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エッセイ

連載【一粒の値段――「高い」と言われたドライフルーツの秘密】 第10話

第10話 トーチが価格だけで商品を選ばない理由

「ねえ健一さん」

美紀が、テーブルの上に置かれたドライフルーツを見ながら言った。

「最初は、このドライフルーツを見て“高いな”って思ったよね」

「そうだったね」

「でも、10回も話を聞いていたら、最初とは見え方が変わってきた」

健一が笑う。

「どう変わった?」

美紀は一粒を指先でつまんだ。

「この一粒を、ただの“50gの商品”として見なくなったかな」


■最初に見えたのは「値段」だった

最初、美紀が見ていたのは商品の価格だった。

「この量で、この値段?」

ドライフルーツは、生の果物に比べて小さく見えます。

袋を手に持っても軽い。

だからこそ、

「これでこの値段?」

と思ってしまうことがあります。

でも、そこから少しずつ考えてみました。

ドライフルーツになる前には、生の果物があります。

その果物には、

品種があり、

産地があり、

育てる時間があります。

そして、旬があります。

さらに、そこから加工され、乾燥され、仕上げられ、包装されて商品になります。

つまり、

袋の中に見えているのは、最後の姿だけ。

その前には、たくさんの過程があるのです。


■一粒になるまでに、果物は姿を変える

生の果物を乾燥させると、水分が抜けます。

当然、重量も変わります。

見た目も小さくなります。

しかし、

「小さくなった=価値が小さくなった」

ということではありません。

むしろ、果物そのものを原料として、

「保存しやすい形にする」

「少しずつ楽しめる形にする」

「果物とは違った食感や味わいで楽しむ」

という新しい形に変えているのです。

ドライフルーツは、

生の果物を単純に小さくしただけの商品ではありません。

果物の姿を変えて、別の食品として届けるもの。

そう考えると、一袋の見え方も変わってきます。


■原料の果物にも、それぞれの価値がある

そして、もう一つ大切なのが、

「何の果物を使っているのか」

ということです。

同じ「ぶどう」でも、品種は一つではありません。

産地も違います。

栽培環境も違います。

収穫時期も違います。

当然、原料としての価格も変わります。

例えば、ナガノパープルやシャインマスカットのような果物を原料にする場合、

「ぶどうを乾燥させたもの」

という一言だけでは、その背景にある価値を十分に伝えることはできません。

どんな果物なのか。

どこで育ったのか。

なぜ、その果物を選んだのか。

そこまで知って初めて、

「この商品は、こういうものなんだ」

と理解できます。


■「旬」を選ぶということ

果物には旬があります。

一年中、同じ状態で収穫できるわけではありません。

だからこそ、

旬の果物をどう生かすか

ということにも意味があります。

収穫された果物をそのまま楽しむ。

それも一つの方法です。

そして、

乾燥という方法によって、別の形で楽しむ。

それも一つの方法です。

ドライフルーツは、果物の季節を別の形で味わう食品でもあります。

だから私たちは、

「一年中同じものを作る」

という視点だけではなく、

「その時期、その土地にある素材には、どんな魅力があるのか」

という視点も大切にしたいのです。


■「手間をかけたから高い」だけではない

ここまでの記事で、

「加工には手間がかかる」

という話もしてきました。

原料を選ぶ。

状態を確認する。

加工する。

乾燥する。

仕上がりを確認する。

包装する。

商品として届ける。

こうした工程があります。

しかし、

「手間がかかっているから高い」

だけでは、商品の価値を十分に説明したことにはなりません。

重要なのは、

その手間によって、どんな商品になっているのか。

ということです。

ただ作業を増やせば価値が高くなるわけではありません。

素材を大切にするための手間。

品質を確認するための手間。

おいしく食べてもらうための工夫。

そうした一つ一つが、商品につながっています。


■「何を加えたか」だけでなく「何を加えなかったか」

前回までに見てきたように、ドライフルーツにはさまざまな作り方があります。

砂糖などを加えて甘さを調整する商品。

油などを使って食感を整える商品。

食品添加物を使用して、保存性や色、風味などを考える商品。

それぞれに、それぞれの目的があります。

一方で、

「素材そのものを生かしたい」

という考え方もあります。

その場合、

「何を加えるか」だけでなく、

「何を加えないか」

という選択も重要になります。

これは、

「添加物を使っている商品は悪い」

という話ではありません。

大切なのは、

その商品が、どんな考え方で作られているのかを知ること。

そして、自分がその考え方に価値を感じるかどうかです。


■大量生産にも、こだわりの商品にも価値がある

大量生産の商品には、

「安定した品質の商品を、たくさんの人に届ける」

という価値があります。

効率を高めることで、手頃な価格を実現することもできます。

一方で、

特定の産地や品種にこだわる。

素材を厳選する。

少量で丁寧に作る。

素材そのものの味を生かす。

そんな商品もあります。

どちらが正解ということではありません。

ただ、

同じドライフルーツという名前でも、その商品の作られ方や目指す価値は違う。

そこを理解することが大切なのです。


■だから「安い=お買い得」ではない

安い商品には、安い理由があります。

高い商品にも、高い理由があります。

だからこそ、

「どちらが安いか」

だけではなく、

「自分は、何にお金を払いたいのか」

を考える。

それが「お買い得」を考えるうえで大切なのだと思います。

量を重視するなら、大容量の商品が良いかもしれません。

価格を重視するなら、手頃な商品が良いかもしれません。

産地を重視するなら、産地が明確な商品を選ぶかもしれません。

素材を重視するなら、原材料表示を見るかもしれません。

作り手の考え方を重視するなら、その背景まで知りたくなるでしょう。

つまり、

お買い得とは、すべての人に同じではない。

自分にとって納得できる価値があるかどうか。

それが大切なのです。


■トーチが「価格だけ」で商品を選ばない理由

「それじゃあ、トーチではどうやって商品を選んでいるの?」

美紀が尋ねた。

健一は、ドライフルーツを一粒手に取った。

「価格だけで決めていたら、たぶんトーチらしい商品にはならないんだ」

「トーチらしい商品?」

「うん」

トーチが見たいのは、

価格の向こう側にあるもの。

どこで作られているのか。

どんな素材なのか。

どんな人が作っているのか。

どんな思いで商品になったのか。

その土地には、どんな背景があるのか。

そして、

「これは、誰かに伝えたい」と思える商品なのか。

そこを見ていきます。

安いから選ぶ。

高いから選ぶ。

それだけではありません。

「この商品には、伝える価値がある」

と思えるものを選ぶ。

それが、トーチのセレクトです。


■「売る」より先に、「知ってもらう」

トーチは、単に商品を並べるだけの店ではありません。

私たちが大切にしたいのは、

「なぜ、この商品なのか」

を伝えることです。

例えば、ドライフルーツなら、

「国産です」

「無添加です」

「おいしいです」

と伝えるだけではなく、

なぜ、その果物を選んだのか。

なぜ、その産地なのか。

なぜ、ドライフルーツにしたのか。

なぜ、この価格なのか。

そこまで伝えていきたい。

なぜなら、

商品の価値を知ってから選んでもらうことが、納得した買い物につながる

と考えているからです。


■旅をするように、商品を選ぶ

トーチという店名には、

「ご当地素材にトーチする」

「旅するように、選ぶ」

という思いがあります。

旅をするとき、私たちは目的地だけを見ているわけではありません。

その土地の景色を見る。

食べ物を味わう。

人と出会う。

歴史を知る。

そして、

「ここに来てよかった」

と思える何かを持ち帰ります。

商品選びも、それに少し似ているのではないでしょうか。

ただ価格だけを比較するのではなく、

その商品が生まれた土地まで想像してみる。

素材を育てた人。

商品を作った人。

その土地にある文化。

そこから生まれた商品。

そうした背景まで知ることで、

一つの商品が、少し違って見えてくることがあります。


■最初の「高くない?」という疑問から

美紀は、最初に見た商品ページを思い出していた。

「そういえば私、最初は本当に“高くない?”って思ったんだよね」

「うん」

「でも今なら、値段だけを見て“高い”とは言わないと思う」

「どうして?」

美紀は一粒を見つめた。

「その値段になるまでに、何があったのかを知ったから」

健一が頷いた。

「それが、この10回の話の答えかもしれないね」

一粒のドライフルーツ。

その一粒だけを見れば、小さい。

袋だけを見れば、少ない。

価格だけを見れば、高く感じるかもしれない。

でも、

その一粒になるまでに、

果物があり、

産地があり、

旬があり、

加工があり、

人の手があり、

商品を届ける仕組みがあります。

そして、

そのすべてを含めて、

一つの商品になっています。


■価格の先にあるものを、知ってほしい

私たちは、商品を買うとき、

どうしても価格を見ます。

それは当然のことです。

限られたお金の中で、自分にとって良い選択をしたい。

誰もがそう思います。

だからこそ、

「高いものを買いましょう」

と言いたいわけではありません。

むしろ、

「価格だけで判断する前に、その商品のことを少し知ってみませんか?」

と伝えたいのです。

その商品は、何からできているのか。

どこから来たのか。

どんな人が作ったのか。

どんな工夫があるのか。

どんな考え方で作られているのか。

そして、

「自分にとって、この価値ならこの価格でも納得できる」

と思えるのか。

そこまで知って選んだ商品なら、

買った後にも、

「これを選んでよかった」

と思えるのではないでしょうか。


■「高い」が「なるほど」に変わるとき

10回にわたって、

「一粒の値段」

について考えてきました。

最初の疑問は、

「このドライフルーツ、高くない?」

でした。

でも、その答えは、

「高くありません」

という一言ではありません。

大切なのは、

なぜ、その価格なのかを知ること。

そして、

その価値を自分自身で判断すること。

価格を見て、

「高い」

と思うことは悪いことではありません。

そこから、

「なぜだろう?」

と一歩踏み込んでみる。

すると、

「なるほど」

に変わることがあります。

トーチが届けたいのは、

まさにその「なるほど」です。


■一粒の向こう側にある物語

美紀が最後の一粒を口に入れた。

「ねえ健一さん」

「うん?」

「これからドライフルーツを買うとき、値段だけじゃなくて、裏側も見てみるよ」

「裏側?」

「原材料表示とか、産地とか、作り方とか……」

そして、少し笑った。

「その商品が、どんなところから来たのかもね」

健一も笑った。

「それなら、旅みたいな買い物になるかもしれないね」

一粒のドライフルーツ。

そこには、

果物の時間があり、

土地の時間があり、

作り手の時間があり、

商品になるまでの時間があります。

だから私たちは、

一袋の値段だけではなく、

その一粒の向こう側にあるものを見てほしい。

それを知ったうえで、

「私はこれを選びたい」

と思ってもらえたら。

それが、トーチにとって何よりうれしいことです。


「一粒の値段」10話を終えて

ドライフルーツは、ただの「乾燥させた果物」ではありません。

果物があり、

産地があり、

旬があり、

加工があり、

人の手があり、

そして、それを選ぶ人がいる。

その一つ一つがつながって、一つの商品になります。

だから、

「高いか、安いか」だけで商品を見ない。

その価格の向こう側に、

どんな価値があるのか。

そこを見る。

それが、今回の10話を通して伝えたかったことです。

トーチもまた、

価格だけで商品を選ぶのではなく、

「その土地、その素材、その作り手だからこそ生まれる価値」

を見つけ、

それを丁寧に伝えていきたいと思っています。


今回のポイント

  • 商品の価格には、原料・産地・旬・加工・包装・流通など、さまざまな要素が関わっている
  • 「高い=良い」「安い=悪い」ではない
  • 大量生産にも「多くの人に安定して届ける」という価値がある
  • こだわりの商品には、素材や産地などを大切にする価値がある
  • 「安い」と「お買い得」は同じではない
  • 自分が何に価値を感じるかを考えて商品を選ぶことが大切
  • トーチは、価格だけでなく「その商品が生まれた背景」まで見て商品を選びたい

おわりに――「旅するように、選ぶ」

商品を選ぶことは、単に値札を見ることではない。

どこから来たのか。

誰が作ったのか。

何を大切にしているのか。

なぜ、この形になったのか。

そして、

なぜ、この価格なのか。

そこまで知ると、一つの商品が違って見えてきます。

トーチは、そんな「選ぶ時間」も大切にしたい。

旅先で、その土地ならではのものに出会うように。

知らなかった素材に出会い、

知らなかった作り手に出会い、

知らなかった価値に出会う。

そして最後に、

「これを選んでよかった」

と思ってもらえること。

それが、私たちトーチが目指すセレクトです。

旅するように、選ぶ。

それが、

トーチの「一粒の値段」に対する答えです。


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