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連載【一粒の果実が教えてくれたこと】 第8話

第8話 糖度だけでは決まらない「美味しさ」の正体

「健一さん、ちょっと聞いていい?」

夕食後、美紀が二つのドライフルーツをテーブルに並べた。

濃い紫色のナガノパープル。

そして、明るい色をしたシャインマスカット。

「どうした?」

「第5話で、糖度について調べたでしょう?」

「ああ。ナガノパープルは糖度18~21度程度、シャインマスカットは平均19度程度とされているって話だな」

「そう。でもね……」

美紀は二つを見比べた。

「糖度が高ければ、それだけで美味しいのかな?」

健一は少し考えた。

「……高い方が甘いんじゃないの?」

「じゃあ、甘ければ甘いほど、必ず美味しい?」

「うーん……」

健一は答えられなかった。


「甘い」と「美味しい」は同じじゃない

健一は、もう一度二つのブドウを見た。

確かに、甘さは果物の美味しさを感じる大きな要素だ。

しかし、実際に果物を食べるとき、

「甘い」

だけを感じているわけではない。

酸っぱい。

香りがする。

歯ごたえがある。

皮の感じがする。

口の中に広がる。

そして、それらを全部まとめて、

「美味しい」

と感じている。

「そういえば、同じくらい甘い果物でも、好き嫌いがあるよな」

「そうでしょう?」

美紀が笑った。

「私は、甘いだけより、少し酸味がある方が好き」

「俺は香りが強い方が好きだな」

二人の好みは違った。

つまり、

「美味しい」は、一つの数字だけでは決められない。


糖度は「美味しさ」の一部分

第5話で学んだように、糖度は果物の特徴を見るための重要な目安だ。

しかし、糖度計が測っている数字だけで、その果物の美味しさをすべて説明することはできない。

果物には、

甘さ

酸味

香り

食感

果皮の特徴

など、さまざまな要素がある。

そして、それらのバランスによって、食べたときの印象が変わる。

「なるほど」

健一が頷いた。

「糖度は、商品を見るときの『ものさしの一つ』なんだな」

「そう。ものさしが一つだけじゃないってこと」

これは、ドライフルーツを見るときにも大切な考え方だった。


甘さを引き立てる「酸味」

「酸味って、酸っぱいから甘さと反対じゃないの?」

健一が聞いた。

「そう思うよね」

しかし、果物を食べたときの味わいは、甘さと酸味の組み合わせによって大きく変わる。

甘さだけを強く感じる場合と、適度な酸味がある場合では、後味や爽やかさの感じ方が違う。

例えば、ジュースでも、

「甘いけれど、後味がすっきりしている」

と感じることがある。

それは、甘さだけではなく、酸味などとのバランスによるものだ。

「じゃあ、酸味も美味しさの一部なんだ」

「そういうこと」

健一はノートに書いた。

甘さ + 酸味 = 味わいのバランス


香りも「美味しい」の一部

次に、美紀がシャインマスカットを指差した。

「じゃあ、これは?」

「シャインマスカット?」

「そう。香りを感じたことはある?」

健一は頷いた。

「ある。独特の香りがするよな」

食べ物の「美味しさ」は、舌で感じる味だけではない。

鼻から感じる香りも、食べたときの印象に大きく関係する。

だから、

「甘い」

だけでなく、

「香りがいい」

「爽やか」

「華やか」

と感じることも、その果物の魅力になる。

「じゃあ、シャインマスカットを選ぶ理由も、糖度だけじゃないんだな」

「そう」


「食感」も商品の価値になる

今度は、健一がドライフルーツを噛んだ。

「これは、生のブドウとは全然違うな」

生のブドウなら、果汁が口いっぱいに広がる。

一方、ドライフルーツは噛みながら味わう。

水分が減ることで、食感も変わる。

柔らかいもの。

しっとりしたもの。

噛み応えのあるもの。

乾燥の程度や加工方法によっても、仕上がりは変わる。

「つまり、乾燥させることで『味』だけじゃなく、『食べる感覚』も変わるんだ」

「そうだね」

健一は少し驚いた。

「ドライフルーツって、かなり奥が深いな」


皮も果物の一部

「そういえば、ナガノパープルとシャインマスカットって、皮ごと食べやすいことも特徴だったよな」

「うん」

果物を食べるとき、果肉だけを見ることが多い。

しかし、品種によって果皮の特徴も違う。

色。

厚さ。

食感。

食べやすさ。

こうした違いも、果物の個性につながる。

特にドライフルーツでは、果皮も含めて果実を味わう場合、その存在感は生の状態とはまた違ったものになる。

「果物って、果肉だけじゃないんだな」

「そう。全部合わせて『その品種らしさ』になるんだと思う」


ナガノパープルとシャインマスカットは、だから面白い

健一は二つを並べた。

ナガノパープル。

シャインマスカット。

どちらも甘さに魅力がある。

しかし、それぞれに個性がある。

色も違う。

香りも違う。

味わいも違う。

そして、食感も違って感じられる。

「つまり……」

健一が言った。

「糖度が近くても、同じ味になるわけじゃない」

「そう」

「だから、二つを食べ比べる意味がある」

美紀は頷いた。

「そこが面白いところだね」


「高糖度」だけでは商品の説明にならない

健一はノートを開いた。

これまでなら、

高糖度のブドウ

とだけ書いていたかもしれない。

しかし、今日は違った。

その下に、

甘さ
酸味
香り
食感
果皮
色
品種の個性

と書き並べた。

「こうしてみると、商品の説明って、数字だけじゃ足りないな」

「うん」

「糖度が○度です、だけじゃなくて、『どんな果物なのか』を伝えた方が、その商品のことが分かる」

美紀が笑った。

「それが、今まで話してきた『商品の価値を知る』ってことなんじゃない?」


そして、ドライフルーツになると……

健一は、もう一度ドライフルーツを見た。

ここで、また一つの疑問が生まれた。

「でもさ」

「何?」

「生のブドウの特徴が分かったとしても、乾燥させたら変わるんだろ?」

「そうだね」

「じゃあ、ナガノパープルらしさやシャインマスカットらしさは、どうなるんだ?」

美紀は答えなかった。

二人はドライフルーツを見つめた。

確かに、乾燥すると水分が減る。

食感が変わる。

味の感じ方も変わる。

香りの感じ方も、生の状態とは違うかもしれない。

だからこそ、

「生の果物が美味しい」だけでは、ドライフルーツの商品価値を説明できない。


生の美味しさと、ドライの美味しさ

「じゃあ、こういうことかな?」

健一が言った。

「生のブドウには、生の美味しさがある」

「うん」

「ドライフルーツには、ドライフルーツの美味しさがある」

「そう」

「だから、どっちが上とか下とかじゃない」

「その通り」

生のブドウは、

みずみずしさや果汁を楽しむ。

ドライフルーツは、

噛みながら、ゆっくり味わう。

同じ果物でも、加工によって違う価値が生まれる。

「なるほど」

健一は頷いた。

「だから『生より美味しい』じゃなくて、『生とは違う楽しみ方ができる』なんだな」


「美味しさ」を知ると、商品の見方が変わる

第5話では、糖度という数字を知った。

第6話では、品種ごとの個性を知った。

第7話では、乾燥によって生とは違った食べ方が生まれることを知った。

そして第8話。

二人は、「美味しい」という言葉をもう一度考え直した。

美味しさは、一つの数字だけでは決まらない。

甘さ。

酸味。

香り。

食感。

果皮。

品種の個性。

それらが組み合わさって、一つの味わいになる。

そして、その果物を乾燥させることで、さらに別の食感や味わい方が生まれる。

「一粒のドライフルーツを見るだけでも、いろんなことが分かるんだな」

健一が言った。

「知ってから食べると、もっと面白いでしょう?」

「うん」


では、なぜトーチはこの二つを選んだのか?

健一は、最後にノートを見た。

そこには、

ナガノパープル
甘さ+品種の個性

シャインマスカット
甘さ+品種の個性

と書かれていた。

その下には、

乾燥によって、別の楽しみ方

とある。

「だんだん答えに近づいてきたな」

「でも、まだ最後のピースがあるよ」

「最後のピース?」

「うん」

美紀は二つのドライフルーツを指差した。

「じゃあ、実際に生のブドウとドライフルーツでは、どんな違いがあるの?」

健一は頷いた。

確かに、そこを比べてみなければ、本当の商品価値は見えてこない。


第8話で分かったこと

今回のポイントは、

「糖度が高い=必ず美味しい」ではない

ということです。

糖度は、果物の特徴を知るための重要な目安。

しかし、美味しさには、

  • 甘さ
  • 酸味
  • 香り
  • 食感
  • 果皮
  • 色
  • 品種の個性

など、さまざまな要素が関係しています。

ナガノパープルとシャインマスカットも、単に「糖度が高いブドウ」だから選ばれているのではありません。

それぞれに異なる魅力があるからこそ、二つの品種を楽しむ意味があります。

そして、その魅力をドライフルーツにすると、生とは違った食感や味わい方が生まれます。

では、

「生のブドウ」と「ドライフルーツ」では、具体的に何が違うのでしょうか?

次回は、二つを実際に比べながら、ドライフルーツだからこそ生まれる価値を考えていきます。

――第9話へ続く。


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