連載【一粒の果実が教えてくれたこと】 第6話
第6話 「ナガノパープル」というブドウを知る
「ナガノパープルって、どんなブドウなんだろう?」
健一は、パソコンの画面を見ながらつぶやいた。
「名前からすると、長野県のブドウだよね」
美紀が隣から画面をのぞき込む。
「そう。でも、長野県で作られているブドウだから『ナガノパープル』っていうだけじゃないみたいだ」
「へえ」
これまで二人は、ドライフルーツについて少しずつ学んできた。
果物を乾燥させると、水分が減る。
水分が減ることで、食感や味の感じ方が変わる。
砂糖を加えなくても、果物そのものの甘さを感じることがある。
そして、どんな果物を乾燥させるのかという「原料選び」も大切だ。
その原料として、トーチが選んでいるブドウの一つがナガノパープルだった。
「まずは、乾燥させる前のブドウを知らないとね」
健一はそう言って、ナガノパープルについて調べ始めた。
「ナガノパープル」は、長野県生まれ
調べてみると、ナガノパープルは長野県で育成されたブドウの品種だということが分かった。
長野県には、ブドウの栽培に取り組んできた長い歴史がある。
その中で、新しい品種を生み出す取り組みも続けられてきた。
ナガノパープルも、そうした取り組みから生まれた品種の一つだ。
「つまり、ただ長野県で作られているブドウというだけじゃないんだ」
健一が言った。
「長野で生まれた品種なんだね」
美紀もうなずいた。
ここで、二人は一つのことに気づいた。
果物には、
「どこで作られているか」
だけではなく、
「どんな品種なのか」
という情報がある。
例えば「ブドウ」と聞いても、巨峰、デラウェア、シャインマスカットなど、さまざまな品種がある。
同じブドウでも、品種が違えば特徴も違う。
だから食品を見るときには、
「ブドウだからブドウ」
で終わらせるのではなく、
「どの品種のブドウなのか」
を見ることも大切なのだ。
ナガノパープルの大きな特徴
健一は、さらに調べた。
ナガノパープルには、大きな特徴がある。
それは、
皮ごと食べられること。
「皮ごと?」
美紀が驚いた。
「ブドウって、皮をむいて食べるものだと思ってた」
もちろん、ブドウには皮を食べる品種もある。
ナガノパープルも、その特徴を持つブドウの一つだ。
健一は、以前食べたブドウを思い出した。
「そういえば、皮をむくのって意外と面倒なんだよな」
「分かる。子どもに出すときも、気になることがあるし」
生のブドウを食べるとき、
皮をむくのか。
そのまま食べるのか。
それだけでも食べ方は変わる。
そして、ドライフルーツにする場合には、皮の存在も商品の特徴を考えるうえで重要になってくる。
「なるほど」
健一は画面を見ながら言った。
「原料のブドウがどんな特徴を持っているかって、加工品を見るときにも関係するんだな」
「皮」も果物の一部
二人は、ここで少し考えた。
「果物って、果肉だけが果物じゃないんだよね」
美紀が言った。
「皮も種もある」
「そうだな」
もちろん、食べる部分や食べ方は果物や品種によって違う。
でも、食品として見るなら、
果物全体の特徴を知ること
が大切になる。
ドライフルーツも同じだ。
「果肉だけを使うのか」
「皮も含めるのか」
「どんな品種なのか」
こうした違いによって、食感や風味の印象も変わってくる。
つまり、ドライフルーツの商品価値を考えるとき、
「乾燥させた」という事実だけでは足りない。
その前にある果物の特徴を見る必要がある。
生で美味しいものを、なぜ乾燥させるのか?
「でも、一つ疑問がある」
健一が言った。
「ナガノパープルって、生で食べても美味しいブドウなんだろ?」
「そうだね」
「だったら、わざわざ乾燥させる必要ってあるのかな?」
美紀も黙って考えた。
これは、今回の一番大きな疑問だった。
生の果物には、生の果物ならではの良さがある。
みずみずしい。
香りが広がる。
果汁がある。
冷やして食べれば、爽やかな味わいも楽しめる。
では、なぜそれを乾燥させるのか。
答えは、
生の果物とドライフルーツでは、役割が違うから。
ドライフルーツにすることで、水分が減る。
その結果、保存や持ち運びがしやすくなる。
そして、生の果物とは違った食感や味わいになる。
「生のブドウの代わりじゃないんだ」
美紀が言った。
「うん」
健一もうなずいた。
「生とは違う形で、ブドウを楽しむんだ」
「良い果物」と「良いドライフルーツ」は同じなのか?
ここで、もう一つ重要なことに気づいた。
「じゃあ、良いブドウを使えば、必ず良いドライフルーツになるの?」
美紀が尋ねた。
健一は首を横に振った。
「そこは違うんじゃないかな」
どれだけ特徴のある果物でも、乾燥の方法が合わなければ、その魅力を十分に活かせない可能性がある。
逆に、乾燥方法が優れていても、原料そのものの特徴が商品の目的に合わなければ、理想の仕上がりにはならない。
だから、
原料と加工の両方を見る必要がある。
これは第4話で学んだことだった。
ナガノパープルという品種を知る。
その特徴を知る。
そして、その特徴をドライフルーツとしてどう活かしているのかを見る。
ここまで分かって初めて、商品の価値を考えられる。
「長野で生まれた」ということ
健一は、もう一度「ナガノパープル」という名前を見た。
「名前に『ナガノ』が入っているのも面白いね」
「長野県で生まれた品種だから?」
「そう。それだけじゃなくて、この名前自体が産地とのつながりを感じさせる」
もちろん、名前だけで商品の品質を判断することはできない。
しかし、品種がどこで生まれ、どんな背景を持っているのかを知ると、果物を見る視点が変わる。
「長野県のブドウ」というだけではない。
長野県で育成された、一つの品種。
それがナガノパープルだ。
その背景を知れば、店頭で見かけたときにも、
「黒っぽいブドウだな」
だけではなく、
「これはナガノパープルという品種なんだ」
と見られるようになる。
知識が増えると、同じ果物でも見え方が変わる。
一粒の中に、品種の個性がある
夕食後。
健一は、トーチのドライフルーツを一粒手に取った。
「これがナガノパープルだとすると……」
「うん」
「この一粒の味を考える前に、まず『どんなブドウからできたのか』を知る必要があるんだな」
美紀がうなずく。
「原料を知らないと、商品の特徴も分からない」
その通りだった。
ドライフルーツは、加工された後の姿だけを見ると、どれも似て見えることがある。
しかし、その中身は違う。
使われている果物が違えば、味も違う。
品種が違えば、個性も違う。
だからこそ、商品を選ぶときには、
「何の果物か」
だけでなく、
「どの品種なのか」
まで見ることに意味がある。
もう一つのブドウ
「でも、トーチにはもう一つあるよね」
美紀が言った。
「シャインマスカット」
「そう」
ナガノパープルと並んで販売されている、もう一つのドライフルーツ。
同じブドウなのに、なぜ二つの品種を選んだのだろう。
ナガノパープルにはナガノパープルの個性がある。
シャインマスカットにはシャインマスカットの個性がある。
もし二つをドライフルーツにしたら、味や香り、食感はどう違うのだろう。
「食べ比べてみたいな」
健一が言った。
「私も」
二人は、次にシャインマスカットについて調べることにした。
果物を知ると、商品が見えてくる
これまでの二人は、ドライフルーツを、
「乾燥した果物」
として見ていた。
しかし、今は違う。
その一粒の前には、
果物がある。
品種がある。
産地がある。
季節がある。
収穫がある。
そして、加工がある。
一つの商品を理解するためには、その背景を一つずつ知っていく必要がある。
健一はノートに書いた。
ドライフルーツを知る
↓
果物を知る
↓
品種を知る
↓
その特徴を知る
「だいぶ分かってきたね」
美紀が言った。
「でも、まだ半分だな」
「どうして?」
「もう一つのブドウを知らないから」
健一は笑った。
画面には、緑色の大きなブドウの写真が表示されていた。
シャインマスカット。
次は、このブドウについて知る番だった。
同じブドウでも、色が違う。
香りも違う。
味わいも違う。
そして、ドライフルーツにしたときには、また違った表情を見せるかもしれない。
一粒の価値を知る旅は、まだ続いている。
――第7話へ続く。

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