連載小説《気の森の記録》─失われた循環の謎─ [4/7]
【四日目】第四章 森の心臓部
香りを追って進むと、森の景色が変わり始めた。
木々の葉がわずかに艶を取り戻し、土の色も深くなる。
蒼が言った。
「ここは、森の“心臓部”と呼ばれる場所です。
森茸が最も多く育つ場所だった」
灯は周囲を見渡した。
確かに、どこか懐かしい温かさがある。
そのとき、灯は一本の倒木の根元に、黒い影を見つけた。
「蒼くん、あれ……!」
近づくと、それは小さな黒い茸だった。
表面は艶やかで、触れるとわずかに温かい。
灯は息を呑んだ。
「これが……黒い森茸」
蒼は静かにうなずいた。
「森が完全に死んだわけじゃない。
まだ、息をしている」
灯は祖母の手帳を開き、最後のページを見た。

灯は目を閉じ、深く息を吸った。
土の香り、木の香り、そして黒い茸のほのかな香り。
それらが混ざり合い、体の奥に染み込んでいく。
灯は気づいた。
「森の香りは、体の“気づき”を呼び覚ますんだ」
蒼が言った。
「灯さん、森はあなたを呼んでいたのかもしれません。
祖母さんが残した手帳も……」
灯は黒い茸を見つめた。
「私は、この森を守りたい。
祖母が守ろうとした“循環”を取り戻したい」
蒼は微笑んだ。
「なら、まだ間に合います」
森の奥で、風が優しく吹いた。
