連載【甘さを足さない理由――果物本来の味を探す旅】 第8話
第8話 原料の良さを加工で隠さない
「素材を生かすって、どういうことなんだろう?」
彼女は、キッチンでドライフルーツを眺めていた。
前回まで、
「何を入れるか」
「何を入れないか」
について考えてきた。
砂糖には、砂糖の役割がある。
食品添加物にも、それぞれの役割がある。
だから、
「入っているから悪い」
「入っていないから良い」
という単純な話ではない。
では、
素材を生かすということは、何なのだろう。
彼女は、ふと生のブドウを思い浮かべた。
甘い。
少し酸味がある。
皮には独特の風味がある。
噛んだときの食感もある。
香りもある。
同じブドウでも、
品種が違えば味わいも違う。
育った土地が違えば、また違う。
収穫する時期によっても違う。
つまり、
果物には、最初から個性がある。
それなら、その個性をできるだけ残すことも、
「素材を生かす」ということなのではないだろうか。
ところが、食品は加工することで大きく姿を変える。
切る。
煮る。
焼く。
発酵させる。
乾燥させる。
加工には、さまざまな方法がある。
そして加工の仕方によって、
味も。
香りも。
食感も。
見た目も変わる。
加工は、素材を食べやすくしたり、保存しやすくしたり、新しい味わいを生み出したりする。
だから、
加工すること自体が悪いわけではない。
むしろ、昔から人は加工によって食べものの可能性を広げてきた。
では、どこからが「素材を隠す」ということになるのだろう。
彼女は考えた。
たとえば、
果物の甘さを生かしたいのに、
砂糖の甘さが強すぎたらどうだろう。
果物の香りを楽しんでほしいのに、
別の香りが強くなったらどうだろう。
果物そのものの味を知ってほしいのに、
味付けが強くなりすぎたらどうだろう。
もちろん、
それによって別のおいしさが生まれることもある。
だから、
「味付けされた食品が悪い」
ということではない。
ただ、
素材そのものを味わいたい食品なら、素材の個性が見えなくならない加工が大切になる。
彼女は、一粒のドライフルーツを手に取った。
生のブドウとは、ずいぶん姿が違う。
水分は少ない。
柔らかさも違う。
一粒の大きさも変わって見える。
それでも、口に入れて噛んでみる。
甘さがある。
酸味もある。
ブドウらしい香りも感じる。
「ちゃんと、ブドウなんだ……」
姿は変わっても、
果物としての個性が残っている。
それが、彼女には少し不思議で、そして面白く感じられた。
考えてみれば、
「素材を生かす」というのは、
素材を加工しないことではない。
生のまま食べることだけでもない。
むしろ、
必要な加工をしながら、素材の魅力を残すこと。
それも一つの考え方なのかもしれない。
ドライフルーツなら、
「乾燥する」
という加工をする。
水分を減らすことで、保存性や食べ方が変わる。
生果とは違う食感になる。
味の感じ方も変わる。
それでも、
果物そのものの甘さや香りを楽しめる。
彼女は、以前よりも「砂糖不使用」という言葉を深く考えるようになっていた。
最初は、
「砂糖が入っていない食品」
というだけだと思っていた。
でも、今は違う。
その背景には、
「砂糖を加えなくても、この果物の魅力を伝えられる」
という考え方があるのかもしれない。
そして、
「だから、あえて足さない」
という選択につながっている。
もちろん、すべての果物が同じようにできるわけではない。
果物には、それぞれ個性がある。
甘い果物。
酸味の強い果物。
香りの強い果物。
水分の多い果物。
皮に特徴のある果物。
だから、
「砂糖を使わないこと」だけを目的にしてしまうと、本当の意味で素材を生かすことにはならない。
大切なのは、
「この素材には、どんな魅力があるのか」
を知ること。
その魅力に合わせて、
「どんな加工が合うのか」
を考えること。
ここに、トーチが商品を選ぶときの視点がある。
トーチは、
「無添加だから仕入れる」
「砂糖不使用だから仕入れる」
という一つの基準だけで商品を見ているわけではない。
その前に、
「この素材には、どんな魅力があるのか?」
を見る。
そして、
「その魅力を、加工によってきちんと伝えられているか?」
を考える。
素材が良くても、
その良さが加工によって分からなくなってしまえば、
「素材を生かした商品」とは言いにくい。
彼女は、ドライフルーツをもう一粒食べた。
「そうか……」
「足さないことも大事だけど、それだけじゃないんだ」
素材を選ぶ。
加工方法を考える。
味をつくりすぎない。
そして、
素材の個性を残す。
その全部がつながって、
「素材を生かす」
ということになる。
食品を選ぶとき、
「無添加」
「砂糖不使用」
という表示だけを見るのではなく、
その商品を一度、少し離れて見てみる。
「この商品の主役は何だろう?」
と考える。
果物なのか。
調味料なのか。
香りなのか。
食感なのか。
そして、
「その主役が、ちゃんと感じられるだろうか?」
と考えてみる。
それだけでも、
食品を見る目は少し変わってくる。
彼女は思った。
「良い素材を使うだけでは、十分じゃないんだ」
どんな素材を選ぶか。
どう加工するか。
何を加えるか。
何を加えないか。
そして、
何を残すか。
食品づくりには、
たくさんの選択がある。
その一つひとつが、
最後に口へ入る一粒につながっている。
トーチが届けたいのは、
単に「砂糖不使用」という商品ではない。
果物そのものの魅力を知ってもらえる商品。
そして、
「この果物には、こんな味があるんだ」
と感じてもらえる商品。
それが、
トーチが考える「素材を生かす」ということだ。
彼女は、ふと子どものころを思い出した。
夏に食べたブドウ。
冷蔵庫から出したばかりの冷たいブドウを、
家族で一粒ずつ食べた。
特別な味付けなどなかった。
それでも、
甘くて、
みずみずしくて、
おいしかった。
果物は、
それだけでも食べものとして完成している。
ドライフルーツは、
その果物を別の形で楽しむ方法なのかもしれない。
だからこそ、
果物が持っている魅力を、できるだけ大切にしたい。
そんな思いが、
「足さない」という選択につながっている。
そして彼女は、次の疑問を持った。
「じゃあ、そんな果物を食べるとき……」
「子どもにも、大人にも、その素材のことを知ってもらえたら、もっと面白いんじゃないかな?」
どこで育ったのか。
どんな果物なのか。
なぜ、この味なのか。
誰がつくったのか。
一粒のドライフルーツにも、
その背景には、
たくさんの物語がある。
次回は、
「子どもにも、大人にも、素材を知って食べてほしい」
というところから、
食べものを「知る楽しさ」について考えてみたい。
🍇 トーチの視点
「素材を生かす」という言葉は、
単に「無添加」という意味ではありません。
大切なのは、
素材が本来持っている魅力を、加工によって隠さないこと。
そのためには、
素材を知る。
加工方法を考える。
必要なものを加える。
必要のないものは加えない。
そして、
素材の個性を残す。
トーチが大切にしているのは、
「何を入れないか」だけではなく、「何を残したいのか」
という視点です。
ドライフルーツの主役は、
あくまでも果物。
その果物が持っている甘さや香り、酸味、個性を、
一粒の中に感じてもらいたい。
だからトーチは、
素材の良さを隠さない加工
を大切にしています。
次回予告
第9話「子どもにも、大人にも、素材を知って食べてほしい」
一粒のドライフルーツにも、
産地があり、
品種があり、
つくり手がいます。
「何を食べるか」だけではなく、
「何を食べているのかを知る」
ことで、食事はもっと面白くなる。
次回は、食べものを知ることの楽しさについて考えます。

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