第7回:後継者不足と地域食材の未来
食材の旅路は、自然環境だけでなく、人間社会の変化にも大きく影響を受ける。
その中でも、近年最も深刻な影響を与えているのが後継者不足だ。
この問題は単なる「人手不足」ではない。
科学的に見れば、地域の生態系・技術体系・文化体系が連続性を失う現象であり、食材の未来に直接関わる。
後継者不足は“技術の断絶”を引き起こす
農業・漁業・発酵文化は、自然環境と人間の技術が長い時間をかけて共進化してきた。
しかし後継者がいなくなると、この共進化のプロセスが途切れてしまう。
- 技術は“データ”ではなく“身体知”で伝わる
農家や漁師の技術は、
- 土の匂い
- 水の色
- 風の変化
- 発酵の音
といった、数値化できない情報によって支えられている。
これらは、科学的には暗黙知(タシットナレッジ)と呼ばれる。
暗黙知は、
マニュアル化もAI化も難しい。
だからこそ、後継者がいないと技術が“消える”。
2. 技術の断絶は、食材の品質変動を生む
技術が途切れると、
- 味の再現性が下がる
- 品質のばらつきが増える
- 地域固有の味が失われる
食材の旅路は、技術の連続性によって支えられてきた。
その連続性が揺らいでいる。
人口減少は“生態系の管理者”を減らす
里山や農地は、人間が管理することで維持されてきた“半自然生態系”だ。
人口が減ると、この生態系の維持が難しくなる。
- 放置された里山は、生態系が単調化する
草刈りや間伐が行われないと、
- 光環境が変わり
- 植物の多様性が減り
- 微生物の多様性も低下する
生態系が単調化すると、
食材の香りや旨味に影響が出る。
2. 農地の減少は“味の地図”を縮小させる
農地が減ると、
- 土壌微生物の生態系が失われ
- 地域固有の味が消え
- 発酵文化の基盤も弱くなる
食材の旅路は、土地と人間の関係性によって成立している。
その関係性が薄れている。
地域経済の変化は、食材の“価値の定義”を変える
後継者不足の背景には、経済構造の変化もある。
- 効率性の基準が変わった
大量生産・大量流通の時代には、
- 収量
- 労働効率
- コスト
が重視された。
しかし地域食材は、
効率性では測れない価値を持っている。
- 土地固有の微生物
- 代々受け継がれた技術
- 気候と地形の履歴
- 文化的背景
これらは、経済指標では評価しきれない。
2. “価値の再定義”が始まっている
近年、
- 地域食材
- 小規模生産
- 伝統技術
- 発酵文化
が再評価されている。
これは、食材の価値が
「効率」から「物語と環境」へ
シフトしている兆候だ。
後継者不足は危機ではなく、“転換点”である
後継者不足は確かに大きな課題だ。
しかし同時に、食材の価値を再定義するチャンスでもある。
- 技術の可視化
- 生産者のストーリーの発信
- 地域食材のブランド化
- 小規模生産の価値の再評価
これらは、食材の旅路を未来につなぐための新しいアプローチだ。
食材の旅路は、
自然環境と人間社会の変化の中で、
形を変えながら続いていく。
次回予告:伝統と革新 ― 古い技術が未来を救うことがある
次回は、後継者不足の中でも残り続けている“伝統技術”に焦点を当てる。
科学的に見ても合理的な古い技術、
現代の技術では代替できない知恵、
そしてそれらが未来の食材をどう支えるのか。
伝統は過去の遺物ではない。
未来をつくるための“技術の種”でもある。