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エッセイ

連載【一粒の値段――「高い」と言われたドライフルーツの秘密】第6話

第6話 加工には、どんな手間がかかるのか

「ねえ、健一」

美紀が、またスマートフォンを見ながら聞いた。

「ドライフルーツって、果物を乾燥させればできるんだよね?」

「基本的には乾燥させる食品だけど……」

「けど?」

「『乾燥させるだけ』って言うと、ちょっと簡単すぎるかな」

「そうなの?」

美紀は首をかしげた。

「だって、前に旬の果物を使うって話をしたでしょう?」

「うん」

「その果物を仕入れて、乾燥させて、袋に入れれば完成じゃないの?」

健一は笑った。

「じゃあ、一度考えてみようか」


■「乾燥する」だけなら簡単に聞こえる

確かに、言葉だけを聞けば簡単です。

果物を乾燥させる。

それだけ。

しかし、食品として商品にするとなると、話は変わります。

まず、原料となる果物があります。

そして、その果物を確認し、

加工する準備をし、

乾燥させ、

仕上がりを確認し、

包装して、

ようやく商品として届けることができます。

つまり、

「乾燥」という一つの言葉の中に、いくつもの仕事が含まれている

のです。

しかも、果物は工業製品ではありません。

一粒一粒、大きさも形も状態も違います。

だからこそ、加工する側には、素材を見る目も必要になります。


■最初に必要なのは「良い原料を選ぶこと」

どれだけ加工技術があっても、原料となる果物そのものがなければ商品は作れません。

そして、原料なら何でもいいわけではありません。

品種。

産地。

収穫時期。

果実の状態。

こうしたことを考えて原料を選びます。

前回までの記事で見てきたように、ドライフルーツの価値は、完成した一粒だけで決まるものではありません。

その一粒になる前の果物から、すでに始まっています。

だからこそ、加工の前段階で、

「この果実を使う」

という判断そのものが重要になります。


■果物は「全部同じ」ではない

美紀が言った。

「でも、同じ品種なら、どの果物も同じじゃないの?」

「実際に並べてみると、そうでもないよ」

例えば、同じ品種のぶどうでも、

大きさが違う。

形が違う。

状態が違う。

果皮の状態も違う。

一つひとつの果実には個体差があります。

そのため、加工するときには、

「果物だから全部一緒」

とは考えられません。

素材の状態を確認しながら扱うことが必要になります。

これは、工場で同じ形の部品を大量に並べて加工するのとは違うところです。


■乾燥は「ただ時間を置く」ことではない

「じゃあ、乾燥機に入れておけばいいんじゃない?」

美紀が言った。

「そこも、そんなに単純じゃない」

「どうして?」

果物を乾燥させると、水分が抜けていきます。

しかし、だからといって、

「長く乾燥させれば、それでいい」

というわけではありません。

乾燥の進み方は、原料の状態や加工条件などによって変わります。

乾燥させすぎれば、食感や風味に影響することがあります。

一方で、十分な乾燥ができなければ、商品として求められる状態になりません。

つまり、

「どこまで乾燥させるのか」

を考える必要があります。

時間。

温度。

水分の状態。

仕上がり。

こうした要素を確認しながら、適切な状態を目指します。

※実際の製造条件や工程は、製造者・商品によって異なります。


■「素材を活かす加工」には、別の難しさがある

ここで、美紀が気づいた。

「そういえば、トーチのドライフルーツって、砂糖を入れてないんだよね?」

「そうだね」

「じゃあ、甘くするために何かを足すわけじゃないんだ」

「うん」

ここには、素材を活かす商品の難しさがあります。

砂糖などを加えれば、味を調整する方法の一つになります。

しかし、素材そのものを活かすことを重視するなら、

果物そのものの状態が、より重要になります。

果物が持っている味わい。

香り。

食感。

そうした素材の特徴を考えながら加工する必要があるからです。

つまり、

「何かを足して味を作る」のではなく、「素材を活かして商品にする」

という考え方です。


■一粒になるまでには「見えない仕事」がある

ドライフルーツを買うとき、私たちが目にするのは完成した商品です。

きれいに包装された袋。

その中に入っている小さな果実。

しかし、その袋の中には、

見えない工程があります。

原料を選ぶ。

状態を確認する。

加工する。

乾燥させる。

仕上がりを見る。

包装する。

そして、商品として届ける。

こうした一つ一つの仕事は、完成した商品からは見えません。

だからこそ、価格だけを見ると、

「この量で、どうしてこの値段なの?」

という疑問が生まれます。

でも、その価格の背景には、

商品になるまでの工程と、それに関わる人の仕事

があります。


■「手間をかければ高くていい」わけではない

ここで、一つ大切なことがあります。

「手間をかけた商品なら、いくら高くてもいい」

という話ではありません。

それでは、単なる価格の正当化になってしまいます。

大切なのは、

その手間が、商品にどんな価値を生んでいるのか

です。

例えば、

原料を丁寧に選ぶ。

素材の特徴を活かす。

適切な状態まで乾燥させる。

品質を確認する。

こうした工程が、実際の商品品質につながっているのであれば、

その背景には意味があります。

逆に、

「手間をかけています」

という言葉だけで、具体的な価値が分からなければ、消費者は納得できません。

だからトーチでは、

「手間がかかっているから高い」

ではなく、

「どこに手間がかかり、それが商品のどんな価値につながっているのか」

を伝えることが大切だと考えています。


■一袋を見る目が変わっていく

美紀は、テーブルの上に置かれたドライフルーツを見た。

「最初は、本当に簡単に考えてた」

「何を?」

「果物を乾燥させて袋に入れるだけだって」

健一は笑った。

「そう思うよね」

「でも、考えてみると……」

美紀は指を折りながら数え始めた。

「まず果物があって」

「うん」

「その果物を選んで」

「うん」

「状態を見て」

「そう」

「それから加工して、乾燥させて、仕上がりを確認して……」

「最後に商品にする」

美紀はドライフルーツを一粒つまんだ。

「小さいけど、ここまで来るのに結構いろんなことをしてるんだね」

「そうなんだよ」


「一粒」は、加工の結果である

ドライフルーツは、生の果物そのものではありません。

生の果物を原料として、

選び、加工し、乾燥させ、商品にする。

その結果として、私たちの手元に一粒のドライフルーツが届きます。

だから、その価格を見るときには、

「何グラム入っているか」

だけではなく、

「何を使い、どんな工程を経て、この一粒になったのか」

を見ることも大切です。

もちろん、加工の手間が多ければ必ず良い商品になるわけではありません。

重要なのは、その工程が素材の価値や商品の品質にどうつながっているかです。

トーチが目指しているのも、

「手間をかけたから高い商品」ではなく、「素材を大切にした結果として、その価値が価格に表れている商品」

です。


■「何を足したか」より「何を足さなかったか」

美紀が最後に袋の表示を見た。

「ねえ、次は何の話?」

健一は答えた。

「今度は、もっと面白いところだよ」

「どこ?」

「ドライフルーツには、砂糖やオイルなどを加えて味を作る商品もあるよね」

「うん」

「でも、素材そのものを活かそうとするなら、考え方が変わってくる」

美紀は一粒を口に入れた。

「何を足したかじゃなくて……」

「そう」

健一が続けた。

「何を足さなかったのか。」

美紀は少し驚いた。

「なるほど……」

ドライフルーツの価格を考えるとき、

「何グラム入っているか」

だけを見るのではなく、

「何を原料にして、何をして、そして何を加えずに仕上げたのか」

まで見る。

そこまで分かると、商品の違いが少しずつ見えてきます。


次回予告

第7話

砂糖や添加物で味を作る方法との違い

ドライフルーツには、さまざまな作り方があります。

砂糖を加えて甘さを調整する。

オイルなどを使って仕上げる。

あるいは、素材そのものの味わいを活かす。

では、それぞれにはどんな違いがあるのでしょうか。

そして、

「何を加えたか」だけでなく、「何を加えなかったか」

を見ると、商品の価値はどう変わって見えるのでしょうか。

次回は、素材そのものを活かすドライフルーツという考え方を掘り下げます。


今回のポイント

  • ドライフルーツは「果物を乾燥させるだけ」では商品にならない
  • 原料の選定から、加工、乾燥、仕上がり確認、包装まで工程がある
  • 果物は一つひとつ状態が異なるため、素材を見ることが重要
  • 乾燥も「長く乾燥させればよい」という単純なものではない
  • 「手間をかけたから高い」のではなく、その手間がどんな価値につながるかが重要
  • 素材そのものを活かすなら、原料の品質がより重要になる
  • 商品を見るときは「何を加えたか」だけでなく「何を加えなかったか」も判断材料になる

次回、第7話「砂糖や添加物で味を作る方法との違い」へ続く。


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