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エッセイ 小説

連載【一粒の余白――忙しい毎日に果物を取り戻す】 第6話

第6話 仕事の合間の一粒

午後3時。

パソコンの画面を見つめながら、彼女は小さく息を吐いた。

「ふう……。ちょっと疲れたな」

午前中から続いていた仕事も、まだ終わりが見えない。

メールを返し、資料を確認し、次の打ち合わせの準備をする。

時計を見ると、昼食からずいぶん時間が経っていた。

「何か甘いものが食べたいな」

そんな気持ちが、ふと湧いてくる。

引き出しを開けると、個包装のお菓子が入っていた。

「これにしようかな」

一つ取り出しかけて、彼女は少し考えた。

そういえば、最近は仕事の合間に何かをつまむことが多い。

忙しいときほど、手軽に食べられるものに手が伸びる。

お菓子が悪いわけではない。

甘いものを楽しむ時間も、暮らしの中には必要だ。

けれど、いつも同じものを選んでいると、少し違うものも食べてみたくなる。

「何か、ほかにも選択肢があればいいのに」

そう思ったとき、ふと朝のことを思い出した。

今朝は、コーヒーと一緒にドライフルーツを一粒食べた。

ほんの少しのことだったけれど、果物の甘さを感じる時間があった。

「そうだ。仕事の合間にも、果物を楽しめるんだった」

彼女はバッグから、小さな袋に入れたドライフルーツを取り出した。

一粒、口に入れる。

噛むと、果物の味がゆっくりと広がった。

「うん。こういう甘さもいいな」

いつものお菓子とは違う、果物ならではの味わい。

ほんの一粒でも、素材によって甘さや食感が違うことに気づく。

「これは、ゆっくり味わいたくなるな」

彼女は、もう一粒だけ手に取った。

そして、残りは袋に戻した。

「よし。もう少し頑張ろう」

パソコンに向かい直すと、さっきまでの慌ただしさが少しだけ遠のいたような気がした。

もちろん、ドライフルーツを食べたから疲れが取れた、というわけではない。

仕事が片づいたわけでもない。

ただ、仕事の手を少し止めて、自分が食べているものに意識を向けた。

その短い時間が、気分を切り替えるきっかけになったのだ。

考えてみれば、私たちは一日の多くの時間を、何かに追われながら過ごしている。

仕事の締め切り。

家族の予定。

買い物や家事。

次にやるべきことを考えながら、食事を済ませることも少なくない。

間食も同じだ。

仕事をしながら、画面を見ながら、気づけば食べ終わっている。

それが悪いということではない。

忙しい毎日には、そんな時間も必要だ。

でも、ときには手を止めて、食べることそのものを楽しんでみてもいい。

お茶を一杯飲む。

お気に入りのお菓子を味わう。

季節の果物を食べる。

ドライフルーツを一粒、ゆっくり噛んでみる。

そんな小さな時間が、日常に違った表情を与えてくれる。

そして、間食を考えるときに大切なのは、何か一つを正解に決めつけないことだと思う。

甘いものを食べたい日もある。

果物を楽しみたい日もある。

お腹が空いているなら、間食だけで済ませず、食事の量やタイミングを見直したほうがよいこともある。

大切なのは、自分の状態や生活に合わせて選ぶこと。

ドライフルーツも、その選択肢の一つだ。

乾燥によって水分が減るため、生の果物と比べて少量に果実由来の糖分やエネルギーが集まりやすい。だからこそ、食べる量を意識することも大切になる。

商品によっては砂糖が加えられているものもある。

選ぶときには、原材料表示を確認してみるのもよいだろう。

「ドライフルーツなら、いくら食べてもいい」ということではない。

そうではなく、どんなものを、どれくらい食べるのかを、自分で考えて選ぶ。

その積み重ねが、食生活を見直すきっかけになる。

彼女は、午後の仕事を終えて帰宅する途中、食品売り場に立ち寄った。

並んでいるのは、季節の果物や、さまざまなお菓子。

「明日は何を食べようかな」

以前なら、何となくいつものものを選んでいたかもしれない。

でも今は、少しだけ違う。

「朝は生の果物。仕事の合間にはドライフルーツ。休日は、好きなお菓子を楽しもう」

そんなふうに、いくつかの選択肢を持っておく。

それだけで、食べることが少し楽しくなる気がした。

健康のために、好きなものをすべて我慢する必要はない。

毎日、完璧な食事を目指す必要もない。

食生活は、義務ではなく、暮らしの一部なのだから。

忙しい午後の、ほんの一粒。

それは大きなことではない。

けれど、自分が何を食べ、どんな時間を過ごしたいのかを考える、小さなきっかけにはなる。

次に「ちょっと甘いものが欲しい」と思ったとき。

いつものお菓子を選んでもいい。

果物を選んでもいい。

その日の気分に合わせて、選べばいい。

食べることを我慢するのではなく、食べる楽しみを知ること。

それもまた、豊かな食生活への一歩なのかもしれない。

一日の真ん中に、一粒の余白を。

忙しい毎日の中にも、自分のための小さな時間を残しておきたい。


トーチの視点

間食は、単に空腹を満たすためだけのものではありません。好きな味を楽しんだり、ほっと一息ついたりする時間にもなります。

お菓子を否定するのではなく、果物という選択肢も持っておく。

ドライフルーツを選ぶときは、原材料や砂糖の使用、食べる量にも目を向けてみる。

トーチが大切にしたいのは、健康のために我慢を重ねることではなく、素材を知り、自分に合った食べ方を選ぶことです。

仕事の合間の一粒が、食べることを見つめ直す小さなきっかけになればと考えています。


次回予告

第7話「旅先で楽しむ一粒」

いつもとは違う景色、初めて出会う土地の味。

旅には、その土地ならではの食の楽しみがあります。

次回は、旅先で出会う果物と、バッグに忍ばせたドライフルーツ。

旅するように、果物を楽しむ。

そんな食の楽しみ方を考えます。


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