連載【一粒の値段――「高い」と言われたドライフルーツの秘密】 第8話
第8話 大量生産品とこだわりの商品は何が違う?
「健一さん、同じドライフルーツなのに、値段がずいぶん違うものがあるね」
美紀は、スマートフォンに表示されたドライフルーツの商品を見ながら言った。
「こっちは大容量で安いのに、こっちは少ないのに高い……」
「そうだね」
「どうしてこんなに違うんだろう?」
健一は少し考えてから答えた。
「その違いを知るには、“大量生産かどうか”だけじゃなくて、どんな商品を目指して作っているのかを見ると分かりやすいよ」
「商品を目指している?」
「うん。同じドライフルーツでも、作り方や原料、販売方法、求めている価値が違うんだ」
■大量生産だから悪い、ではない
まず、最初に知っておきたいことがあります。
それは、
「大量生産=悪い商品」ではない
ということです。
多くの人が買いやすい価格で、安定して商品を届ける。
これは食品産業にとって、とても大切な役割です。
一定の品質を保ちながら、たくさんの商品を効率よく作る。
流通を広げ、多くの人に届ける。
こうした仕組みがあるからこそ、私たちは身近な食品を手頃な価格で購入できます。
ですから、
「大量生産だから価値が低い」
と考えるのは正しくありません。
大切なのは、
「何を優先して作られた商品なのか」
ということです。
■「たくさん作る」には、仕組みが必要
大量生産の商品では、多くの商品を安定して作るための仕組みが重要になります。
原料を安定して確保する。
できるだけ品質を均一にする。
効率よく加工する。
包装し、全国へ流通させる。
そして、多くの人が手に取りやすい価格にする。
これらを実現するためには、設備や製造工程、物流など、さまざまな工夫が必要です。
つまり、
「安い=何も工夫していない」
ということでもありません。
むしろ、大量に安定して作るための技術や仕組みがあるからこそ、価格を抑えられる場合があります。
■では、「こだわりの商品」は何が違うのか?
一方で、世の中には大量には作らず、素材や産地、製法などに重点を置いた商品もあります。
例えば、
「この地域で採れた果物を使いたい」
「この品種の味を生かしたい」
「旬の果物を原料にしたい」
「できるだけ素材そのものを楽しんでもらいたい」
という考え方です。
こうした商品では、効率だけを追い求めるのではなく、
「どんな素材を使うか」
「どんな状態の素材を使うか」
「どう仕上げるか」
といった部分に重点が置かれることがあります。
その結果、大量生産品とは異なる価格になることがあります。
■「少ないから高い」のではない
美紀は、少し驚いた顔をした。
「じゃあ、高いドライフルーツって、単純に量が少ないから高いわけじゃないんだ」
「そう。そこが大事なんだ」
ドライフルーツは、乾燥によって水分が抜けます。
そのため、生の果物と比べると、完成した商品の重量は大きく変わります。
さらに、原料となる果物そのものの価格もあります。
品種。
産地。
品質。
旬の時期。
加工の方法。
そして包装や流通。
さまざまな要素が一つの商品価格につながっています。
だから、
「この袋は50gしか入っていないのに、どうしてこんなに高いの?」
という疑問が出てきたときには、
「50g」という数字だけを見るのではなく、
その50gになるまでに何があったのか
を見ることが大切なのです。
■同じ「ぶどう」でも、同じではない
例えば、ドライフルーツの原料が「ぶどう」だったとします。
しかし、「ぶどうなら全部同じ」ではありません。
品種によって味も特徴も違います。
産地によっても違います。
栽培条件や収穫時期によっても違います。
そして、その果物をどのような状態で加工するかによっても、仕上がりは変わります。
ナガノパープルやシャインマスカットのような品種を使った商品なら、
「ぶどうを乾燥させたもの」
という一言だけでは、その商品の背景を十分に説明できません。
どんな果物を選んだのか。
なぜ、その果物を選んだのか。
そこにも商品の価値があります。
■「効率」と「素材を生かす」は、別の価値
大量生産の商品には、
「安定して、たくさんの人に届ける」
という価値があります。
一方で、素材に重点を置いた商品には、
「特定の素材の魅力を、できるだけ大切に届ける」
という価値があります。
どちらが上、どちらが下という話ではありません。
例えば、毎日のように気軽に食べたい人なら、手頃な価格の商品が便利でしょう。
一方で、
「せっかく買うなら、産地や品種まで分かるものがいい」
「少量でも、素材に納得できるものを選びたい」
という人もいます。
つまり、
商品の価値は、買う人が何を大切にするかによっても変わる
のです。
■トーチが大切にしたいもの
美紀は、トーチのドライフルーツを手に取った。
「じゃあ、トーチはどっちを目指しているの?」
健一が笑う。
「もちろん、たくさん作ることだけを目指しているわけじゃないよ」
「じゃあ?」
「素材を見て、“これは紹介したい”と思えるものを選ぶことかな」
トーチが大切にしているのは、
ただ「高級な商品」を集めることではありません。
どこの素材なのか。
どんな特徴があるのか。
なぜ、その商品が作られているのか。
そして、
その価格に、納得できる理由があるのか。
そこを見ながら商品を選んでいく。
それが「旅する健康食品セレクトショップ」として、トーチが大切にしたい考え方です。
■価格ではなく「価値の構造」を見る
美紀はスマートフォンの画面を閉じた。
「前は、“安いほうがお得”って思っていたけど……」
「今は?」
「安いか高いかだけじゃなくて、“どうしてその値段なのか”を考えてみようと思う」
「それでいいと思うよ」
食品を選ぶとき、
「安いから買う」
「高いから良い」
だけでは、商品の本当の姿は見えてきません。
原料は何か。
どこから来たのか。
どんな工程を経たのか。
何を加えたのか。
何を加えなかったのか。
そして、どんな考え方で商品になったのか。
そこまで見て初めて、
「この価格なら納得できる」
という判断ができるのです。
■一粒の向こう側にあるもの
美紀は、ドライフルーツを一粒つまんだ。
「この一粒を見るだけでも、ずいぶんいろんなことを考えるようになったね」
「そうだね」
「最初は“高いな”と思っただけだったのに」
「そこから、“なぜ高いんだろう?”と考えるようになった」
一粒のドライフルーツ。
そこには、
果物を育てる人。
果物を選ぶ人。
加工する人。
包装する人。
届ける人。
そして、その商品を選ぶ人がいます。
価格とは、そのすべてを単純に足し算した数字ではありません。
けれど、その背景を知ることで、
一粒の値段が、少し違って見えてくる。
それが、今回の話です。
今回のポイント
- 大量生産だから、価値が低いわけではない
- 大量生産には「安定して、たくさん届ける」という価値がある
- こだわりの商品には「素材や産地などを大切にする」という価値がある
- ドライフルーツの価格は、完成品の重量だけでは決まらない
- 品種・産地・原料・加工・包装など、さまざまな要素が価格につながる
- 「安い・高い」ではなく、「なぜその価格なのか」を見ることが大切
「大量生産品」と「こだわりの商品」。
違いを知ることは、どちらが良いかを決めることではありません。
自分が何に価値を感じて、何にお金を払いたいのか。
それを考えるための材料を増やすことなのです。
そして次回は、いよいよ私たちが普段よく使う言葉、
「安い」=「お買い得」なのか?
という問題について考えてみます。
次回、第9話「『安い』と『お買い得』は同じではない」へ続く。

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