連載【一房の葡萄を選ぶ理由――信州の果実がドライフルーツになるまで】 第10話
第10話 トーチがこの二つのブドウを選んだ理由
「結局、どうしてナガノパープルとシャインマスカットなんですか?」
美紀が尋ねた。
これまで何度も話してきた。
葡萄には、たくさんの品種がある。
その中には、もちろん魅力的な葡萄がたくさんある。
それなのに、なぜトーチは、
ナガノパープルとシャインマスカット
を選んだのか。
「理由は、一つじゃないんだ」
健一は、テーブルの上に二種類のドライフルーツを並べた。
「この二つの葡萄には、私たちが大切にしたいものが、いくつも重なっているんだよ」
■ 「甘いから」だけではない
最初に考えたのは、
「おいしい葡萄を選ぶ」
ということだった。
これは当然のことに思える。
しかし、ドライフルーツにするなら、それだけでは足りません。
生で食べる葡萄と、
ドライフルーツにする葡萄。
同じ果物でも、考えるポイントが変わります。
生の葡萄なら、
みずみずしさ。
果汁。
食感。
香り。
そして、その場で味わう楽しさがあります。
一方、ドライフルーツでは、
乾燥した後の味わい。
食感。
香り。
甘さの感じ方。
そして、皮まで含めた果実の個性。
そうしたものを考えなければなりません。
だから私たちは、
「甘い葡萄だから選ぶ」
だけではなく、
「ドライフルーツにしても、その個性を楽しんでもらえる葡萄か」
という視点を大切にしました。
■ ナガノパープルを選んだ理由
ナガノパープル。
その名前からも分かるように、長野県で生まれた葡萄です。
そして、大きな特徴の一つが、
皮ごと食べられること。
葡萄は、果肉だけを食べるものだと思っている人も少なくありません。
皮をむいて食べる。
それが当たり前だった時代もありました。
ところが、皮ごと味わえる葡萄が登場すると、
「葡萄は皮まで楽しめる」
という新しい食べ方が生まれました。
ドライフルーツにする場合も、これは大きな意味を持ちます。
果肉だけではなく、
果実全体を味わう。
その可能性が広がるからです。
■ シャインマスカットを選んだ理由
もう一つが、
シャインマスカット。
こちらも皮ごと食べやすい葡萄として知られています。
そして、独特の香りと甘さがあります。
一粒食べたときに、
「シャインマスカットだ」
と感じる人も多いでしょう。
この「品種らしさ」が、私たちには重要でした。
ドライフルーツにするからといって、
「葡萄なら何でもいい」
とは考えません。
むしろ、加工するからこそ、
原料となる果物の個性が重要になる。
そう考えています。
■ 二つの葡萄に共通するもの
ナガノパープルとシャインマスカット。
品種としては違います。
味わいも違います。
香りも違います。
それでも、共通している魅力があります。
その一つが、
皮ごと味わいやすいこと。
そして、
それぞれの品種としての個性がはっきりしていること。
さらに、
ドライフルーツという形でも楽しんでもらえる可能性があること。
だから、この二つを選びました。
「似ているから二つ選んだんですか?」
「いや、むしろ違うから面白いんだ」
健一は笑った。
ナガノパープルには、ナガノパープルの魅力。
シャインマスカットには、シャインマスカットの魅力。
二つを食べ比べれば、その違いも楽しめる。
それも、この二品種を選んだ理由の一つでした。
■ そして、もう一つ大切なのが「長野」
ここまでの話で、もう一つ見えてきたものがあります。
それが、
産地です。
ナガノパープルは、長野県で生まれた品種。
シャインマスカットも、長野県で栽培されている代表的な葡萄の一つです。
私たちは、単に「有名な葡萄だから」という理由で選んだわけではありません。
長野という土地で育てられてきた果物。
そこには、生産者の努力があります。
栽培技術があります。
地域の農業があります。
そして、果物を育ててきた長い積み重ねがあります。
だから、
「長野の葡萄を全国へ届けたい」
という思いにつながりました。
■ 「長野だから」ではなく「長野で育った、この葡萄」
ここは、私たちが特に大切にしているところです。
「長野県産だから良い」
という単純な話ではありません。
長野という産地に価値を感じる。
そのうえで、
ナガノパープルという品種を選ぶ。
シャインマスカットという品種を選ぶ。
さらに、
その果実をドライフルーツにする。
この一つ一つの選択が重なって、商品になります。
だから私たちは、
「長野だから選んだ」のではなく、長野で育った、この二つの葡萄だから選んだ。
そう考えています。
■ では、なぜ「ドライフルーツ」なのか
ここでもう一つの疑問があります。
「せっかく良い葡萄なら、生で食べればいいんじゃないですか?」
確かに、その通りです。
生の葡萄には、生でしか味わえない魅力があります。
みずみずしさ。
果汁。
爽やかな食感。
それらは、生の葡萄ならではです。
では、なぜわざわざ乾燥させるのか。
それは、
生とは違った形で、果実を楽しんでもらいたいからです。
水分を減らすことで、食感が変わる。
味わい方が変わる。
一粒をゆっくり噛みしめる楽しさが生まれる。
そして、生の葡萄とは違う形で、
「葡萄を味わう時間」
をつくることができます。
■ 「加工」は果実を変えることではない
もちろん、乾燥すれば果実の状態は変わります。
しかし、
「別の味の食品に作り替える」
ことが目的ではありません。
私たちが目指しているのは、
果実の個性を活かしたまま、新しい食べ方をつくること。
だからこそ、加工方法が重要になります。
そして、ここでトーチが大切にしている考え方が出てきます。
■ 砂糖を「足さない」
加工場に並んだ葡萄を見ながら、美紀が尋ねた。
「ここで砂糖を加えて、甘さを調整するんですよね?」
「加えないよ」
「砂糖は?」
「使わない」
トーチのドライフルーツでは、
砂糖を添加しません。
これは、商品の大きな特徴の一つです。
なぜなら、
葡萄には、もともと甘さがあるからです。
わざわざ砂糖を加えて、
「甘い葡萄」に作り変える必要はない。
ナガノパープルなら、
ナガノパープルの甘さを。
シャインマスカットなら、
シャインマスカットの甘さを。
できるだけ活かしたい。
だから、
砂糖を加えない。
■ 「甘くする」のではなく「甘さを活かす」
ここは、言葉の違いだけではありません。
「甘くする」
というのは、外から甘さを加えること。
「甘さを活かす」
というのは、
素材がもともと持っている甘さを大切にすること。
トーチが選んだのは、後者です。
ドライフルーツを食べたとき、
「砂糖が甘い」
ではなく、
「葡萄が甘い」
と感じてもらいたい。
そのために、砂糖を添加しません。
これは、今回の商品の考え方を象徴する部分です。
■ オイルも「足さない」
そして、もう一つ。
オイルなどの添加物も使用しません。
これも、単に「無添加だから」という理由だけではありません。
私たちが大切にしたいのは、
果実そのものを主役にすること。
ナガノパープルなら、
ナガノパープルの個性。
シャインマスカットなら、
シャインマスカットの個性。
そこにオイルなどを加えて、別の味や風味をつくるのではありません。
できるだけ余計なものを足さず、
果実そのものを味わってもらう。
それが、私たちの考え方です。
■ 「何も足さない」から、素材が問われる
美紀は、ふと気づいた。
「ということは、砂糖を使わないなら、葡萄そのものが大事になりますよね」
「その通り」
砂糖を加えれば、甘さを補うことができます。
オイルなどを使えば、別の風味や食感を加えることもできます。
しかし、それをしない。
そうすると、
原料そのものの魅力が、そのまま商品の土台になる。
だからこそ、
「何の葡萄を使うか」
が重要になります。
そして、
「どこで育った葡萄なのか」
も重要になります。
さらに、
「どのように加工するのか」
も重要になります。
ここで、第1話から続いてきた話が一本につながりました。
■ 「一房の葡萄」が商品になるまで
最初は、一房の葡萄でした。
長野の果樹園で育つ葡萄。
それを見て、
「この葡萄を全国の人に知ってもらえないだろうか」
と考える。
そして、
ナガノパープルを選ぶ。
シャインマスカットを選ぶ。
果実の個性を大切にする。
皮ごと味わえる魅力を活かす。
ドライフルーツという形にする。
砂糖を加えない。
オイルなどの添加物も使用しない。
そして、
長野から全国のお客様へ届ける。
一つ一つは小さな選択です。
でも、その選択が積み重なって、
「トーチのドライフルーツ」
になります。
■ 私たちが売りたいのは「長野の葡萄」だけではない
では、トーチが販売したいものは何でしょうか。
もちろん、
ナガノパープルのドライフルーツ。
シャインマスカットのドライフルーツ。
商品そのものです。
しかし、それだけではありません。
私たちが届けたいのは、
「なぜ、この葡萄なのか」
まで含めた価値です。
なぜナガノパープルなのか。
なぜシャインマスカットなのか。
なぜ長野なのか。
なぜドライフルーツなのか。
なぜ砂糖を加えないのか。
なぜオイルなどの添加物を使わないのか。
それを知ってもらったうえで、
「この商品を選びたい」
と思ってもらう。
それが、トーチの販売の考え方です。
■ 「安いから」ではなく「納得できるから」
世の中には、たくさんのドライフルーツがあります。
価格もさまざまです。
原料も違います。
産地も違います。
加工方法も違います。
だから、
「一番安いものを買う」
という選択があってもいい。
それは、その人にとって正しい選択だからです。
一方で、
「多少価格が違っても、原料や産地に納得できるものを選びたい」
という人もいます。
私たちが届けたいのは、後者の考え方を持つ方です。
国産の果物を選びたい。
産地が分かるものを選びたい。
品種にもこだわりたい。
余計なものをできるだけ加えない商品を選びたい。
そして、
「なぜ、この商品なのか」を理解して買いたい。
そんな方に、
「この商品なら選んでもいい」
と思ってもらえること。
それが私たちの目標です。
■ 商品の価値は、パッケージだけでは決まらない
きれいなパッケージ。
魅力的な写真。
おしゃれな商品ページ。
もちろん、それらも大切です。
でも、本当の商品価値は、それだけではありません。
その中身が、
何なのか。
どこから来たのか。
誰が育てたのか。
どんな品種なのか。
どう加工したのか。
何を加えたのか。
何を加えなかったのか。
そして、
なぜ、その商品をつくったのか。
そこまで知って、初めて、
「この商品には、こういう価値があるんだ」
と理解してもらえるのだと思います。
■ 二つの葡萄、それぞれの個性
美紀は、二つのドライフルーツを並べた。
「ナガノパープルとシャインマスカットって、同じ葡萄なのに、ちゃんと違いますね」
「そうだね」
「どちらか一つではなく、二つ選んだ意味も分かってきました」
ナガノパープルには、
ナガノパープルの個性。
シャインマスカットには、
シャインマスカットの個性。
それぞれ違うからこそ、食べ比べる楽しさがあります。
そして、どちらも皮ごと味わいやすい。
どちらも長野で育てられている。
どちらもドライフルーツという形で、新しい魅力を見つけることができる。
そして、
砂糖を加えず、オイルなどの添加物も使用せず、果実そのものを主役にする。
この共通点があります。
■ 「選んだ理由」は、全部つながっていた
最初は、
「なぜこの二つなのだろう?」
という単純な疑問でした。
でも、考えてみると、
一つの理由だけではありませんでした。
品種
ナガノパープル。
シャインマスカット。
それぞれに個性がある。
産地
長野。
果樹栽培の歴史と、生産者の仕事がある。
素材
皮ごと味わいやすい。
甘さや香りなど、品種としての魅力がある。
加工
ドライフルーツにすることで、生とは違った楽しみ方ができる。
添加物
砂糖を加えない。
オイルなどの添加物を使用しない。
果実そのものを主役にする。
販売
長野の果物を全国のお客様へ届ける。
これらが一つにつながって、
「この二つを選びたい」
という答えになりました。
■ トーチが大切にする「自然派」という考え方
私たちが考える自然派とは、
「何も加工しないこと」
ではありません。
ドライフルーツは、もちろん加工食品です。
乾燥という工程があります。
商品として包装する工程もあります。
大切なのは、
加工することではなく、加工によって何をするのか。
ということです。
果実の魅力を引き出すために加工する。
保存しやすい形にするために加工する。
食べやすい形にするために加工する。
しかし、
砂糖で別の甘さをつくるのではない。
オイルなどで別の風味をつくるのでもない。
できるだけ果実そのものを活かす。
それが、トーチの考える自然派の商品づくりです。
■ 「足さない」という、昔ながらの考え方
考えてみれば、昔から日本には、
素材を活かす食文化がありました。
米なら米。
魚なら魚。
野菜なら野菜。
旬の食材を、その持ち味を活かして食べる。
もちろん、調味料を使う料理もたくさんあります。
しかし、
素材を活かす
という考え方そのものは、日本の食文化の中に長く受け継がれてきました。
ドライフルーツも、その延長線上にあるのかもしれません。
葡萄を主役にする。
葡萄の甘さを活かす。
余計なものを加えすぎない。
そんなシンプルな考え方です。
■ 一粒に込めた、私たちの答え
美紀は、一粒のドライフルーツを手のひらに乗せた。
「最初は、ただのドライフルーツだと思っていました」
「うん」
「でも、話を聞いていくと、一粒になるまでに、ずいぶんいろいろなことを考えているんですね」
健一は答えた。
「商品って、そういうものだと思うよ」
良い果物を選ぶ。
良い産地を選ぶ。
生産者の仕事を尊重する。
素材の個性を活かす。
加工する。
そして、
砂糖を加えない。
オイルなどの添加物を使用しない。
必要以上に味をつくらない。
果実そのものを主役にする。
それを、全国のお客様へ届ける。
その一粒一粒に、
私たちの考え方があります。
■ だから、この二つを選びました
ナガノパープル。
シャインマスカット。
なぜ、この二つなのか。
答えは、
「おいしいから」だけではありません。
長野で育てられてきたこと。
それぞれの品種に個性があること。
皮ごと味わいやすいこと。
ドライフルーツとして新しい魅力を引き出せること。
そして、
砂糖やオイルなどを加えて別の味をつくるのではなく、果実そのものを主役にできること。
これらが、私たちの考えと重なったからです。
だから選びました。
■ 長野から、あなたの食卓へ
果樹園で始まった一房の葡萄。
それは、
生産者の手によって育てられ、
収穫され、
選ばれ、
加工され、
ドライフルーツになり、
そして長野を離れて、
誰かの食卓へ向かいます。
その人が、
「おいしい」
と感じてくれる。
それだけでも、十分嬉しいことです。
でも、その一粒を食べたあとに、
「これは、どこで育ったんだろう?」
「ナガノパープルって、どんな葡萄なんだろう?」
「シャインマスカットも食べてみたい」
「いつか長野へ行ってみたい」
そんな気持ちが生まれたら、
もっと嬉しい。
なぜなら、
一粒の果物が、人と産地をつなぐきっかけになるからです。
■ 「商品を売る」から「価値を届ける」へ
トーチが目指しているのは、
単にドライフルーツを販売することではありません。
もちろん、事業として商品を販売する以上、売上は大切です。
しかし、
「売れれば、それでいい」
とは考えていません。
なぜなら、
商品の価値を理解してもらわなければ、長く選ばれる商品にはならない
と考えているからです。
だから、私たちは伝えたい。
なぜ、この葡萄なのか。
なぜ、この産地なのか。
なぜ、ドライフルーツなのか。
なぜ、砂糖を加えないのか。
なぜ、オイルなどの添加物を使用しないのか。
それを知ったうえで、
「この商品を選びたい」
と思ってもらう。
それが、
トーチが目指す「価値を届ける」という販売です。
■ 一房の葡萄を選ぶということ
この物語は、
一房の葡萄から始まりました。
そして最後にたどり着いた答えは、
とてもシンプルです。
良いと思った果実を選ぶ。
その果実の個性を活かす。
産地を大切にする。
砂糖を加えない。
オイルなどの添加物を使用しない。
そして、その価値を全国のお客様へ伝える。
それが、
トーチがナガノパープルとシャインマスカットを選んだ理由です。
■ 最後に、一粒を味わってみてください
もし、あなたの手元に、
ナガノパープルのドライフルーツがあったら。
一粒、ゆっくり食べてみてください。
そして、想像してみてください。
長野の果樹園。
葡萄棚。
そこで果実を育てる生産者。
収穫された一房。
選ばれた葡萄。
砂糖を加えず、
オイルなどの添加物も使用せず、
果実そのものを活かして乾燥させる加工。
そして、
長野からあなたのもとへ運ばれてきた一粒。
その一粒は小さい。
でも、その背景には、
土地があり、人がいて、果実があり、そして一つの商品になるまでの仕事があります。
それを知って食べる一粒は、
きっと、知らずに食べる一粒とは少し違って感じられるはずです。
■ 「なぜ、この葡萄なのか」
私たちの答えは、
ナガノパープルだから。
シャインマスカットだから。
そして、
長野で育った、その果実だから。
さらに、
その個性を活かすために、砂糖を加えない。
オイルなどの添加物も使用しない。
果実を主役にする。
それを、
長野から全国へ届ける。
それが、トーチの選択です。
一房の葡萄を選ぶことから始まった物語は、
一粒のドライフルーツとなって、
あなたの食卓へ向かいます。
そして、その一粒が、
あなたと信州をつなぐ小さなきっかけになれば。
それが、私たちの願いです。
『一房の葡萄を選ぶ理由』――完
全10話を通して伝えたかったこと
第1話 信州の果樹園で見つけた一房
↓
第2話 ナガノパープルというブドウ
↓
第3話 シャインマスカットというブドウ
↓
第4話 生で食べるための果物を乾燥させる意味
↓
第5話 甘さだけでは決まらない「良い果物」
↓
第6話 皮ごと味わうということ
↓
第7話 果実の個性は加工するとどうなるのか
↓
第8話 「産地」が商品の価値になる理由
↓
第9話 長野の果物を全国へ届けるということ
↓
第10話 トーチがこの二つのブドウを選んだ理由
そして、10話を通して伝えたかったのは、
「原料そのものに価値があるからこそ、その価値を活かしたドライフルーツにも価値が生まれる」
ということです。
だから、トーチは、
ナガノパープルとシャインマスカットを選び、
砂糖を加えず、
オイルなどの添加物も使用せず、
果実そのものを主役にして、
長野から全国へ届けます。
「安いから」ではなく、
「この葡萄だから選びたい」
と思っていただける商品を目指して。
そして、その一粒から、
長野の果物を知る人が一人でも増えること。
それが、このシリーズの最後に込めた思いです。

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