【土曜日企画】トーチが訪ねる 日本の宝もの ①⑥
第1シリーズ「日本の健康食材を訪ねる」
第6話 「発酵」という、日本が受け継いできた知恵
― 微生物と時間が、食べものを変えていく ―
こんにちは。「トーチ」です。
これまで、この連載では日本の食文化に残るさまざまな知恵を訪ねてきました。
霊芝。
味噌。
昆布。
塩。
そして前回は、「干す」という保存の知恵を取り上げました。
今回、訪ねてみたいのは、
「発酵」
です。
味噌。
醤油。
納豆。
漬物。
甘酒。
日本酒。
鰹節。
考えてみれば、日本の食卓には「発酵」によって生まれた食品がたくさんあります。
では、なぜ日本では、これほど多くの発酵食品が生まれたのでしょうか。
そして、昔の人は「発酵」という仕組みを、どのように暮らしに取り入れてきたのでしょうか。
今回は、目には見えない小さな微生物と、長い時間がつくり出す、日本の食文化を訪ねてみたいと思います。
「発酵」は、昔からあった
まず驚かされるのは、発酵という仕組みを利用した食品が、私たちの身近にたくさんあることです。
朝食に味噌汁。
ご飯に納豆。
漬物を一品。
料理には醤油。
食後に甘酒。
こうして考えると、発酵食品は特別なものではありません。
むしろ、
日本人の毎日の食卓に深く入り込んでいる食品
なのです。
しかし、昔の人が現在のような微生物学の知識を持っていたわけではありません。
「この条件で置いておくと、食べものがこう変化する」
「こうすると、味がよくなる」
「この方法なら保存できる」
そうした経験を積み重ねながら、発酵の技術を受け継いできたのです。
「腐る」と「発酵」は何が違う?
発酵について考えるとき、最初に浮かぶ疑問があります。
「発酵って、腐るのと何が違うの?」
ということです。
どちらも微生物が関係しています。
しかし、人間にとって有益な変化をもたらすものを「発酵」、望ましくない変化を「腐敗」と考えると分かりやすいでしょう。
もちろん、実際の発酵はもっと複雑で、食品ごとに関わる微生物や条件も異なります。
例えば味噌なら、麹菌などの働きが重要になります。
納豆なら納豆菌。
ヨーグルトなら乳酸菌。
それぞれの微生物が食品の成分に働きかけ、味や香り、食感などを変化させていきます。
つまり発酵とは、
「微生物の働きを、人間が食文化として利用してきた知恵」
とも言えるのです。
日本で発酵食品が発達した理由
では、なぜ日本では発酵食品がこれほど発達したのでしょうか。
一つの理由として考えられるのが、日本の気候です。
日本は四季があり、地域によって温度や湿度も大きく異なります。
そして、昔から米を中心とした農業が行われてきました。
米。
大豆。
麦。
野菜。
魚。
こうした食材を、より長く保存し、おいしく食べるための工夫が必要でした。
その中で、発酵という方法が発達していったのです。
地域によって気候も食材も違う。
だからこそ、それぞれの土地に独自の発酵文化が生まれました。
味噌は「大豆と米と時間」の食文化
日本の発酵食品を語るなら、味噌は外せません。
大豆。
米や麦など。
塩。
そして麹。
これらを仕込み、時間をかけて熟成させる。
すると、もともとの材料とは違った味わいが生まれます。
これが味噌です。
面白いのは、
「仕込んだら、すぐ完成」ではない
ということです。
時間が必要です。
温度や湿度などの環境にも左右されます。
そして、地域によって使う原料や仕込み方にも違いがあります。
だから、
「味噌」と一言で言っても、味は一つではありません。
甘い味噌。
辛口の味噌。
赤味噌。
白味噌。
麦味噌。
地域によって、さまざまな味噌文化があります。
味噌には「地域の味」がある
旅行をすると、味噌の違いに気づくことがあります。
普段食べている味噌とは、少し違う。
色も違う。
香りも違う。
味も違う。
でも、それは単なる商品の違いではありません。
その土地の気候。
使われてきた原料。
食文化。
保存方法。
家庭料理。
そうしたものが重なって、その土地の味噌文化がつくられています。
だから、味噌を知ることは、その地域の食文化を知ることでもあります。
トーチが地域の商品を面白いと思う理由も、ここにあります。
食品には、その土地の暮らしが映っている。
醤油も「発酵」が生み出したもの
日本の料理で欠かせない調味料の一つが醤油です。
刺身。
煮物。
焼き魚。
豆腐。
そば。
寿司。
醤油が登場する料理は数えきれません。
醤油も、麹など微生物の働きを利用した発酵・熟成によってつくられます。
大豆や小麦などを原料として仕込み、時間をかけて熟成させる。
すると、独特の香りと旨味が生まれます。
ここでも、
「時間」が味をつくる
という発想があります。
今すぐ完成させるのではなく、待つ。
変化を見ながら育てる。
これは、味噌にも共通しています。
「時間をかける」という贅沢
現代の生活では、
「早いこと」
が価値になる場面がたくさんあります。
すぐ届く。
すぐ食べられる。
すぐ結果が出る。
もちろん、便利であることは素晴らしいことです。
しかし、発酵食品を見ると、
「時間をかけることでしか生まれないものもある」
と気づかされます。
味噌も醤油も、仕込んですぐには完成しません。
時間が経つことで、少しずつ変化していく。
その時間を待つ。
昔の人々は、時間を「無駄」と考えなかったのかもしれません。
むしろ、
時間そのものを、食品づくりの力として利用していた
のです。
納豆も、立派な発酵食品
朝食でおなじみの納豆。
大豆を納豆菌によって発酵させた食品です。
糸を引く独特の姿。
独特の香り。
初めて食べた人は、少し驚くかもしれません。
でも、日本では長く食べ続けられてきました。
納豆の面白いところは、
「大豆をそのまま食べる」のではなく、
発酵させることで、別の食品に変えてしまう
ところです。
大豆という一つの食材から、豆腐、味噌、醤油、納豆など、さまざまな食品が生まれています。
日本人が大豆をどれだけ上手に利用してきたかが分かります。
漬物にも発酵の知恵がある
日本の食卓には、漬物もあります。
野菜を塩漬けにする。
ぬか床に漬ける。
味噌に漬ける。
地域によってさまざまな方法があります。
すべてが同じ仕組みで発酵するわけではありませんが、漬物には、
「食材を長く楽しむ」
という保存の知恵が込められています。
前回の「干す」と同じです。
収穫した野菜を、そのときだけ食べるのではない。
保存して、後の季節にも楽しむ。
こうして見ると、日本の食文化には、
「自然からいただいたものを無駄にしない」
という考え方が何度も登場します。
発酵は「保存」だけではない
発酵食品について語ると、
「保存食」
というイメージを持つ人も多いかもしれません。
確かに、発酵は食品を保存するための重要な方法の一つでした。
しかし、それだけではありません。
発酵によって、
香りが変わる。
味が変わる。
食感が変わる。
旨味が生まれる。
つまり、
「保存するために始めた工夫が、食文化そのものになった」
とも考えられます。
これは、とても日本らしい発展だと思いませんか?
発酵食品は「健康食品」なのか?
ここで、健康について少し考えてみましょう。
味噌や納豆、漬物などは、一般に健康的な食生活の中で利用されてきた食品です。
発酵食品について研究も行われています。
ただし、
「発酵食品を食べれば病気にならない」
「これだけ食べれば健康になれる」
という単純な話ではありません。
健康は、食事全体、運動、睡眠、休養など、さまざまな生活習慣の積み重ねです。
発酵食品も、その中の一つとして考えるのが自然です。
毎日の食卓に、
味噌汁。
納豆。
漬物。
醤油。
などを取り入れる。
それを楽しみながら続ける。
そのくらいの距離感がちょうどいいのではないでしょうか。
「菌を恐れる」のではなく「菌を知る」
発酵を調べていると、微生物の世界に驚かされます。
私たちの目には見えないほど小さい存在が、食品の味や香りを変えている。
考えてみれば不思議です。
人間がすべてを作っているわけではない。
微生物の働きを借りている。
つまり、
人間と微生物が一緒につくる食品
なのです。
昔の人々は、微生物という言葉を知らなくても、
「この菌を使えばこうなる」
「この環境ならうまくいく」
という経験を積み重ねました。
そして、その経験を職人から職人へ、親から子へと伝えてきた。
そこには、日本の食文化の奥深さがあります。
地域によって違う「発酵」
日本各地を旅すると、発酵食品にも地域差があることに気づきます。
味噌の種類。
醤油の味。
漬物。
酒。
魚の発酵食品。
大豆を使った食品。
それぞれの地域に、その土地ならではの味があります。
なぜその味が生まれたのか。
どんな食材が使われてきたのか。
どんな気候だったのか。
どんな料理に使われてきたのか。
そう考えると、
「地域の味」=「地域の歴史」
とも言えます。
旅先で郷土料理を食べるときは、ぜひ調味料にも目を向けてみてください。
その一皿の中に、その土地の歴史が隠れているかもしれません。
店長のひとこと
私は旅行をすると、地元のスーパーや直売所を見るのが好きです。
観光地だけではなく、地元の人が普段買っているものを見る。
すると、その地域の食文化が少し見えてきます。
味噌の種類が違う。
醤油のメーカーが違う。
漬物の種類が違う。
地元ならではの商品が並んでいる。
そこには、観光パンフレットには載っていない「普段の暮らし」があります。
私は、そういうものを見るのが好きです。
そして、
「この商品は、なぜここで作られているんだろう?」
と考えます。
すると、その土地の気候や歴史まで知りたくなります。
商品は、地域を知るための入り口にもなる。
トーチでは、そんな商品との出会いを大切にしたいと思っています。
トーチが大切にしたい「受け継ぐ」ということ
発酵食品を見ていると、もう一つ大切なことに気づきます。
それは、
「技術を受け継ぐ人がいる」
ということです。
味噌を仕込む。
醤油をつくる。
漬物を漬ける。
酒を醸す。
どれも、単純な作業ではありません。
地域ごとの気候や原料に合わせて、長年培われてきた経験があります。
その経験を、次の世代へ伝える。
新しい技術を取り入れながら、昔からの良さも残す。
これは、簡単なことではありません。
だからこそ、トーチは「商品」だけではなく、
その商品を生み出す人や地域にも目を向けたい
と考えています。
古いものは、古いままではない
伝統というと、
「昔の方法を、そのまま守る」
というイメージがあります。
しかし、実際にはそう簡単ではありません。
時代が変われば、衛生管理も変わる。
設備も変わる。
消費者の生活も変わる。
だから、伝統を守るためには、変えるべきところは変える必要があります。
大切なのは、
「何を残し、何を変えるか」
を考えること。
これは、日本の発酵文化にも当てはまるのではないでしょうか。
昔からの考え方を大切にしながら、現代の技術を取り入れる。
伝統とは、過去をそのまま保存することではなく、
次の時代へ渡していくこと
なのかもしれません。
私たちの食卓には「時間」がある
今回、発酵について調べていて、改めて感じたことがあります。
それは、
私たちの食卓には、見えない「時間」が存在している
ということです。
味噌汁を飲む。
その味噌は、何カ月、何年もの時間を経てきたかもしれない。
醤油をかける。
その醤油にも、仕込みと熟成の時間がある。
漬物を食べる。
そこにも、漬け込んだ時間がある。
つまり私たちは、毎日の食事を通して、
誰かが時間をかけて育てたものをいただいている
のです。
そう考えると、いつもの味噌汁も少し違って見えてきませんか?
「早く」だけでは作れないもの
現代の生活では、効率が重視されます。
早く。
安く。
便利に。
もちろん、これは大切な価値です。
でも、発酵食品を見ると、
「早ければいい」
とは限らないことに気づきます。
時間が必要なものがある。
待つことでしか生まれないものがある。
手間をかけなければ出ない味がある。
そして、その手間をかける人がいる。
トーチが地域の商品に魅力を感じるのも、そこです。
便利さだけでは測れない価値。
価格だけでは比較できない価値。
そうしたものを、私たちは大切にしたいと思っています。
今日の食卓で「発酵」を探してみよう
今日の夕食を思い浮かべてみてください。
味噌汁はありますか?
醤油はありますか?
納豆はありますか?
漬物はありますか?
実は、私たちは毎日の食事の中で、すでにたくさんの発酵文化に触れています。
だから、特別なことをする必要はありません。
まずは、
「これも発酵食品なんだ」
と気づいてみる。
そして、
「どこで作られているんだろう?」
「どんな原料なんだろう?」
「どんな時間をかけて作っているんだろう?」
と少し調べてみる。
それだけでも、いつもの食卓が少し面白くなります。
おわりに
発酵とは、目に見えない微生物の働きと、人間の知恵、そして時間が生み出す食文化です。
味噌。
醤油。
納豆。
漬物。
酒。
それぞれ違う食品ですが、共通しているのは、
「自然の力を借りて、食べものを変化させる」
という考え方です。
前回の「干す」もそうでした。
今回の「発酵」もそうです。
昔の人々は、自然を敵として考えるのではなく、
その力を理解し、
利用し、
共存しながら、
食べものを大切にしてきました。
これは、現代の私たちにも大切な考え方ではないでしょうか。
便利なものは便利に使う。
新しい技術も取り入れる。
その一方で、
昔から受け継がれてきた知恵にも目を向ける。
そして、その知恵を次の世代へつなげる。
トーチが大切にしたいのは、そんな「つながり」です。
自然と人。
地域と食。
生産者と消費者。
そして、
過去と未来。
商品を通じて、そのつながりを感じていただけたら嬉しく思います。
次回は、発酵の話から少し視点を変えて、
「旬を保存する――日本人が生み出した保存食の知恵」
を訪ねます。
旬の食材を、その季節だけで終わらせない。
干す。
漬ける。
発酵させる。
塩を使う。
日本各地には、自然の恵みを一年を通して楽しむための知恵が残っています。
次回は、それらを一つの「日本の保存食文化」として見つめ直してみたいと思います。
次の土曜日も、どうぞお楽しみに。
トーチ――自然の恵みと、豊かな暮らしをあなたのもとへ。

