連載【甘さを足さない理由――果物本来の味を探す旅】 第3話
第3話 乾燥すると甘く感じるのはなぜ?
「やっぱり、不思議だな……」
彼女は、生のブドウとドライフルーツを並べてみた。
どちらも同じ果物。
けれど、食べてみると印象が違う。
生のブドウは、みずみずしい。
口の中に果汁が広がる。
一方、ドライフルーツは、噛むほどに甘さが感じられる。
「砂糖は入っていないのに……」
彼女は首をかしげた。
前回の疑問が、もう一度よみがえってきた。
そもそも、果物の中には何が入っているのだろう。
果物を思い浮かべると、まず思い浮かぶのは「水分」だ。
ブドウを噛めば、果汁が出てくる。
桃もそう。
梨もそう。
スイカなら、なおさらだ。
果物は、たくさんの水分を含んでいる。
そして、その水分の中には、果物がもともと持っている糖類や酸、有機酸、香りの成分などが含まれている。
つまり、
果物は「水分の中に、いろいろな味が存在している食べ物」
とも考えられる。
では、その果物を乾燥させたらどうなるだろう。
当然、水分が減っていく。
たとえば、果物の中に含まれていた水分が大きく減れば、
果物そのものの成分が、少ない水分の中に残る。
そのため、生の状態とは味の感じ方が変わってくる。
ドライフルーツを食べたときに、
「甘い」
「味が濃い」
と感じやすいのは、そのためだ。
もちろん、乾燥すれば何でも単純に甘くなるわけではない。
果物の種類や品種、熟度、乾燥方法などによって、仕上がりは変わる。
それでも、
「水分が減ることで、もともとの味わいを濃く感じやすくなる」
というのが、乾燥を理解するうえで大切なポイントになる。
彼女は、生のブドウを一粒食べた。
「みずみずしい……」
次に、ドライフルーツを一粒。
「こっちは……甘さが強く感じる」
同じ「ブドウ」なのに、ずいぶん印象が違う。
そこで、彼女は気づいた。
「もしかして……」
「甘くするために、何かを足しているんじゃなくて?」
「もともとあるものが、違って感じられているだけ?」
その通り。
少なくとも、砂糖を加えていないドライフルーツなら、
甘さをつくるために砂糖を足したわけではない。
果物自身がもともと持っている糖類があり、
そこから水分を減らしていくことで、
生の果物とは違った味わいになる。
これは、考えてみると面白い。
私たちは普段、
「味を濃くする」
と聞くと、
「何かを加える」
ことを想像しがちだ。
砂糖を加える。
塩を加える。
調味料を加える。
けれど、食品の世界にはもう一つの方法がある。
「水分を減らす」
という方法だ。
これは、昔から人が食べ物を保存するためにも利用してきた知恵の一つ。
果物だけではない。
魚を干す。
野菜を干す。
肉を干す。
きのこを干す。
水分を減らすことで、食べ物の状態や味わいを変えてきた。
「乾かす」という行為は、単純に水分をなくすだけではない。
食べ物との付き合い方を変える方法でもある。
そして、ここがトーチにとって大切なところだった。
もし果物そのものに、
「甘さ」
「酸味」
「香り」
「食感」
という個性があるのなら。
それを最初から砂糖や香料などで大きく変えてしまうのではなく、
まず、その果物が持っているものを味わってみたい。
そう考える。
もちろん、砂糖や添加物には、それぞれ食品加工上の目的や役割がある。
だから、
「添加物を使う食品は悪い」
という話ではない。
大切なのは、
「どんな素材を、どんな考え方で加工しているのか」
を知ること。
そして、そのうえで自分に合った食品を選ぶことだ。
彼女は、ドライフルーツをもう一粒食べた。
今度は、ただ「甘い」と感じるだけではなかった。
噛んでいると、果物らしい香りがする。
少し酸味も感じる。
皮の風味もある。
そして、噛むほどに味が変わっていく。
「甘さだけじゃないんだ……」
そう思った。
乾燥によって、
果物の味が単純に「甘くなった」のではない。
水分が減ったことで、味わいの感じ方そのものが変わっている。
だからこそ、
「砂糖を足した甘さ」と
「果物がもともと持っている甘さ」
は、同じ「甘い」でも、少し違って感じられるのかもしれない。
食品を選ぶとき、
「甘いから、砂糖が入っている」
と決めつけるのではなく、
「この甘さは、どこから来ているのだろう?」
と考えてみる。
原材料を見る。
果物そのものを見る。
加工方法を知る。
そうすると、今まで何気なく食べていた一粒のドライフルーツにも、少し違った景色が見えてくる。
トーチが伝えたいのは、
「砂糖不使用だから、これを選んでください」
ということではない。
その一歩手前にある、
「素材が持っている味を知る」
という楽しさだ。
彼女は袋を閉じた。
「なるほど……」
「じゃあ、砂糖って、そもそも食品の中でどんな役割をしているんだろう?」
砂糖は、ただ甘くするためだけに使われるものなのだろうか。
それとも、食品をつくるうえで、別の役割もあるのだろうか。
「足さない」という選択を理解するには、
まず、
「足すことには、どんな意味があるのか」
を知る必要がある。
次回は、砂糖を「悪者」にせず、
砂糖を加えるメリットと、その意味
について考えてみる。
🍇 トーチの視点
ドライフルーツの甘さを知ると、
「甘くする=何かを加える」
だけではないことが見えてきます。
果物には、もともと甘さがあります。
そして、乾燥によって水分が減ることで、その味わいの感じ方も変わります。
だからトーチでは、
「何を足したか」だけでなく、「素材がもともと何を持っていたか」
にも目を向けています。
食べものを選ぶとき、
「足されたもの」を見る。
そして、
「残されているもの」を見る。
その両方を知ることが、素材を味わうことにつながると考えています。
次回予告
第4話「砂糖を加えるメリットと、その意味」
砂糖は、本当に「甘くするためだけ」のものなのでしょうか。
次回は、砂糖を食品加工の視点から見つめ直します。

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