連載【一粒の値段――「高い」と言われたドライフルーツの秘密】第1話
第1話 「このドライフルーツ、高くない?」
「……ちょっと高くない?」
美紀は、スマートフォンに表示された商品ページを見ながら、思わずつぶやいた。
画面に映っているのは、長野県産のぶどうを使ったドライフルーツ。
ナガノパープル。
シャインマスカット。
どちらも、生のぶどうとしてもよく知られている品種だ。
美紀は果物が好きだった。
スーパーに行けば、旬の果物をよく買う。
特に秋になると、長野県産のぶどうには目がない。
それだけに、ドライフルーツの価格を見たとき、少し迷った。
「この量で、この値段か……」
隣で商品ページを見ていた健一が言った。
「生のぶどうと比べてる?」
「うん。だって、同じぶどうでしょ?」
「そうだね」
「だったら、生のぶどうを買ったほうがたくさん食べられるんじゃない?」
健一は少し考えてから答えた。
「たぶん、そこが一番分かりにくいところなんじゃないかな」
「何が?」
「ドライフルーツを、生の果物を小さくしたものだと思ってること」
美紀は画面から顔を上げた。
「違うの?」
「見た目は小さくなるけど……。実際には、単純に小さくしているわけじゃないんだよ」
「じゃあ、何をしてるの?」
健一は笑った。
「それを、これから考えてみよう」
■「高い」と感じるのは、当たり前なのかもしれない
ドライフルーツを購入するとき、多くの人が一度は感じることがあります。
「少量なのに、なぜこんなに高いの?」
これは、決しておかしな感覚ではありません。
私たちは普段、果物を「重さ」や「一房」「一パック」といった単位で購入します。
例えば、生のぶどうなら、一房を見れば、
「これくらいの量で、この価格」
と判断できます。
ところがドライフルーツになると、見た目の量が大きく変わります。
水分が抜けることで、果実は小さくなります。
そのため、生の果物と並べてみると、
「こんなに少ないのに、こんな値段?」
と感じやすくなるのです。
しかし、ここで一つ考えてみる必要があります。
ドライフルーツは、生の果物と同じものなのでしょうか?
■「小さくなった」のではなく「水分が抜けた」
ドライフルーツを理解するうえで、最初に知っておきたいのが「水分」です。
果物には、多くの水分が含まれています。
生のぶどうを手に取ると、みずみずしく、ずっしりとした重さがあります。
ところが、乾燥させると、その水分の多くが失われます。
すると当然、重量も体積も小さくなります。
だからといって、
「ぶどうの価値まで小さくなった」
ということではありません。
ここが大切なポイントです。
ドライフルーツは、単純に果物を切って小さくしたものではありません。
果物から水分を取り除き、保存性や食べ方を変える加工食品です。
つまり、
「生のぶどう」
と
「ぶどうを乾燥させたドライフルーツ」
は、同じ果実を原料としていても、商品としての姿は大きく違います。
■では、なぜ「価格」が高く見えるのか?
理由の一つは、価格の比較方法にあります。
例えば、生のぶどう100gとドライフルーツ100g。
同じ100gだから、同じように比較できる。
そう考えてしまいがちです。
しかし、乾燥させた100gのドライフルーツを作るためには、もともと100gを超える生の果物が必要になります。
なぜなら、乾燥によって水分が抜けるからです。
つまり、私たちが手にしているドライフルーツの重量だけを見ても、
「その商品を作るために、どれだけの果物が使われたのか」
は分かりません。
さらに必要なのは、果物だけではありません。
原料を選ぶこと。
旬の時期に仕入れること。
加工すること。
乾燥させること。
品質を確認すること。
包装すること。
そして商品として届けること。
一袋のドライフルーツになるまでには、いくつもの工程があります。
だからこそ、
「生の果物より高いから、高すぎる」
と単純に判断することはできません。
■「安いドライフルーツ」と何が違うのか?
ここで、もう一つ疑問が出てきます。
「でも、もっと安いドライフルーツもあるよね?」
その通りです。
スーパーやインターネットを見れば、さまざまな価格のドライフルーツがあります。
では、なぜ価格に差が生まれるのでしょうか。
原料となる果物が違うのか。
産地が違うのか。
加工方法が違うのか。
使われている材料が違うのか。
それとも、製造にかかる手間が違うのか。
実は、ドライフルーツの価格を見るときには、
「一袋いくらか」だけではなく、「何を原料にして、どのように商品にしたのか」
を見る必要があります。
そして、ここからが今回のシリーズの本題です。
■トーチが「安さ」だけで選ばない理由
トーチがドライフルーツを扱うとき、大切にしたいと考えているのは、
「安い商品を売ること」ではありません。
もちろん、価格は重要です。
誰でも、できるだけ安く良いものを買いたいと思うでしょう。
しかし、価格だけを見てしまうと、その商品が持っている背景が見えなくなります。
どこで育った果物なのか。
どんな品種なのか。
なぜ、その果物を原料に選んだのか。
どのように加工されたのか。
そして、何を加えて、何を加えなかったのか。
トーチでは、そうした部分まで含めて、
「この価格なら納得できる」
と思っていただける商品を届けたいと考えています。
今回扱っているナガノパープルやシャインマスカットも、ただ「高級なぶどうだから」という理由だけで選んだわけではありません。
信州という産地。
品種そのものの特徴。
そして、生の果実とは違う形で、その魅力を味わってもらうこと。
そこに意味があります。
■「高い」から始めることに意味がある
美紀は、もう一度スマートフォンの商品ページを見た。
「つまり……」
「うん」
「ドライフルーツの値段を見るときに、生のぶどうとそのまま比べちゃいけないってこと?」
「そういうこと」
「じゃあ、実際には一粒の中に、もっとたくさんの果物が使われている可能性がある?」
「乾燥によって水分が抜けるからね」
美紀は少し考えた。
「じゃあ、次に気になるのは……」
「何?」
「その水分って、どれくらい抜けるの?」
健一は笑った。
「そこが次の話だね」
次回予告
第2話
一粒になるまでに失われるもの
生のぶどうがドライフルーツになるとき、一体どれくらいの水分が失われるのでしょうか。
「なぜ少量に見えるのか?」
その理由を知れば、ドライフルーツの価格の見え方も変わってきます。
次回は、**「一粒になるまでに失われるもの」**について考えます。
今回のポイント
- ドライフルーツは、生の果物を単純に小さくしたものではない
- 乾燥によって果物の水分が抜けるため、重量や見た目の量が大きく変わる
- 生果とドライフルーツは、単純な価格比較だけでは価値を判断できない
- 価格には、原料・加工・包装など、商品になるまでの工程が含まれている
- 「高い理由」を知ることが、商品の価値を理解する第一歩になる
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