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エッセイ 小説

連載【甘さを足さない理由――果物本来の味を探す旅】 第9話

第9話 子どもにも、大人にも、素材を知って食べてほしい

「このブドウ、どこで育ったんだろう?」

彼女は、ドライフルーツを一粒つまみながら、ふとそんなことを考えた。

以前なら、

「甘いな」

「おいしいな」

それだけで終わっていた。

でも、今は違う。

この一粒になるまでに、

どこで育ったのか。

どんな品種なのか。

誰がつくったのか。

どうやって乾燥させたのか。

そんなことまで気になってくる。


考えてみれば、私たちは毎日たくさんのものを食べている。

ご飯。

野菜。

魚。

肉。

果物。

パン。

お菓子。

でも、

「これは、どこから来たんだろう?」

と考える機会は、意外と少ない。

スーパーに並んでいる食品は、

すでにきれいに包装され、

すぐに食べられる状態になっている。

便利だからこそ、

その向こう側にある「食べものの姿」が見えにくくなっている。


彼女は、子どものころを思い出した。

祖父母の家に遊びに行ったとき、

庭で採れた野菜を見せてもらったことがある。

「これは今日採れたんだよ」

そう言われて食べたトマトは、

スーパーで買うトマトとは少し違って感じた。

味だけではない。

「今朝、畑から採ってきた」

という話を聞いてから食べたから、

そのトマトが少し特別に感じられたのかもしれない。


食べものは、

味だけでできているわけではない。

どこで育ったのか。

誰が育てたのか。

どんな季節に収穫されたのか。

どんな方法で加工されたのか。

そうした背景を知ると、

同じ一口でも、見え方が変わる。

これは、

「背景を知れば、必ずおいしく感じる」

という単純な話ではない。

むしろ、

食べものを知ることで、味わうための視点が増える。

それが面白いのだ。


たとえば、

「ブドウ」と一言で言っても、

いろいろな品種がある。

色も違う。

香りも違う。

皮の特徴も違う。

甘さや酸味の感じ方も違う。

そして、

同じ品種でも、

育った場所や栽培環境によって、

味わいには違いが出ることがある。

だから、

「ブドウは甘い果物」

だけではなく、

「このブドウは、どんな果物なんだろう?」

と考えてみる。

それだけで、

一粒を見る目が変わってくる。


彼女は、ドライフルーツの袋をもう一度見た。

原材料。

産地。

品種。

商品の説明。

以前は、

「買うために必要な情報」

として見ていた。

でも今は、

「知るための情報」

にも見えてくる。

食品表示は、

ただの小さな文字ではない。

そこには、

その食品が何からできているのかを知るための手がかりがある。


「これ、子どもにも教えてあげたいな」

彼女はそう思った。

たとえば、

おやつにドライフルーツを一粒出して、

「これは何の果物でしょう?」

と聞いてみる。

「ブドウ!」

「じゃあ、どこで育ったのかな?」

「どうして乾かしたのかな?」

そんな会話をする。

難しい食育の教材がなくても、

一粒の果物から、

いろいろな話が始められる。


そして、それは子どもだけの話ではない。

大人になってからも、

知らないことはたくさんある。

「ナガノパープルって、どんなブドウ?」

「シャインマスカットは、どういう特徴がある?」

「ドライフルーツにすると、味はどう変わる?」

「なぜ砂糖を加えなくても甘く感じる?」

知らなければ、

ただの商品だ。

でも、

少し知ると、

そこに興味が生まれる。

興味が生まれると、

もっと知りたくなる。


彼女は思った。

「食べる」ということは、知ることから始まるのかもしれない。

何を食べるのか。

どこから来たのか。

何からできているのか。

どんな人がつくったのか。

どうやって自分のところまで届いたのか。

そうやって考えると、

普段何気なく口にしているものが、

少し違って見えてくる。


これは、トーチが大切にしていることでもある。

トーチは、

「この商品は、おいしいですよ」

だけで終わる商品紹介をしたいわけではない。

もちろん、

おいしさは大切だ。

でも、

その前に、

「この商品は、何なのか」

を知ってほしい。

どんな素材なのか。

どこから来たのか。

なぜ、その素材を選んだのか。

そして、

どんな考え方で商品になったのか。


たとえば、

長野の果物を使ったドライフルーツなら、

「長野産です」

と伝えるだけでも情報にはなる。

でも、

その先にある物語を知れば、

もっと面白くなる。

長野は、なぜ果物の産地として知られているのか。

どんな果物が育つのか。

生産者は、どんなことを大切にしているのか。

旬の果物が、

どのように加工され、

一粒のドライフルーツになったのか。

そこまで知れば、

一粒の中に、

「土地」と「人」と「時間」

が見えてくる。


彼女は、ドライフルーツを一粒、手のひらにのせた。

最初は、

ただの一粒だった。

でも今は違う。

この一粒には、

果物が育った土地がある。

果物を育てた人がいる。

収穫するまでの時間がある。

加工する人がいる。

そして、

それを届ける人がいる。

そう考えると、

小さな一粒が、

ずいぶん大きなものに見えてきた。


だからこそ、

子どもにも、

大人にも、

「何を食べているのかを知ってから食べる」

という楽しさを伝えたい。

難しい知識を覚える必要はない。

産地を一つ知る。

品種を一つ覚える。

つくり方を少し知る。

それだけでもいい。

知識が増えると、

食べものとの距離が少し近くなる。

そして、

「いただきます」

という言葉の意味も、

少し違って感じられるかもしれない。


食べものを選ぶとき、

「健康に良いか」

「価格はいくらか」

「便利か」

という視点はもちろん大切だ。

でも、

もう一つ、

「この食べもののことを、私はどれくらい知っているだろう?」

という視点があってもいい。

知らないからダメなのではない。

知れば、もっと楽しめる。

それだけのことだ。


彼女は、最後の一粒を口に入れた。

「おいしい」

その言葉は、

最初に食べたときと同じだった。

でも、

その「おいしい」の中身は、

少し変わっていた。

ただ甘いからではない。

ただ食べやすいからでもない。

この一粒が、どこから来たのかを少し知っている。

そのことが、

食べる時間を少し豊かにしてくれていた。


そして彼女は思った。

「トーチが商品を選ぶときも、きっと同じなんだろうな」

ただ、

「売れそうだから」

ではない。

ただ、

「有名だから」

でもない。

その土地に、

その素材に、

そのつくり手に、

「これは届けたい」

と思える理由がある。

そして、

その理由を、

きちんと伝える。

それが、

一つの商品を選ぶということなのかもしれない。


ここまで考えてきて、

彼女には最後に一つの疑問が残った。

「じゃあ、トーチはどうして、このドライフルーツを選んだんだろう?」

砂糖を足さないこと。

素材を生かすこと。

原料の良さを隠さないこと。

そして、

食べものの背景を知ってもらうこと。

これまでの話は、

すべて一つにつながっている。

次回はいよいよ、

「トーチが、このドライフルーツを選んだ理由」

を聞いてみたい。


🍇 トーチの視点

一粒のドライフルーツにも、

産地があります。

品種があります。

つくり手がいます。

そして、

そこに至るまでの時間があります。

トーチが伝えたいのは、

「この商品を買ってください」

ということだけではありません。

まず、

「これは、どんな食べものなんだろう?」

と興味を持ってもらいたい。

知る。

見つける。

味わう。

そして、

「こんな果物だったんだ」

と感じてもらう。

食べものを知ることは、

毎日の食事を少し豊かにする、

小さな旅のようなものかもしれません。

トーチは、

そんな「食べものとの出会い」も届けたいと考えています。

次回予告

第10話「トーチが『足さない』という選択をする理由」

砂糖。

添加物。

加工。

素材。

産地。

そして、食べものを知ること。

ここまで考えてきたことが、

最後に一つにつながります。

なぜトーチは、このドライフルーツを選んだのか。

テーマ④の最終話で、

その理由をお話しします。


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