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エッセイ

連載【一房の葡萄を選ぶ理由――信州の果実がドライフルーツになるまで】 第9話

第9話 長野の果物を全国へ届けるということ

「この葡萄が、ここから全国へ行くんですね」

美紀は、箱に詰められたナガノパープルを見ながら言った。

果樹園で見たときには、まだ枝につながっていた葡萄。

それが収穫され、選別され、加工され、今は一つの商品になろうとしている。

「そうだね」

健一は、一房の葡萄を見つめた。

「でも、考えてみると不思議だよね」

「何がですか?」

「この葡萄は、もともと長野の人たちが育ててきたものなんだ。それが、今では長野から遠く離れた場所の人にも食べてもらえる」

美紀は、少し考えた。

「長野で食べるだけではなく、長野の外へ届ける」

「そう。それが今日の話だよ」


■ 産地には「距離」という壁がある

農産物には、どうしても一つの問題があります。

それは、

「生鮮品であること」

です。

葡萄は収穫した瞬間から、時間とともに状態が変化していきます。

だから、生の葡萄を遠くへ届けるには、鮮度や温度、輸送など、さまざまなことを考えなければなりません。

もちろん、生の葡萄を全国へ届けることはできます。

しかし、すべての人が収穫時期に長野を訪れることができるわけではありません。

「長野の葡萄を食べてみたい」

そう思っても、住んでいる場所によっては、簡単には果樹園まで行けない。

そこで、

「別の形にして届ける」

という発想が生まれます。

その一つが、ドライフルーツです。


■ 乾燥すると、葡萄の旅が長くなる

生の葡萄は、収穫の時期に楽しむ果物です。

一方、ドライフルーツは、水分を減らすことで保存性を高めた食品です。

もちろん、保存期間や品質は商品ごとの製法・包装・保存条件などによって異なります。

しかし、生の果実とは違った形にすることで、

「収穫された果実を、別のタイミングで楽しんでもらう」

ことができます。

「つまり、ドライフルーツにすることで、葡萄が長野から旅に出られるんですね」

「そういう考え方もできるね」

長野の果樹園。

そこから加工場へ。

そして商品になり、物流を通って、お客様のもとへ。

一房の葡萄が、少しずつ姿を変えながら旅をしていきます。


■ でも、ただ乾燥させればいいわけではない

「じゃあ、葡萄を乾燥させれば、それでドライフルーツになるんですか?」

「形としてはそう。でも、商品として考えるなら、それだけじゃない」

健一は答えた。

どんな葡萄を使うのか。

どんな状態の果実を選ぶのか。

どう乾燥させるのか。

そして、

何を加えるのか。

あるいは、

何を加えないのか。

そこまで考える必要があります。

トーチが大切にしているのは、

「葡萄そのものを主役にする」

という考え方です。

だから、加工の段階でも、その考え方を変えません。


■ 砂糖を加えないという選択

加工場では、選別された葡萄が並んでいた。

美紀は、作業の様子を見ながら尋ねた。

「ここで砂糖を加えるんですよね?」

「加えないよ」

「え?」

美紀は驚いた。

「砂糖は使わない」

ナガノパープルも、

シャインマスカットも、

砂糖を添加せずに加工します。

理由はシンプルです。

葡萄には、もともと甘さがあります。

だから、その甘さを活かしたい。

砂糖を加えて、別の甘さをつくるのではありません。

葡萄が持っている甘さを、そのまま商品の魅力にする。

それが、トーチの考え方です。


■ 「甘くする」のではなく「甘さを活かす」

美紀はドライフルーツを一粒食べてみた。

「ちゃんと甘いですね」

「そうだね」

「でも、砂糖は入っていない」

「葡萄そのものの甘さがあるからね」

ここが重要な違いです。

砂糖を加えれば、甘さを簡単に調整できます。

しかし、私たちはそれをしません。

なぜなら、

ナガノパープルにはナガノパープルの甘さがある。

シャインマスカットにはシャインマスカットの甘さがある。

その違いを大切にしたいからです。

甘さを一つの味に統一してしまうのではなく、

品種それぞれの個性を味わってもらう。

そのために、砂糖を加えないのです。


■ オイルも加えない

「じゃあ、オイルはどうですか?」

「オイルも使わない」

トーチのドライフルーツでは、

オイルなどの添加物も使用しません。

これも、単に「無添加だから」という理由だけではありません。

目的は、

果実そのものを主役にすること。

オイルなどを加えて別の風味や食感をつくるのではなく、

ナガノパープルならナガノパープル。

シャインマスカットならシャインマスカット。

その果実の個性をできるだけ活かしたい。

だから、

砂糖を加えない。

オイルも加えない。

余計なものを足さず、葡萄そのものと向き合う。

それが、トーチの加工に対する考え方です。


■ 「足さない」は、手抜きではない

美紀は、加工場を見ながら言った。

「何も入れないなら、加工は簡単なんですか?」

健一は首を横に振った。

「むしろ逆かもしれない」

砂糖を加えれば、甘さを調整できます。

オイルを加えれば、食感や風味を調整する方法もあります。

しかし、それらを使わないのであれば、

原料そのものの状態が重要になります。

どんな葡萄を選ぶか。

どんな状態の葡萄を加工するか。

どのように乾燥させるか。

その判断が、より重要になります。

つまり、

「足さない」ということは、原料をごまかせないということでもあります。

だからこそ、原料選びが大切なのです。


■ 長野の果物だからこそ、長野の個性を残したい

「ここまで聞くと、産地と加工がつながっていますね」

「そうなんだ」

長野の葡萄を選ぶ。

その葡萄の個性を大切にする。

砂糖を加えない。

オイルなどを加えない。

そして、ドライフルーツにする。

一見すると別々の話に見えます。

しかし、実際には一本につながっています。

長野で育った果実を選ぶ。

↓

果実そのものの個性を活かす。

↓

余計なものを加えない。

↓

別の形で全国へ届ける。

これが、トーチの考える商品づくりです。


■ 長野へ来られない人にも届けたい

美紀は、長野の山々を見ながら言った。

「長野って、遠く感じる人もいますよね」

「そうだね」

「旅行で来られる人ばかりじゃない」

「だからこそ、届ける意味があるんだと思う」

長野には、たくさんの魅力があります。

山があります。

温泉があります。

伝統があります。

食文化があります。

そして、果物があります。

けれど、すべての人が長野を訪れることはできません。

だから、

「長野へ来てもらう」のではなく、「長野から届ける」

という方法があります。

それが、私たちが食品を扱う意味の一つです。


■ 一粒から、産地を想像してもらう

ドライフルーツを食べた人が、

「これはどこの葡萄なんだろう?」

と思う。

パッケージを見る。

「長野県産なんだ」

と知る。

そこから、

「長野って葡萄が有名なんだ」

「ナガノパープルってどんな葡萄なんだろう?」

「シャインマスカットも長野で育てられているんだ」

と興味を持つ。

そして、いつか長野を訪れてみたいと思うかもしれない。

そんな小さなきっかけをつくることもできます。

食品には、

産地と消費者をつなぐ力

があります。


■ 「安いから買う」だけではない選択

美紀は商品を手に取った。

「でも、国産のドライフルーツって、安いものばかりではないですよね」

「そうだね」

「それでも選んでもらうには、理由が必要ですね」

「その通り」

価格だけで比較すれば、もっと安い商品はあるかもしれません。

しかし、食品を選ぶ基準は価格だけではありません。

原料は何か。

どこで育ったのか。

どんな品種なのか。

どんな加工をしているのか。

何を加えているのか。

そして、

なぜ、その商品をつくったのか。

そうした背景まで含めて、自分が納得できるものを選ぶ。

それが、食にこだわる人の選択ではないでしょうか。


■ 「国産だから」だけで終わらせない

トーチが伝えたいのも、

「国産だから買ってください」

だけではありません。

それでは、商品の本当の価値が伝わりません。

私たちが伝えたいのは、

長野で育った、この葡萄だから選んだ。

ということ。

そして、

その葡萄を活かすために、砂糖を加えない。

オイルなどの添加物も使用しない。

ということ。

さらに、

生産者が育てた果実を、別の形で全国のお客様へ届ける。

ということです。

そこまで知ってもらって、

「それなら、この商品を選びたい」

と思ってもらえること。

それが、トーチの目指す販売です。


■ 一房の葡萄に、たくさんの人が関わる

一房の葡萄が、お客様の手元に届くまでには、多くの人が関わります。

葡萄を育てる生産者。

収穫する人。

選別する人。

加工する人。

包装する人。

運ぶ人。

そして、販売する人。

その一人ひとりの仕事がつながって、最後にお客様の手元へ届きます。

だから、

商品は「モノ」だけではない。

その背景に、多くの人の仕事があります。

そして、その中心にあるのが、

最初の一粒の葡萄です。

だからこそ、原料を大切にしたい。

その思いがあります。


■ ドライフルーツは「長野の小さな使者」

「なんだか、ドライフルーツが長野の使者みたいに思えてきました」

美紀が笑った。

「いい表現だね」

長野の果樹園で育った葡萄。

それがドライフルーツになり、

箱に詰められ、

車に乗り、

遠くの街へ運ばれていく。

そして、お客様の食卓へ。

一粒食べれば、

「これは長野の葡萄なんだ」

と知ることができる。

その一粒が、産地を知る入口になるかもしれない。

生産者を知る入口になるかもしれない。

長野を訪れてみたいと思うきっかけになるかもしれない。

そんな可能性があります。


■ 「届ける」ことも、地域を応援する一つの方法

地域の商品を応援する方法は、現地へ行くことだけではありません。

その土地の商品を買う。

知人に紹介する。

SNSで発信する。

そして、

その商品が生まれた背景を知る。

それも、地域とのつながり方の一つです。

もちろん、一つの商品を買っただけで地域全体が変わるわけではありません。

しかし、小さな選択が積み重なれば、

「この地域の商品を選びたい」

という消費につながっていきます。

だから、トーチは、

「売る」だけではなく、「知ってもらう」

ことも大切にしています。


■ 加工するからこそ、産地を伝えられる

美紀がドライフルーツを見つめた。

「生の葡萄なら、見た目からも産地を想像できますけど、ドライフルーツは小さくなっています」

「そうだね」

「だから、商品を通して産地を伝える必要がある」

「その通り」

だからこそ、商品には、

どこの葡萄なのか。

何という品種なのか。

どんな考え方で加工したのか。

そうした情報をきちんと伝える必要があります。

そして、その加工方法も、

砂糖を加えない。

オイルなどの添加物を使用しない。

というシンプルなもの。

果実そのものの魅力を、できるだけ分かりやすく伝える。

それが、商品そのものの説明にもなります。


■ 「何を加えたか」ではなく「何を大切にしたか」

食品を見るとき、

「何が入っているのか」

を見ることは大切です。

しかし、もう一つ、

「何を大切にしてつくられたのか」

を見ることも大切ではないでしょうか。

トーチが大切にしたいのは、

長野の果実。

品種の個性。

生産者の仕事。

そして、果実そのものの味わいです。

だから、

砂糖を加えない。

オイルを加えない。

余計な味をつくらない。

素材の個性を活かす。

そして、

その果実を全国のお客様へ届ける。

これが、今回の商品に込めた考え方です。


■ 長野から、全国へ

夕方になり、果樹園には静かな時間が流れていた。

美紀は、最後にもう一度、葡萄棚を見上げた。

「この葡萄が、東京にも大阪にも、北海道にも、九州にも行くんですね」

「そうだね」

「そして、そこで誰かが一粒食べる」

「うん」

「その人は、もしかしたら長野に行ったことがないかもしれない」

「それでも、長野の果物を知ることができる」

美紀は、ドライフルーツを手に取った。

「なんだか、小さいけれど大きな役割ですね」

健一はうなずいた。

「一粒は小さい。でも、その一粒には、産地からここまでの物語が詰まっている」


■ そして、トーチの役割へ

ここまで、このシリーズでは一つずつ考えてきました。

なぜ葡萄なのか。

なぜナガノパープルなのか。

なぜシャインマスカットなのか。

なぜドライフルーツにするのか。

なぜ皮ごと味わうのか。

加工すると果実の個性はどう変わるのか。

そして、

なぜ産地を大切にするのか。

今回、その答えが一つにつながりました。

長野で育った果実を、長野だけで終わらせない。

その魅力を、別の形にして全国へ届ける。

そのとき、

砂糖で甘さを足さない。

オイルなどの添加物で風味をつくらない。

果実そのものを主役にする。

そうすることで、

生産者が育てた果実の価値を、できるだけそのまま次のお客様へつなぐ。

それが、トーチの役割です。


■ 一粒の先に、次の出会いがある

商品を手に取った人が、

「おいしい」

と思ってくれる。

それだけでも、もちろん嬉しい。

でも、それだけで終わらせたくありません。

「この葡萄はどこで育ったんだろう?」

「ナガノパープルって、どんな葡萄なんだろう?」

「長野へ行ってみたいな」

「他の長野の果物も食べてみたい」

そんな次の興味につながれば、

一粒のドライフルーツが、

産地とお客様をつなぐ小さな入口

になります。

それが、私たちが全国へ届けたい理由です。


■ 次回、最後の問いへ

物語は、いよいよ最後の問いにたどり着きます。

ここまで、

「なぜ葡萄なのか」

を考えてきました。

そして、

「なぜナガノパープルなのか」

「なぜシャインマスカットなのか」

も考えてきました。

産地についても、

加工についても、

砂糖やオイルを加えない理由についても、

一つずつ見てきました。

では最後に、

「トーチは、なぜこの二つの葡萄を選んだのか?」

その答えは、

単に「有名だから」でも、

「甘いから」でもありません。

品種の個性。

長野という産地。

生産者の仕事。

ドライフルーツとしての可能性。

そして、

砂糖やオイルなどを加えず、果実そのものを活かして届けたいという考え方。

そのすべてが重なったからこそ、この二つの葡萄を選びました。

次回、第10話。

「トーチがこの二つのブドウを選んだ理由」

で、このシリーズを締めくくります。

一房の葡萄を選ぶところから始まった物語。

その最後に、私たちがたどり着いた答えをお伝えします。


今回のポイント

  • 生の葡萄を全国へ届けるだけでなく、ドライフルーツという形で産地の果実を届ける方法がある
  • ドライフルーツは、長野の果実と全国のお客様をつなぐ一つの方法
  • 加工では、原料となる葡萄の個性を活かすことが重要
  • 砂糖を添加せず、葡萄本来の甘さを活かす
  • オイルなどの添加物も使用せず、余計な風味や食感を加えない
  • 「足さない」ことは手抜きではなく、原料そのものの品質と個性が問われる加工方法
  • 長野の果実を選ぶことは、土地だけでなく、生産者の仕事や地域の農業にも目を向けること
  • 「長野だから良い」のではなく、「長野で育った、この葡萄だから選びたい」
  • 一粒のドライフルーツを通して、産地と消費者をつなぐことができる
  • 産地 → 生産者 → 果実 → 加工 → 商品 → お客様という流れを大切にする

第10話「トーチがこの二つのブドウを選んだ理由」へ続く。


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