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エッセイ

連載【一粒の値段――「高い」と言われたドライフルーツの秘密】 第9話

第9話 「安い」と「お買い得」は同じではない

「ねえ健一さん。結局、安いドライフルーツを買うのが一番お得なんじゃない?」

美紀がスマートフォンを見ながら言った。

画面には、いくつものドライフルーツが並んでいる。

「こっちは大容量で安いし、こっちは少ないのに高い。だったら、安いほうを選んだほうがいいよね?」

健一は少し笑った。

「美紀さん。“安い”と“お買い得”は、実は同じじゃないんだよ」

「えっ?」

「安いというのは、価格の話。でも、お買い得というのは、その価格に対してどんな価値を受け取れるか、という話だから」


■「安い」は、とても分かりやすい

商品の値段は、誰にとっても分かりやすい情報です。

1,000円の商品と3,000円の商品なら、

「1,000円のほうが安い」

これは誰が見ても同じです。

だから私たちは、つい価格だけを比べてしまいます。

「こっちのほうが安い」

「こっちは内容量が多い」

「同じドライフルーツなら、安いほうでいい」

こう考えるのは、ごく自然なことです。

しかし、

安いことと、お買い得であることは別の問題です。


■「お買い得」は、価格だけでは決まらない

例えば、1,000円の商品と3,000円の商品があったとします。

1,000円の商品は確かに安い。

でも、その商品が自分の求めているものと違っていたらどうでしょう。

反対に、3,000円の商品でも、

「この素材を食べてみたかった」

「この産地のものを選びたい」

「この作り方に納得している」

と思えるなら、その3,000円は、その人にとって意味のある価格かもしれません。

つまり、

「お買い得」とは、単純に値段が低いことではない。

自分が支払った金額に対して、

「これなら納得できる」

と思えるかどうか。

そこが重要なのです。


■ドライフルーツは「重量」だけでは比べられない

ドライフルーツの場合、もう一つ注意したいことがあります。

それが、

「内容量だけを見て比較しない」

ということです。

生の果物には、多くの水分が含まれています。

それを乾燥させると、水分が抜けて重量が大きく変わります。

だから、生の果物100gと、乾燥させた果物100gは、単純に同じものとして比較できません。

さらに、

どんな果物を使っているのか。

どの品種なのか。

どこの産地なのか。

どんな原料を選んでいるのか。

どんな加工をしているのか。

何を加えているのか。

何を加えていないのか。

こうした違いもあります。

だから、

「50gで2,000円だから高い」

という見方だけでは、その商品の価格の背景までは分かりません。


■「安さ」には理由がある

ここで、もう一つ大切なことがあります。

安い商品には、安くできる理由があります。

大量に原料を仕入れる。

効率よく加工する。

大規模な設備を使う。

流通を効率化する。

販売量を増やす。

こうした仕組みによって、商品価格を抑えられる場合があります。

これは決して悪いことではありません。

むしろ、多くの人が食品を購入できる価格にするためには、とても重要な仕組みです。

ですから、

「安い商品=品質が悪い」

と決めつける必要もありません。

重要なのは、

「なぜこの価格で販売できるのか?」

を考えてみることです。


■「高い」にも理由がある

反対に、高い商品にも理由があります。

原料そのものの価格。

希少性。

品種や産地。

少量生産。

加工にかかる手間。

包装や品質管理。

販売量の違い。

さまざまな要素が積み重なって価格になります。

もちろん、

「高い=必ず良い」

というわけでもありません。

高いからという理由だけで買う必要はありません。

だからこそ大切なのは、

「高いか安いか」ではなく、「その価格に納得できるか」

なのです。


■「1円でも安く」から「納得できるものを」へ

美紀はスマートフォンの画面を見ながら考えていた。

「私、今まで“少しでも安いものを買う”ことがお得だと思っていたかも」

「そういう考え方も、もちろんあるよ」

「でも……」

美紀はドライフルーツの袋を手に取った。

「毎日たくさん食べたいなら大容量がいいし、少しずつでも素材にこだわりたいなら、別の商品を選ぶこともある」

「その通り」

「つまり、自分が何を大切にするかで、“お得”の意味が変わるんだね」


■「価格」ではなく「自分にとっての価値」

食品を買うとき、私たちは知らず知らずのうちに、

「安いほうが得」

という基準で考えてしまいます。

しかし、本当は人によって価値の感じ方は違います。

量を重視する人。

価格を重視する人。

産地を重視する人。

原材料を重視する人。

作り手の考え方を重視する人。

国産であることを大切にする人。

添加物の使用について確認する人。

どれが正解ということではありません。

大切なのは、

「自分は何を大切にして、この商品を選ぶのか」

を自分自身で分かっていることです。


■一袋の値段から、その向こう側を見る

美紀は、ドライフルーツを一粒手に取った。

「この前まで、これを見て“高いな”って思っていたんだよね」

「うん」

「でも今は、ちょっと違って見える」

「どう違う?」

「この一粒になるまでに、果物があって、旬があって、乾燥があって、加工があって……」

美紀は指を折りながら数えていく。

「いろんなものが積み重なって、この価格になっているんだなって」

健一は頷いた。

「それが分かると、価格だけでは判断しなくなるよね」


■「安いものを選ばない」という話ではない

ここまで読んで、

「じゃあ、高い商品を買ったほうがいいの?」

と思うかもしれません。

そういう話ではありません。

安い商品には、安い商品の良さがあります。

手軽に購入できる。

たくさん楽しめる。

毎日の生活に取り入れやすい。

それは大切な価値です。

一方で、少量でも、

「素材にこだわりたい」

「産地が分かるものを選びたい」

「作り手の考え方に共感できるものを選びたい」

という人もいます。

その人にとっては、価格が高くても、

「これを選んでよかった」

と思えることがあります。


■お買い得とは「自分が納得できること」

結局、

「安い」と「お買い得」は同じではありません。

安いとは、

価格が低いこと。

お買い得とは、

支払った価格に対して、自分が納得できる価値を感じられること。

そう考えると、商品の選び方も変わってきます。

価格を見る。

内容量を見る。

原材料を見る。

産地を見る。

製法を見る。

そして、

「自分は何を大切にしたいのか」

を考える。

それが、価格に振り回されずに商品を選ぶための一つの方法なのかもしれません。


■トーチが伝えたい「選ぶ」ということ

「だからトーチでは、ただ“高い商品だからおすすめです”とは言いたくないんだ」

健一が言った。

「じゃあ、どうするの?」

「なぜこの商品を選んだのか。それを伝えるんだよ」

どんな素材なのか。

どこから来たのか。

なぜこの商品を扱うのか。

どんなところに価値があるのか。

そして、

なぜ、この価格になるのか。

それを知ってもらったうえで、

「自分にとって価値がある」

と思った人に選んでもらう。

それがトーチの考える「セレクト」です。


■一粒の値段を、もう一度考える

最初は、

「このドライフルーツ、高くない?」

という一言から始まりました。

そこから、

水分が抜けること。

原料となる果物の価値。

旬の果実を加工すること。

一粒になるまでの手間。

何を加えて、何を加えないのか。

大量生産とこだわりの商品、それぞれの価値。

そして、

「安い」と「お買い得」は同じではないこと。

少しずつ見てきました。

一粒のドライフルーツは、小さな食品です。

けれど、その一粒には、

素材・産地・季節・加工・人の手・そして作り手の考え方。

いろいろなものが重なっています。

だから、価格だけを見て、

「高い」

と決めてしまうのは、少し早いのかもしれません。

その値段の向こう側を見てみる。

すると、

「高い」から「なるほど」に変わる。

そんなこともあるのです。


今回のポイント

  • 「安い」と「お買い得」は同じではない
  • 安い商品にも、安くできる仕組みや理由がある
  • 高い商品にも、原料・加工・産地などさまざまな価格要因がある
  • ドライフルーツは内容量だけで単純比較できない
  • 「高い=良い」「安い=悪い」ではない
  • 自分が何に価値を感じるかで、「お買い得」の意味は変わる
  • 商品の価格の向こう側を見ることで、納得できる選択ができる

商品の値段を見るとき、

「いくらなのか?」

だけではなく、

「その価格で、私は何を受け取るのか?」

と考えてみる。

それが、自分にとって本当に「お買い得」なものを選ぶための、一つの視点です。

そして次回はいよいよ最終話。

ここまで見てきた「一粒の値段」を踏まえて、

なぜトーチは、価格だけで商品を選ばないのか。

その理由をお話しします。

次回、第10話「トーチが価格だけで商品を選ばない理由」へ続く。


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