連載【甘さを足さない理由――果物本来の味を探す旅】 第7話
第7話 「何を入れるか」より「何を入れないか」
「食品を選ぶときって、何が入っているかばかり見ていたな……」
彼女は、買い物から帰ってきた食品をテーブルに並べていた。
原材料表示を見る。
砂糖。
植物油脂。
香料。
酸化防止剤。
さまざまな名前が並んでいる。
これまでなら、
「何が入っているんだろう?」
と確認して終わっていた。
でも、今は少し違う。
前回までの話を思い出すと、
もう一つ、気になることがある。
「なぜ、これを入れなかったんだろう?」
ということだった。
食品をつくるときには、
何かを加えることで味を整える方法がある。
砂糖を加えて甘くする。
油を使って食感をつくる。
香料で香りを整える。
保存性を考えて、必要な成分を使う。
どれも食品加工の中では、それぞれ意味のある方法だ。
だから、
「何かが入っている=悪い食品」
ではない。
それぞれの商品には、それぞれの目的がある。
では反対に、
「何も加えない」
という選択には、どんな意味があるのだろう。
彼女は、ドライフルーツを一粒手に取った。
生のブドウなら、みずみずしい。
噛めば果汁が広がる。
甘さだけではなく、酸味や香りもある。
皮にも、その果物ならではの風味がある。
では、それを乾燥させるとどうなるか。
水分が減る。
食感が変わる。
味の感じ方も変わる。
それでも、
「ブドウだった」という個性は残っている。
そこに砂糖を加えれば、さらに甘さを強くすることができる。
油を使えば、食感を変えることもできる。
香料を使えば、香りを調整することもできる。
でも、もし、
「この果物そのものを味わってほしい」
と考えるなら。
最初にすることは、
「何を足そうか?」
ではないのかもしれない。
「何を足さなくても、この果物は十分においしいだろうか?」
そう考える。
これは、とてもシンプルなことだ。
けれど、食品をつくる側からすると、意外と勇気のいる選択でもある。
何かを加えれば、味を分かりやすくすることができる。
甘くすることもできる。
香りを強くすることもできる。
食感を整えることもできる。
それに対して、
「素材の力に任せる」
という方法は、素材そのものの状態に向き合わなければならない。
彼女は、ふと気づいた。
「足さないって、何もしないことじゃないんだ……」
そう。
むしろ逆かもしれない。
何かを加えて味を整えるのであれば、加工する側の判断で味をつくることができる。
でも、
素材そのものを生かそうとするなら、素材を選ぶことが重要になる。
どんな果物を使うのか。
どんな状態の果物なのか。
どこで育ったのか。
いつ収穫されたのか。
どう乾燥させるのか。
そして、
どこまで手を加えるのか。
「足さない」という選択の裏側には、
実はたくさんの判断がある。
だからトーチでは、
「砂糖不使用」
という言葉だけを売りにしたいわけではない。
砂糖を使わないことそのものが目的なのではない。
大切なのは、
「果物がもともと持っている味を、できるだけ素直に届けたい」
という考え方だ。
そのために、
砂糖を加えない。
油を加えない。
必要のないものを加えない。
素材の甘さ。
香り。
酸味。
そして、果物ごとの個性。
それらをできるだけ生かす。
もちろん、
「砂糖を使わない食品が、すべて良い」
という話ではない。
砂糖には、食品加工上の役割がある。
油にも役割がある。
食品添加物にも、それぞれの目的がある。
だから、
「使っているからダメ」
と決めつけるのではなく、
「なぜ使っているのか」
を知る。
そして、
「使わなくても素材の魅力を十分に生かせる」
と考えるなら、
あえて使わない。
トーチが大切にしているのは、その考え方だ。
彼女は、原材料表示をもう一度見た。
今までは、
「何が入っている?」
と確認していた。
今は、
「何が入っていない?」
にも目が向く。
そして、さらに一歩進んで、
「なぜ入っていないんだろう?」
と考えるようになった。
それだけで、同じ商品でも見え方が変わってくる。
「砂糖不使用」
という表示も、
単なるセールスポイントではなくなる。
そこには、
「この果物の甘さを、そのまま味わってほしい」
というつくり手の考えがあるかもしれない。
食品を選ぶとき、
「何を入れたか」
を見ることは大切だ。
でも、
「何を入れなかったか」
にも、その商品の思想が表れることがある。
そして、
「なぜ入れなかったのか」
まで分かれば、その商品が何を目指しているのかが、さらに見えてくる。
これは、ドライフルーツに限った話ではない。
味噌でも。
出汁でも。
漬物でも。
ジャムでも。
昔から日本には、
素材の味を生かすために、
「あえて余計なものを加えない」
という考え方があった。
足し算だけが、料理ではない。
引き算もまた、食文化の知恵なのだ。
彼女は、ドライフルーツを口に入れた。
甘い。
でも、その甘さだけを追いかけるような味ではない。
噛んでいると、
ブドウの香りがする。
少し酸味もある。
皮の風味も感じる。
「なるほど……」
「何かを足して、この味をつくったんじゃないんだ」
そう思うと、
一粒の見え方が変わった。
これは、
「甘いお菓子」
ではない。
果物を乾かして、果物の味を残した食べもの。
そう考えると、
「砂糖不使用」という言葉の意味も、少し深く感じられた。
トーチが届けたいのは、
「何も入っていないから安心してください」
というメッセージではない。
そうではなく、
「この商品は、何を大切にしてつくられたのか」
を知ってほしい。
素材を選ぶ。
素材の味を見る。
必要な加工をする。
そして、
必要以上には足さない。
その積み重ねが、
一粒の味をつくっていく。
彼女は思った。
「食品って、足し算だけじゃないんだな」
何を加えるか。
何を加えないか。
そして、
何を残すのか。
食品を選ぶということは、
その一つひとつの考え方を選ぶことなのかもしれない。
そして、もう一つ気になった。
「でも……」
「素材が良くても、加工の仕方によっては、その良さを隠してしまうこともあるんじゃない?」
確かに、その通りかもしれない。
良い果物を使っても、
味を強くつけすぎれば、
果物そのものの個性が分からなくなる。
素材を生かすためには、
「何を加えないか」だけではなく、「どう加工するか」も重要なのだ。
次回は、
「原料の良さを加工で隠さない」
という視点から、
素材と加工の関係を、もう少し深く考えてみたい。
🍇 トーチの視点
食品を選ぶとき、
「何が入っているか」を見る。
これは大切なことです。
でも、もう一歩進んで、
「何を入れなかったのか」
にも目を向けてみる。
そして、
「なぜ入れなかったのか」
を考える。
そこには、その商品の考え方が表れていることがあります。
トーチが大切にしているのは、
足さないことそのものではありません。
果物が持っている甘さや香り、個性をできるだけ生かすために、
「必要のないものは、あえて足さない」
という選択です。
素材を生かすためには、
足し算だけでなく、
引き算という考え方もある。
トーチは、そんな食品の見方を伝えていきたいと考えています。
次回予告
第8話「原料の良さを加工で隠さない」
良い素材を使えば、それだけで良い商品になるのでしょうか。
実は、加工の仕方によって、素材の個性は大きく変わります。
次回は、
「素材を生かす加工」とは何なのか。
そこから、トーチが商品を選ぶときに大切にしていることを、さらに掘り下げます。

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