BLOG & INFO

短編小説

「定年まで働ける身体を作れ」 第9話 孫と遊べる幸せ

「元気でいることが、家族への最高の贈り物だった。」

春の陽気が心地よい日曜日。

山本修一は、息子夫婦の家へ向かっていた。

「今日は楽しみだな。」

車の助手席で妻の恵子が微笑む。

「この前生まれたばかりだと思っていたのに、もう公園を走り回る年齢なんだもの。」

二人が会いに行くのは、三歳になった孫の陽翔(はると)だった。


玄関のドアが開くと、小さな足音が駆け寄ってくる。

「おじいちゃーん!」

陽翔は満面の笑みで山本に抱きついた。

「元気だったか?」

山本はしゃがみ込み、孫を抱き上げる。

以前なら、この動作だけでも腰に不安を感じていた。

しかし今は違う。

少し重くなった孫を抱いても、自然と笑顔がこぼれる。


昼食のあと、一家で近くの公園へ出かけた。

「おじいちゃん、鬼ごっこ!」

陽翔は元気いっぱいに走り出す。

山本もゆっくり後を追う。

「待て待て!」

全力ではない。

それでも一緒に走れることがうれしかった。

滑り台を滑り、ブランコを押し、ボールを投げる。

息は少し上がる。

だが、心は軽かった。


ベンチで一休みしていると、息子が隣に座った。

「父さん。」

「最近、本当に元気になったね。」

山本は少し照れながら笑う。

「まだ若い頃みたいにはいかないよ。」

「でも、毎日の積み重ねは裏切らないな。」

息子は静かにうなずいた。

「小さい頃、父さんは忙しくて、あまり遊べなかった。」

「でも今日は、陽翔と一緒に走ってる姿を見て、なんだかうれしかった。」

その言葉に、山本の胸は熱くなった。


夕方。

帰宅の時間が近づいた。

陽翔が小さな手を握って言う。

「また遊ぼうね!」

「もちろん。」

「次はもっと大きな公園へ行こう。」

その約束を交わした瞬間、山本は強く思った。

「この約束を守るためにも、健康でいたい。」


帰宅後。

リビングで写真を眺める。

公園で笑う陽翔。

ボールを追いかける自分。

その笑顔は、数年前の疲れ切った表情とはまるで違っていた。

恵子が写真を見ながら言う。

「あなた、本当に楽しそう。」

山本は静かに答えた。

「健康って、自分のためだけじゃないんだな。」

「家族との時間を増やすためでもある。」


翌日。

会社で若手社員に尋ねられた。

「部長、休日は何をしていたんですか?」

山本は笑顔で答える。

「孫と遊んできた。」

「一日中走り回ってね。」

若手社員は驚いた。

「すごいですね。」

山本は首を振る。

「昔なら無理だったかもしれない。」

「でも今は、健康づくりを続けてきて良かったと思える。」

その一言には実感が込められていた。


その夜。

書斎でノートを開く。

今日のタイトルは、

『孫と遊べる幸せ』

ゆっくりと書き始める。

『健康は、自分だけのものではない。』

『家族との約束を守る力。』

『笑顔を増やす力。』

『未来を楽しみにできる力。』

そして最後に、こう記した。

『元気でいることが、家族への最高の贈り物。』


数日後。

会社の窓から夕焼けを眺めながら、山本はふと思う。

「定年まで働くこと。」

それも大切だ。

しかし、その先にはもっと長い人生がある。

仕事だけではない。

家族と笑い、趣味を楽しみ、地域で人とつながる。

そんな毎日が待っている。

「第二の人生。」

その言葉が、以前よりずっと現実味を帯びて感じられた。

役職定年も、定年退職も終わりではない。

新しい人生の始まりなのだ。

山本は静かに窓を閉める。

その表情には、不安よりも期待があった。

──最終話「第二の人生」へ続く。


プライバシーポリシー / 特定商取引法に基づく表記 / 利用規約

Copyright © 2025 酒井 恒和 All Rights Reserved.

CLOSE