【土曜日企画】トーチが訪ねる 日本の宝もの ➊❹
第1シリーズ「日本の健康食材を訪ねる」
第4話 海から生まれる「塩」を訪ねて
― 一粒の塩に込められた、海と人の知恵 ―
こんにちは。「トーチ」です。
これまで「トーチが訪ねる 日本の宝もの」では、信州の霊芝、味噌、そして北海道の昆布を訪ねてきました。
霊芝には、自然の中で育てる人のこだわり。
味噌には、発酵と熟成を受け継いできた知恵。
昆布には、海の恵みを生かしてきた日本のだし文化。
どれも、私たちの食卓にとって身近なものですが、その背景をたどってみると、そこには長い歴史と、地域で暮らす人々の知恵があります。
今回、トーチが目を向けるのは、さらに身近なものです。
「塩」
です。
「塩なんて、どれも同じじゃないの?」
そう思われるかもしれません。
確かに、スーパーへ行けば、さまざまな塩が並んでいます。
食卓に置かれた塩を見ても、
「これはどこで、誰が、どのようにつくられたのだろう」
と考えることは、あまりないかもしれません。
しかし、日本は四方を海に囲まれた島国です。
昔から人々は、海水から塩を取り出し、食生活に欠かせないものとして大切にしてきました。
そして、その塩づくりには、地域の気候や海、そして人の知恵が深く関わっています。
今回は、そんな「塩」を通して、日本人と海との長い付き合いについて考えてみたいと思います。
塩は、昔から「なくてはならないもの」だった
今では、塩は簡単に手に入ります。
スーパーへ行けば買うことができ、家庭にも当たり前のようにあります。
ところが、昔の人々にとって塩は、今よりずっと重要なものでした。
料理の味を整える。
食材を保存する。
加工する。
そして、さまざまな食品をつくる。
冷蔵庫のなかった時代には、食材を長く利用するためにも、塩は重要な役割を果たしていました。
魚を塩漬けにする。
野菜を漬物にする。
保存性を高める。
つまり塩は、単なる「味付け」ではありませんでした。
食べものを無駄なく使い、暮らしを支えるための知恵だったのです。
海水から、どうやって塩をつくるのか
塩の原料は海水です。
しかし、海水をそのまま飲んでも、もちろん塩として食べることはできません。
海水には水分が多く含まれているため、その水分を取り除き、塩分を濃縮していく必要があります。
昔から人々は、太陽の力や風、火など、自然や人の力を利用して塩をつくってきました。
海水をくみ上げる。
濃い塩水をつくる。
さらに水分を取り除く。
そして結晶になった塩を取り出す。
方法は地域や時代によってさまざまです。
ここで面白いのは、同じ海水から塩をつくっても、製法によって仕上がりが変わるということです。
粒の大きさ。
結晶の形。
口に入れたときの感覚。
味わい。
それぞれに違いがあります。
塩づくりは「自然との仕事」
塩づくりの現場を考えてみると、そこには自然との付き合いがあります。
太陽。
風。
海水。
気温。
湿度。
天候。
特に、自然の力を利用する製法では、天候が大きく影響します。
晴れの日と雨の日では条件が違う。
風がある日とない日でも違う。
季節によっても変わります。
つまり塩づくりは、
「人間が自然を完全にコントロールする仕事」ではありません。
むしろ、
「自然の力を借りながら、人間が調整していく仕事」
なのだと思います。
これは、前回の昆布にも通じるところがあります。
昆布も海で育ちます。
塩も海から生まれます。
どちらも、人間だけの力ではつくることができません。
海があって、自然があって、そこに人の知恵と技術が加わる。
その組み合わせによって、私たちの食卓に届くのです。
日本各地に「塩の文化」がある
日本は南北に長い国です。
北海道から沖縄まで、それぞれ気候も海の環境も違います。
当然、塩づくりの方法も地域によって異なってきました。
海水を煮詰める。
太陽の力を利用する。
風を利用する。
昔ながらの製法を受け継ぐ。
地域の環境に合わせて、さまざまな工夫が重ねられてきました。
例えば沖縄では、太陽の光や海の恵みを生かした塩づくりが行われています。
一方、日本海側では、地域の気候や歴史の中で独自の製塩文化が育ってきました。
「塩」という一つの食品を見ても、その背景には地域ごとの違いがあります。
だから、旅をすると面白いのです。
その土地でつくられた塩を知ると、
「この海は、どんな海なのだろう?」
「なぜ、この製法なのだろう?」
と、その土地そのものに興味が湧いてきます。
「海が違えば、塩も違う」
海は、どこへ行っても同じように見えるかもしれません。
しかし、実際には海岸の地形も違えば、潮の流れも違います。
周囲の自然環境も違います。
そして、そこに暮らす人々が積み重ねてきた歴史も違います。
だからこそ、その土地ならではの塩づくりが生まれてきました。
これは、トーチが地域の商品を見ていて、いつも感じることでもあります。
商品だけを見ると、
「塩」
という一つのカテゴリーに見えます。
ところが、その背景を見てみると、
「沖縄の海」
「地域の気候」
「昔から続く製法」
「生産者の経験」
という、さまざまな要素が重なっています。
商品は、その土地の文化を小さな形にして届けてくれるものなのかもしれません。
塩は「少ないからこそ大切」
塩について、もう一つ面白いことがあります。
それは、料理の中で使う量が決して多くないことです。
少量でも、料理全体の味を大きく左右します。
入れすぎれば塩辛くなる。
少なすぎれば味がぼやける。
だからこそ、昔から料理では「塩加減」が大切にされてきました。
これは、暮らしにも少し似ている気がします。
何でも多ければいいわけではありません。
必要なものを、必要なだけ。
そして、それを丁寧に使う。
昔の人々は、限られた資源を大切に使いながら暮らしてきました。
その感覚は、今の私たちにも大切なのではないでしょうか。
「自然派」とは、自然のものを使うだけではない
トーチでは「自然の恵み」を大切にしています。
しかし、自然派という言葉を、
「自然のものなら何でもいい」
という意味では考えていません。
大切なのは、
自然からいただいたものを、どう生かすか。
そして、
その背景にある人の仕事や地域の文化まで大切にすること。
だと思っています。
海から塩をいただく。
山から木の実やきのこをいただく。
畑から野菜をいただく。
そして、それを必要以上に無駄にしない。
そうした考え方は、昔から日本の暮らしの中にありました。
「自然派」という言葉がなかった時代から、日本人は自然と折り合いをつけながら暮らしてきたのです。
店長のひとこと
私は旅行をすると、どうしてもその土地の食べものが気になります。
観光名所を見ることも楽しい。
もちろん温泉も楽しみです。
でも、旅先で食べる料理には、その土地の歴史が詰まっているように感じます。
海の近くなら魚。
山の近くなら山菜。
その土地で採れるものを使った料理。
そして、味付けにも地域の特徴が出ます。
その中で「塩」に目を向けてみると、面白い発見があります。
同じ料理でも、使う塩によって感じ方が違う。
そして、その塩を知ると、
「この塩は、あの海でつくられているんだ」
と、その土地の風景まで思い浮かぶようになります。
商品を買うことは、その土地を知る入り口にもなる。
私は、そこに地域商品の面白さがあると思っています。
一粒の塩から、海を想像してみる
今度、食卓に塩があったら、少しだけ立ち止まってみてください。
「この塩は、どこから来たんだろう?」
そう考えてみる。
もし産地が分かれば、その土地を調べてみる。
どんな海なのか。
どんな人がつくっているのか。
どんな製法なのか。
そうすると、いつもの調味料が少し違って見えてきます。
単なる「白い粒」ではなくなるのです。
そこには海があり、
そこには生産者がいて、
そこには地域の歴史があります。
一粒の塩にも、土地の物語がある。
これが、今回私たちが塩を訪ねて感じたことです。
トーチが届けたいのは「商品」だけではない
ここまで3回にわたって、霊芝、味噌、昆布、そして今回の塩を見てきました。
一見すると、まったく違う商品です。
しかし、共通するものがあります。
それは、
「自然の恵みを、人の知恵によって生かしている」
ということです。
そして、その知恵を次の世代へ残していく人たちがいます。
トーチは、そうした人たちがつくるものを、単なる「商品」として扱いたくありません。
どこから来たのか。
誰がつくったのか。
なぜ、この方法なのか。
その背景を知っていただくことで、商品に対する見方が変わると思うからです。
価格だけでは比較できない価値があります。
便利さだけでは測れない価値があります。
それが、地域に根付いた商品にはあるのだと思います。
おわりに
塩は、とても小さな存在です。
料理の中でも主役ではありません。
でも、塩がなければ味が決まらない。
そして、その一粒の向こう側には、海があります。
自然があります。
生産者がいます。
地域の歴史があります。
先人から受け継がれてきた知恵があります。
そう考えると、毎日の食卓は、私たちが思っている以上に多くの人と自然につながっているのかもしれません。
トーチが大切にしたいのは、まさにそこです。
「もの」だけを見るのではなく、「ものが生まれた背景」を見る。
その土地を知る。
その人を知る。
その仕事を知る。
そして、知った上で選ぶ。
それが、これからの時代における「買い物」の一つの楽しみ方ではないでしょうか。
次回は、海から山へ、そして「保存」という日本人の知恵にもう一度目を向けます。
テーマは、
「干すという知恵――なぜ日本には干物や乾物が多いのか」
です。
干し椎茸、切り干し大根、かんぴょう、魚の干物、そして果物。
「干す」という、とてもシンプルな方法が、日本の食文化をどのように支えてきたのか。
そこには、現代の私たちが忘れかけている「食べものを大切にする知恵」があります。
次回も、日本の暮らしに残る「宝もの」を一緒に訪ねてみたいと思います。
トーチ――自然の恵みと、豊かな暮らしをあなたのもとへ。

