連載小説《気の森の記録》─失われた循環の謎─ [5/7]
【五日目】第五章 村に広がる“声なき不調”
森から戻った灯と蒼は、村の診療所を訪れた。
医師の白石は、灯を見るなり驚いた表情を浮かべた。
「灯さん、久しぶりだね。
実は相談したいことがあったんだ」
白石はカルテを見せた。
そこには、村人たちの共通した症状が並んでいた。
- 慢性的な疲労
- 肌の不調
- 眠りの浅さ
- 理由の分からない倦怠感
白石は言った。
「検査では異常が出ない。
でも、みんな“何かがおかしい”と言うんだ」
灯は森で感じたことを話した。
「森の香りが薄れている。
循環が弱っているのかもしれない」
白石は深くうなずいた。
「人の体は、自然の刺激で微細な変化に気づく。
香り、空気、土の匂い……
それが弱ると、体の声が聞こえにくくなる」
蒼が言った。
「森茸は、森の循環の象徴です。
あれが減ったことで、村全体の“気の流れ”が乱れているのかもしれません」
白石はカルテを閉じた。
「灯さん、君が戻ってきたのは偶然じゃない気がする。
祖母さんが残したものを、もう一度村に取り戻してほしい」
灯は決意した。
「森を再生させる。
そのために、村の人たちにも“気づき”を取り戻してもらう」
その夜、灯は祖母の家で一人、黒い森茸を見つめていた。
その静かな存在が、何かを語りかけているように感じた。
