連載【一粒の値段――「高い」と言われたドライフルーツの秘密】 第4話
第4話 原料となる果物そのものの価格
「やっぱり、気になるな……」
美紀はスマートフォンの商品ページを見ながら、つぶやいた。
画面に表示されているのは、長野県産のナガノパープルとシャインマスカットを使ったドライフルーツだった。
「何が?」
健一が聞く。
「この前、水分が抜けるからドライフルーツは少なく見えるって話をしたでしょう?」
「うん」
「じゃあ、その次に気になるのは……」
美紀は商品写真を指差した。
「そもそも、このぶどうって、いくらくらいのものなの?」
健一は笑った。
「そこに気づいたんだね」
「だって、乾燥させる前に、まずぶどうが必要なんでしょう?」
「その通り」
「だったら、原料のぶどうが安いのか高いのかで、最初から違ってくるよね?」
「そうなんだよ」
美紀は、もう一度商品写真を見た。
「じゃあ、ドライフルーツの値段って、乾燥させるところから始まってるんじゃないんだ……」
「そう。もっと前から始まっているんだよ」
■ドライフルーツの価格は「加工」から始まらない
ドライフルーツを見るとき、私たちは完成した商品を見ます。
袋に入った小さな果実。
その価格。
内容量。
そして味。
だから、
「これを乾燥させるのに、そんなにお金がかかるの?」
と考えがちです。
しかし、実際には違います。
ドライフルーツを作るには、当然ながら原料となる果物が必要です。
つまり、価格を考えるスタート地点は、
「その果物そのものに、どんな価値があるのか」
というところにあります。
例えば、同じ「ぶどう」という名前でも、すべて同じ価格になるわけではありません。
品種が違えば特徴も違います。
栽培方法が違えば手間も変わります。
産地が違えば、気候や土壌などの条件も違います。
そして、品質によっても価値は変わります。
だから、
「ぶどうだから、どれも同じ」
とは考えられないのです。
■「ぶどう」と「ナガノパープル」は同じではない
美紀は言った。
「でも、ぶどうはぶどうでしょう?」
「そう思うよね」
健一は、スマートフォンに映った商品写真を指差した。
「じゃあ、例えば普通のぶどうと、ナガノパープルを比べてみたら?」
「うん」
「同じぶどうでも、品種が違う」
「そうね」
「味も、香りも、食感も違う」
「確かに」
「だから、原料としての価値も同じとは限らないんだよ」
これは、ドライフルーツを選ぶときにも重要な視点です。
「ぶどう」という大きなくくりだけで見ると、どれも同じように思えてしまいます。
しかし、実際には品種によって、それぞれの特徴があります。
ナガノパープルにはナガノパープルの魅力があります。
シャインマスカットにはシャインマスカットの魅力があります。
その特徴を持った果実を原料として使うからこそ、
完成したドライフルーツにも、その原料を選んだ意味が生まれる
のです。
■なぜ「長野県産」なのか?
「でも、産地ってそんなに大事なの?」
美紀が聞いた。
「もちろん、それだけで商品の価値が決まるわけじゃないよ。でも、果物を選ぶときには大事な判断材料になる」
長野県は、果物の産地として知られています。
昼夜の寒暖差。
日照。
標高。
そして、長い年月をかけて培われてきた果樹栽培の技術。
もちろん、産地名だけで品質を保証できるわけではありません。
同じ長野県産でも、生産者や栽培条件によって違いがあります。
だからこそ、
「どこの果物なのか」
だけではなく、
「どんな果物を、どんな背景で作っているのか」
を見ることが重要です。
トーチが長野県産の果実にこだわる理由も、単純に「長野県だから」というだけではありません。
地域で育てられた果実を、その背景も含めて届けたい。
そこに意味があると考えています。
■「高い果物」ではなく「価値のある果物」
ここで、美紀が少し考え込んだ。
「じゃあ、結局……高いぶどうを使っているから、ドライフルーツも高くなるってこと?」
「一つの理由にはなるね」
「じゃあ、値段の高い果物なら、何でもいいの?」
「それは違うよ」
健一は首を横に振った。
ここが大切なところです。
「高い」ことと「価値がある」ことは、同じではありません。
価格が高いから価値がある。
価格が安いから価値がない。
そんな単純な話ではありません。
大切なのは、
「なぜ、その価格になっているのか」
です。
品種に特徴があるのか。
栽培に手間がかかっているのか。
品質にこだわっているのか。
産地としての背景があるのか。
そして、その果物をわざわざドライフルーツにする意味があるのか。
こうしたことを一つずつ考えることで、
「高い」という言葉の意味が変わってきます。
■原料の価値は、完成品になっても消えない
ドライフルーツにすると、果物は小さくなります。
水分も抜けます。
見た目も変わります。
しかし、
原料が何だったのか
という事実は変わりません。
ナガノパープルを乾燥させれば、ナガノパープルを原料としたドライフルーツです。
シャインマスカットを乾燥させれば、シャインマスカットを原料としたドライフルーツです。
もちろん、加工によって生果とは違う食品になります。
それでも、
「どんな果物を使ったのか」
は商品の価値を考えるうえで重要な情報です。
だから、ドライフルーツを選ぶときには、
「ドライフルーツだから何でも同じ」
と考えないことが大切なのです。
■安いドライフルーツが悪いわけではない
ここで、誤解してほしくないことがあります。
安いドライフルーツが悪い、という話ではありません。
価格を抑えることにも、当然価値があります。
毎日気軽に食べたい人にとっては、
「手頃な価格」
そのものが重要だからです。
大切なのは、
自分が何を重視して商品を選ぶか
です。
価格を最優先するのか。
産地を重視するのか。
品種を重視するのか。
加工方法を重視するのか。
無添加にこだわるのか。
あるいは、それらを総合的に判断するのか。
「高いから良い」
ではありません。
「安いからお得」
でもありません。
価格と価値の中身を見る。
それが、食品を選ぶときの基本なのです。
■トーチがナガノパープルとシャインマスカットを選ぶ理由
美紀は商品ページをスクロールした。
「じゃあ、トーチはどうしてこの二つを選んだの?」
「そこが一番大事だね」
トーチがナガノパープルとシャインマスカットを選んだのは、
単純に「高級だから」という理由ではありません。
どちらも、生の果実として魅力のある品種です。
そして、その特徴を持つ果実を、
「ドライフルーツという別の形でも楽しんでもらいたい」
という考えがあります。
生で食べる果物には、生で食べる良さがあります。
一方、乾燥させることで、
生とは違った食感や味わいを楽しむことができます。
つまり、
「良い果物を、そのまま売る」のではなく、「その果物を別の形で届ける」
という発想です。
そのためには、まず原料となる果物そのものを大切にしなければなりません。
■美紀が「値段」の見方を変えた
「なんだか、少し分かってきた」
美紀が言った。
「何が?」
「前は、ドライフルーツの袋を見て、『この量でこの値段?』って思ってた」
「うん」
「でも今は、その袋の中身だけを見るんじゃなくて……」
美紀は指を折りながら続けた。
「その前に果物があって」
「うん」
「その果物にも品種があって」
「そう」
「産地があって、育てる人がいる」
「その通り」
「そこから乾燥させるんだよね」
健一はうなずいた。
「だから、一粒の値段だけを見ても分からないんだよ」
美紀は笑った。
「なるほど」
そして、商品ページの価格をもう一度見た。
以前と同じ数字だった。
けれど、美紀には少し違って見えていた。
価格が変わったわけではない。
価格を見るための知識が増えたのだ。
「高い」の前に、原料を見る
ドライフルーツの価格を理解するためには、
まず完成した商品を見るだけでは不十分です。
その商品になる前に、
どんな果物が使われているのか。
ここを見る必要があります。
そして、
- どの品種なのか
- どこの産地なのか
- どんな特徴を持つ果物なのか
- なぜ、その果物を原料に選んだのか
を知ることで、
「この価格には、どんな価値が含まれているのか」
が少しずつ見えてきます。
トーチが伝えたいのは、
「高いから買ってください」
ということではありません。
むしろ逆です。
「なぜ、この価格なのかを知ったうえで、納得して選んでください」
ということです。
それが、品質を重視する人にとって、本当のお買い物になると考えています。
次回予告
第5話
旬の果実を加工するということ
「一年中、同じように作ればいいんじゃない?」
そう思うかもしれません。
しかし、果物には旬があります。
そして、旬のある果実をドライフルーツにするには、
「いつでも作れる商品」とは違った難しさがあります。
なぜ旬が大切なのか。
なぜ、果物を加工するタイミングが重要なのか。
次回は、「旬の果実を加工する」ということの意味を考えます。
今回のポイント
- ドライフルーツの価格は、加工費だけで決まるものではない
- まず原料となる果物そのものに価値がある
- 同じ「ぶどう」でも、品種によって特徴や価値は異なる
- 産地は重要な判断材料だが、産地名だけで品質が決まるわけではない
- 「高い=良い」「安い=悪い」という単純な話ではない
- 大切なのは「なぜ、その価格なのか」を理解すること
- トーチは価格だけではなく、原料・産地・品種・加工まで含めて価値を伝えたい
次回、第5話「旬の果実を加工するということ」へ続く。

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