連載【甘さを足さない理由――果物本来の味を探す旅】 第10話
第10話 トーチが「足さない」という選択をする理由 第
「どうして、トーチはこのドライフルーツを選んだんだろう?」
彼女は、前回からずっと考えていた。
砂糖を加えていない。
素材そのものを生かしている。
長野の果物を使っている。
それだけを聞けば、
「自然派だから?」
と思うかもしれない。
でも、ここまで話を読んできた彼女には、それだけではないように思えた。
最初は、
「甘いものには、砂糖が入っている」
と思っていた。
ところが、果物にはもともと甘さがある。
そして、水分を抜くことで、
その甘さを強く感じることもある。
だから、
「甘くするために、必ず砂糖を足す必要がある」
とは限らない。
もちろん、砂糖を加えることには意味がある。
味を調整したり、商品としての特徴をつくったりすることもできる。
添加物についても同じだ。
すべてを一括りにして、
「入っているから悪い」
という話ではない。
大切なのは、
「なぜ、それを加えるのか」
ということだった。
彼女は、ここで一つのことに気づいた。
トーチが大切にしているのは、
「何も加えないこと」そのものではない。
もっと大切なのは、
「その素材にとって、本当に必要なのか?」
と考えることなのではないだろうか。
砂糖を加える。
添加物を使う。
加工方法を変える。
それぞれに理由がある。
だからこそ、
「使う・使わない」
だけではなく、
「その加工によって、素材の魅力はどう変わるのか」
を見る。
たとえば、一粒のブドウ。
そのブドウには、
品種がある。
産地がある。
育てられた環境がある。
収穫される季節がある。
そして、生産者がいる。
そこには、
その果物にしかない個性がある。
もし、その個性を味わってほしいのであれば、
何かを足して味をつくるより、
果物そのものの持ち味を伝える
という方法もある。
トーチが考えているのは、
そんな商品との向き合い方だ。
「足さない」という言葉は、
一見すると、とても消極的に聞こえる。
何もしない。
我慢する。
余計なものを使わない。
そんな印象を持つ人もいるかもしれない。
でも、
トーチにとっての「足さない」は、
むしろ積極的な選択だ。
何を残したいのか。
何を伝えたいのか。
そのために、
何を加えないほうがいいのか。
そこを考える。
つまり、
「足さない」ということは、素材を見ることでもある。
長野の果物を使ったドライフルーツなら、
「長野産だから選ぶ」
というだけでもない。
長野という土地で育った果物には、
その土地ならではの魅力がある。
その果物を、
どんな品種として選ぶのか。
どんな状態で加工するのか。
どこまで素材の個性を残すのか。
そして、
それを食べる人にどう伝えるのか。
一つひとつを考えていく。
そうすると、
商品選びは単純な
「良い・悪い」
ではなくなってくる。
彼女は、これまでのことを振り返った。
第1話では、
「甘い=砂糖」
と思っていた。
第2話では、
果物そのものに甘さがあることを知った。
第3話では、
乾燥によって甘さを強く感じる理由を考えた。
第4話では、
砂糖を加えることにも意味があると知った。
第5話では、
添加物を単純に「悪」と決めつけるのではなく、
その役割を見ることを学んだ。
第6話では、
「自然派」という言葉だけで判断しないことを考えた。
第7話では、
「何を入れるか」だけでなく、
「何を入れないか」という視点を持った。
第8話では、
素材の良さを加工で隠さないことを考えた。
そして第9話では、
食べものの背景を知ることで、
一粒の見え方が変わることを知った。
こうして振り返ると、
すべてが一本の線でつながっている。
素材を見る。
↓
加工を見る。
↓
何を加えたのかを見る。
↓
何を加えなかったのかを見る。
↓
その理由を考える。
↓
そして、食べものそのものを見る。
トーチが伝えたいのは、
「砂糖不使用だから買ってください」
という単純なメッセージではない。
むしろ、
「あなたなら、この食品をどう見ますか?」
という問いなのだと思う。
食品を選ぶとき、
価格を見る。
容量を見る。
口コミを見る。
原材料表示を見る。
産地を見る。
それぞれ大切な判断材料だ。
そこにもう一つ、
「この商品は、素材をどう扱っているのだろう?」
という視点を加えてみる。
すると、
同じドライフルーツでも、
見え方が変わってくる。
砂糖が入っているか。
入っていないか。
それだけではない。
なぜ入っているのか。
なぜ入れていないのか。
どんな果物を使っているのか。
なぜ、その果物なのか。
どんな味を残したいのか。
そうやって考えると、
食品表示の小さな文字さえ、
少し面白く見えてくる。
そして、
それこそがトーチの商品選びにつながっている。
トーチは、
「売れそうだから」
という理由だけで商品を選びたいわけではない。
「有名だから」
「安いから」
「流行っているから」
という理由だけでもない。
その土地に、
その素材に、
そのつくり手に、
そして、その商品そのものに、
「これは、届ける意味がある」
と思える理由があるか。
そこを見る。
もちろん、
すべての人が同じ食品を選ぶ必要はない。
砂糖を加えた商品には、
砂糖を加えた商品の良さがある。
添加物にも、
それぞれの役割がある。
大切なのは、
何かを一方的に否定することではない。
自分が何を大切にして食品を選ぶのか。
その基準を持つことだ。
トーチが、
「足さない」という選択をするのも、
その一つである。
そして、
もう一つ大切なのは、
その選択をきちんと伝えること。
「砂糖不使用です」
と書くだけでは、
なぜそうしたのかまでは伝わらない。
だからトーチは、
その背景を伝えたい。
果物には、
もともとの甘さがある。
その甘さを、
そのまま味わってほしい。
素材の個性を、
できるだけそのまま感じてほしい。
そして、
一粒の果物の向こうにある、
産地や品種やつくり手にも、
少しだけ興味を持ってほしい。
彼女は、
手のひらに一粒のドライフルーツをのせた。
以前なら、
「甘い」
それだけだった。
今は違う。
「この甘さは、どこから来たんだろう?」
と思う。
「どんな果物なんだろう?」
と思う。
「どこで育ったんだろう?」
と思う。
「なぜ、この加工方法なんだろう?」
とも考える。
たった一粒なのに、
そこからいろいろなことが見えてくる。
もしかすると、
「食べる」ということは、
もっと自由なのかもしれない。
健康のためだけでもない。
お腹を満たすためだけでもない。
おいしさだけでもない。
その食べものを知る。
つくった人を知る。
育った土地を知る。
季節を知る。
そして、
「いただきます」
と口にする。
そこには、
小さな学びも、
小さな発見も、
小さな旅もある。
だからトーチは、
商品だけを届けたいわけではない。
「食べものを見るための物差し」も届けたい。
何を足したのか。
何を足していないのか。
どんな素材なのか。
どこから来たのか。
なぜ、その商品がつくられたのか。
そうしたことを知ったうえで、
最後は、
一人ひとりが自分の基準で選んでほしい。
それが、
トーチの考える
「旅するように、選ぶ」
ということなのかもしれない。
「だから、このドライフルーツなんだ」
彼女は、ようやく納得した。
砂糖を足していない。
それは、
「砂糖が悪いから」
ではない。
素材そのものの甘さを、
まず味わってほしいから。
添加物を使っていない。
それは、
「添加物がすべて悪いから」
ではない。
この果物なら、
余計なものを加えなくても、
その魅力を伝えられると考えたから。
長野の果物を選んだ。
それは、
「長野だから無条件に良い」
ということではない。
この土地で育った果物に、
届けたいと思える魅力を感じたから。
一粒のドライフルーツ。
それは、
単なる「甘いおやつ」ではない。
果物であり、
土地であり、
品種であり、
つくり手であり、
加工であり、
時間でもある。
そして、
それを選ぶ人の価値観も、
そこに加わる。
だから、
同じ一粒でも、
知る前と知った後では、
少し違って見える。
この連載で伝えたかったのは、
「砂糖を使っていない食品が一番良い」
ということではない。
そうではなく、
「食品を、表示やイメージだけで決めつけず、その背景まで見てみよう」
ということだった。
「自然派だから良い」
でもない。
「無添加だから良い」
でもない。
「高いから良い」
でもない。
その商品が、
何を目指してつくられ、
どんな素材を使い、
どんな加工を選び、
何を大切にしているのか。
そこまで知って、
自分自身の物差しで選ぶ。
トーチが、
「足さない」という選択をする理由。
それは、
素材の声を、できるだけそのまま届けたいから。
そして、
その一粒を食べた人に、
「この果物、なんだろう?」
と興味を持ってもらいたいから。
そこから、
産地を知る。
品種を知る。
つくり手を知る。
食べものを知る。
そして、
いつもの食卓が、
少しだけ豊かになる。
彼女は、
最後の一粒をゆっくり味わった。
「甘いね」
そして、
少し笑って、
こう続けた。
「でも、この甘さは、足された甘さじゃないんだね」
その一言が、
今回の旅の答えだった。
果物には、
果物自身の味がある。
その魅力を知れば、
無理に何かを足さなくても、
十分に楽しめるものがある。
だからトーチは、
「足さない」という選択をする。
それは、
何かを我慢するためではない。
素材が持っているものを、
もう一度、
きちんと味わうために。
🍇 トーチの視点
今回のテーマで、
トーチが一番伝えたかったこと。
それは、
「足さないこと」そのものではありません。
大切なのは、
「なぜ足さないのか」
を考えることです。
砂糖を使うことにも理由があります。
添加物を使うことにも、
それぞれの役割があります。
だからこそ、
「入っている・入っていない」
だけで食品を判断するのではなく、
その背景を見る。
どんな素材なのか。
どこで育ったのか。
誰がつくったのか。
なぜ、その加工方法を選んだのか。
そして、
何を残したかったのか。
トーチが選んだドライフルーツは、
砂糖や油、余分な味付けを加えず、
果物そのものの味わいを楽しんでもらうことを大切にしています。
それは、
「これが正解です」
と押しつけるためではありません。
「こんな選び方もあります」
と、一つの選択肢を届けるためです。
食べものを知る。
素材を知る。
つくり手を知る。
そして、
自分の物差しで選ぶ。
それが、
トーチの考える
「旅するように、選ぶ」
ということです。
🍇 テーマ④を終えて
「甘さを足さない理由――果物本来の味を探す旅」
全10話を通して、
私たちは一つのドライフルーツを、
少し違った角度から見てきました。
甘さ。
砂糖。
添加物。
素材。
加工。
産地。
品種。
つくり手。
そして、
食べる人。
一粒のドライフルーツを入り口にすると、
そこには、
思っていた以上にたくさんの物語があります。
トーチは、
これからも、
ただ商品を紹介するのではなく、
「その商品を選ぶための物差し」
を一緒にお届けしていきたいと思います。
旅をするように、
知らなかったものに出会う。
知ることで、
見え方が変わる。
そして、
自分の感覚で選ぶ。
それが、
トーチの考える
「旅するように、選ぶ」
です。
次の旅でも、
また新しい「日本のいいもの」を探していきます。

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