第10回:便利さと本質 ― 私たちは何を失い、何を得たのか
現代の食生活は、かつてないほど便利になった。
冷蔵技術、加工食品、物流網、保存料、電子レンジ。
これらは、私たちの生活を大きく支え、食材との距離を劇的に縮めた。
しかし同時に、便利さは“本質”を見えにくくする。
食材の旅路、味の背景、技術の意味。
それらが、便利さの影に隠れてしまうことがある。
便利さは悪ではない。
むしろ、現代社会に不可欠な価値だ。
ただし、便利さが何をもたらし、何を奪ったのかを理解することは、
食材の未来を考えるうえで重要な視点になる。
便利さがもたらしたもの
まず、便利さは確かに多くの恩恵をもたらした。
- 食の安全性と安定供給
冷蔵・冷凍技術、殺菌技術、保存料。
これらは、食中毒のリスクを減らし、
季節や地域に関係なく食材を手に入れられるようにした。
科学的に見ても、
現代の食品安全技術は人類史上もっとも高度だ。
- 時間の節約と生活の自由度
加工食品や半調理品は、
- 調理時間の短縮
- 家事負担の軽減
- 多様な食文化へのアクセス
を可能にした。
これは、特に都市生活において大きな価値を持つ。
3. 食の多様性の拡大
物流網の発達により、
世界中の食材が日常的に手に入るようになった。
便利さは、食文化の“選択肢”を広げた。
便利さが奪ったもの
一方で、便利さは“本質”を見えにくくする側面もある。
- 食材の“背景”が見えなくなる
加工食品は、
- どこで育ち
- 誰がつくり
- どんな環境で生まれたのか
といった情報を切り落とす。
その結果、
食材が“無名化”される。
味の個性や地域性が薄れ、
食材が“均質な商品”として扱われやすくなる。
2. 微生物との距離が遠くなる
発酵食品や生鮮食品は、微生物との共生によって成立している。
しかし、過度な殺菌や加工は、
微生物の多様性を奪い、
味の深みや複雑性を減らすことがある。
科学的に見ても、
微生物の多様性は味の多様性と強く相関する。
3. 季節感が薄れる
便利さは、季節を“消す”。
一年中同じ野菜が手に入り、
旬の意味が曖昧になる。
旬とは、
自然環境と食材の生理が最も調和する瞬間
であり、味のピークでもある。
便利さはその“ピークの意味”を弱めてしまう。
便利さと本質は対立しない。問題は“距離”である
便利さそのものが悪いわけではない。
問題は、便利さが食材との距離をどれだけ広げるかだ。
- 距離が広がると、理解が薄れる
食材の背景が見えなくなると、
- 味の違い
- 地域性
- 生産者の技術
- 自然環境の影響
が理解しにくくなる。
理解が薄れると、
選択の基準も曖昧になる。
2. 距離が縮まると、価値が見えてくる
逆に、食材の旅路を知ると、
- 味の理由
- 技術の意味
- 自然環境との関係
が立体的に見えてくる。
便利さの中でも、
本質を見失わない選択ができるようになる。
便利さの時代だからこそ、“本質”が価値になる
現代は、便利さが当たり前になった時代だ。
だからこそ、
- 産地の物語
- 生産者の技術
- 微生物の生態系
- 地形と気候の履歴
といった“本質的な価値”が再評価されている。
便利さの時代において、
本質は“贅沢”ではなく、
選択の基準になりつつある。
次回予告:食べるとは、世界とつながる行為である
次回は、食材の旅路をさらに広い視点で捉える。
食べるという行為が、
自然、生産者、地域、文化、そして未来と
どのようにつながっているのか。
食べることは、
世界との関係を結び直す行為でもある。