知恵。

無駄にしない知恵。

そして、時間を味方にする知恵。

がありました。

現代の私たちは、昔よりずっと便利な暮らしをしています。

だからこそ、昔の知恵をそのまま真似する必要はありません。

ただ、

「昔の人は、限られた環境の中で、こんな工夫をしていたんだ」

と知ることには意味があります。

そして、その知恵の中から、今の暮らしにも取り入れられる考え方を一つ見つける。

それだけでも、毎日の食卓は少し豊かになるのではないでしょうか。

トーチはこれからも、

「日本の各地に残る、自然と人がつくった知恵」

を訪ねていきます。

商品だけを見るのではなく、その背景を見る。

食べものだけを見るのではなく、その土地を見る。

そして、そこに暮らす人たちの仕事を見る。

そんな視点で日本を眺めてみると、私たちの身近なところにも、まだまだたくさんの「宝もの」があることに気づかされます。

次回は、保存の知恵からさらに一歩進んで、

「発酵」という、日本が世界に誇る食文化

を訪ねます。

味噌、醤油、漬物、甘酒、納豆……。

なぜ日本には、これほど多くの発酵食品が生まれたのでしょうか。

そして、発酵を受け継いできた人々は、何を大切にしてきたのでしょうか。

次回も、日本の食卓に隠された「知恵」を一緒に探してみたいと思います。

トーチ――自然の恵みと、豊かな暮らしをあなたのもとへ。

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